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ファイエルベルクの祈祷師《2》  作者: 小野田リス
19/20

終章1/2〜結婚式を執り行いました、再び。

祈祷師協会本部は、石畳の円い広場に面している。


その広場を囲む建物の中では最も大きく、歴史も古い。煉瓦積みに化粧漆喰で外壁を石造りのように見せているものが多い中、祈祷師協会本部の建物は本物の切り石を積んで建てられており、その白灰色の外観はホーエンベルク神殿を彷彿とさせる。


その重厚な建物の、木製の大扉が開かれた入り口の真ん中に立ち、司祭長ミゲルは、祭りで賑わうこぢんまりとした広場を見渡した。


「せっかくだし、立会人はたくさんいた方がいいよねぇ。」


ミゲルは、『司祭長がこんなところにいるとは何事か』と周りに集まってきていた人たちに、宣言するように声を放った。


「山の神の子らよ!これより、祈祷師ローレルとその婚約者フィアンセハナとの結婚の儀を行う!」


「おい、適当に人寄せすんなって!」


慌ててローレルが止めようとするも、すでに声かけに応じてさらに大勢の人が集まってきた。


「ローレル、適当ではないぞ。この街におまえのことを知らん者など、おりゃせんからな。」


確かに、にこやかに彼らを取り囲むのはローレルの知った顔ばかりだ。


「ハナもそうだが、とくにおまえはこの街の人にはたくさん世話になってるだろうからねぇ。」


そういってミゲルは意味ありげに微笑みかけた。


「おまえのお父さんは実に温厚な人物だったが……そこへいくとおまえはホント手のかかるやんちゃ坊主で……」


司祭長の昔話に『そうだった、そうだった!』『昔、俺の弟はそいつにずいぶん泣かされた』『つい最近も、うちの亭主が酔い潰された』と、わいわいと笑いながら賛同する人々の声がそこかしこから聞こえてくる。



そんな騒がしい参列者たちの思い出話を耳にして、緑色の祭服カソック姿のクリスがぼそっとつぶやいた。


「……確か、ホーエンドルフの星だとか人気者だとか、豪語していたよな。」


「人気者かどうかは分かんないけど、実際、有名人ではあるよね。」


ラドルが小声で応じる。


「ついでに言うと、ローレルが酔って寝ちゃった先へはいつもハナが迎えに行くから……二人とも有名人だよ。」


幼い頃から培ったハナの能力は、フェリスを守るだけではなく酔っ払いの捜索にも役立っていたようだ。



クリスとラドルが小声で言葉を交わす間にも、ミゲルはサクやフェリス、祈祷師協会の面々に次々と指示を与えて挙式の場を整えていく。サイラスはその様子をせっせと手帳に書き記し、合間を見計らっては司祭長にいろいろと尋ねている様子だった。


あっという間に、祈祷師協会の入り口から円形の広場に向かって、白いクロスを掛けられた教壇が設えられた。その上には水の入ったグラスがひとつ置かれている。そして、艶のある重厚感漂う大扉を背に祈祷師たちが司祭長の両隣に整列した。フェリスは、その端っこに立たせてもらう。


「では、ハナとローレルはそこに立って……こっち向いて……はい、オッケー。」


司祭長に言われ、彼らの立つ場所から5つの石段を降りた石畳の上にローレルとハナは並んで立った。


緋色の派手な色の外套と、美しい紺青のドレスが並んだ後ろ姿は、遠くからでも目を引くものだ。いつまでも暮れない明るい夕べを屋台めぐりで楽しんでいた見知らぬ人々も、道行きの足を止めて彼らを見守り始める。


ダンが、協会本部の納戸から出してきた錫杖しゃくじょうを司祭長に手渡した。杖の頭には金色の六芒星がついており、そのかどには全て、金色の鈴が付けられている。


ミゲルが錫杖の先でトンと軽く地面を打つと、6つの鈴が『シャン!』という小気味良い音を響かせた。


「山の神に結ばれしえにしは 清く尊き血の泉より湧き来たりて……」


厳かな声の後に、再び『シャン』と錫杖の鈴が鳴る。


「健やかなる時も 病める時も」


シャン!


「富める時も 貧しき時も」


シャン!


「喜びの時も 悲しき時も」


シャン!


「死が二人を分かつまで 堅く繋ぎ止めるものなり」


シャン!


「互いに慈しみ、敬いて 愛と真心を尽くせし誓約をもって 汝の血 山の神に返さん……」


シャン!


司祭長は言葉の最後にもう一度錫杖を打ち鳴らし、いつもの楽しそうな声の調子に戻って二人に問いかけた。


「ローレル、どうだね?」


「もちろん、誓う!」


宣言するように、大柄の祈祷師はいつもの大きな声を響かせた。そんな花婿の言葉に『うむ』と大きく首肯し、続けて彼の隣に立つ凜とした面立ちの花嫁にも訊ねる。


「ハナ、おまえはどうだい?やめるなら今のうちだよ。」


「私も誓います、司祭長様。」


ミゲルの余計な一言にムッとしたローレルが何か言い返すよりも早く、ハナははっきりとした声で誓いを立て、”夫”となったその人に柔らかく微笑んだ。


司祭長は満足気まんぞくげに二人を見やった後、錫杖を持っていない方の手で水の入ったグラスを持ち上げ、聖峰ホーエンベルク山が聳え立つ西の空へと掲げて頭を垂れた。


同調するように、祈祷師たちや集まっていた街の人々も目や顔を伏せ共に聖峰に祈る……二人に幸あれと。


「この水を二人で飲んで……まずはハナからね。」


ミゲルに言われた通り、渡されたグラスの水をハナとローレルが二人で飲み干す。


「神の祝福の儀を終え、ここに今、新たな夫婦が誕生した!」


司祭長ミゲルは、空のグラスを高く掲げて宣言するように言った。そして、新郎新婦に満面の笑みを向ける。


「ハナ、ローレル。今この時から、おまえたちは夫婦となった。おめでとう……お互いを大切にね。」


ミゲルの言葉に答えるように、二人は顔を見合わせ互いに微笑み合った。


と、ローレルはいきなりハナを高く抱きかかえて広場を振り返った。


顔を真っ赤にして戸惑うハナを片腕で抱き上げたまま、周りに集まっていた見物人に誇らしげな笑みを向けた。


「みんな、どうだ!俺の女房だ!」


「やっとか!おめでとう、ローレル!」


「おまえにはもったいない美人だよ!」


「ハナがこの街に落ち着いてくれて良かったよ……他に誰が赤マントの面倒みるってのよ。」


「まったくだよ!いやぁ、ありがたい!」


「二人ともお幸せにな!」


見守っていた人々から祝福や安堵の言葉が飛び交い、拍手や笑い声が起こる。その様子を、フェリスはにこやかに眺めていた。本当に、この夏至のお祭りの日に大好きな二人がついに結ばれた。すべて予定どおりに物事が進んだわけではないが……


「ハナの故郷の言葉を思い出すわ……『終わりよければすべてよし』ということね!」


ホーエンベルクの山の端を掠めて差し込む西日は、より眩しく広場を照らす。日の沈みかけるほんの一刻、その黄金色の光はあらゆるものをひときわ輝かせた後、明日も晴れわたる空が広がることを予感させながらゆっくりと暮れていった。


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