第7話
村に戻った俺たちに待っていたのは、村長からのお褒めの言葉と説教だった。まぁ、ゴブリン全滅させて怒ることはないとは思うが、やはり一人で行ったのは危険だということで……。まぁ村長からしてみれば、俺が死ぬことよりシェネルが旅に行けなくなることの方がショックらしいが。
村長の説教も終わり、まだ楽しんでいなかった宴を楽しむために、村の中心へ行ってみたが、もうみんな酔い潰れていた。
「……ジュースでも飲むか。」
樽のなかに入っていた大量のオレンジジュースを一杯飲んだ後、俺はその場に腰を下ろす。
「もし朝目覚めたら現実に戻ってましたなんてことないよな。」
「ないですよ?」
「そうか、なら安心……ってうぉ!?」
俺の隣にはいつの間にかこの世界の神様的存在である玲奈がちょこんと座っていた。
「楽しいですか、この世界?」
首を傾けて尋ねる玲奈に、俺はただ「ああ。」と笑って返した。
「なら良かったです。じゃあゲームを始めましょうか!」
そう笑いながら玲奈がパチンと指を鳴らす。途端に俺の身体に激痛が走った。
「うぐっっああぁぁいあやぁ!!」
「すいません夏さん。でもヘブンズタイムとかその他いろいろ反則すぎますんで……。」
話の途中で俺は意識を失った。
……………………………………
「夏さん……夏さん……起きてください!」
遠くで誰かが俺を呼ぶ声がした。あれ?俺寝ているのかな?身体を起こそうと試みるが、言うことを聞かない。
「おーい!夏さーん!」
よし!せーので起き上がろう……せーの!!
「グホッ!!」
何だろう。この起き方こないだ……いやつい昨日にもあった気がするが……。俺の隣でうずくまるシェネルを見てそれは確信に変わった。
「毎度毎度その起き方なんとかならないんですか?」
涙目でシェネルが言う。
「すまんな。勢いつけすぎた。」
「それはいいんですけど、もしかして今までここにいたんですか?寒くなかったんですか?」
もうすっかり明るくなっていた。青い空には何体かのドラゴンが飛んでおり、その雄叫びが朝が来たことを村に告げていた。
「俺、朝まで寝てたのか……。そういやシェネル、昨日はホントに悪かった。」
「い、いえ、私の方が最初にからかったのですから……。そ、そういえば村長が今日にでも出発しろと言うのですがどうしますか?」
「んー、まぁいいんじゃないか?いてもあんまりすることないし。」
俺は立ち上がると妙な違和感がした。なんとも言いづらいが、身体が重いというかなんというか。
「どうかしたんですか?」
シェネルが俺に心配そうに声をかける。「いや」と返答して俺は家の方へ歩き出した。
「とりあえず必要なものだけ持って行こう。重くなっても面倒だしな。」
そう言った矢先、クリアは大量の荷物を俺の前に持ってくる。中身は漫画だのゲームだのサッカーボールだの……何故そんな近代的なものが急に現れたのかはわからないが、早速俺は炎で燃やそうとした。
「……あれ?」
おかしい、炎が出ない。ちゃんと呪文?も唱えたが全く出る気配がない。もしかして……これヤバイんじゃ
「どうしたんですか夏さん?顔が真っ青ですよ?」
ヒョイと俺の前に顔を出すシェネル。だが俺は何も言うことができなかった。
「もしかして炎が使えなくなったのか?」
クリアに言われてドキッとしたが、「いや、別に」と何事もなかったかのように隠した。
「あれ?これなんだろ?」
気を紛らわそうと自分のバッグを漁っていた俺の手に何やら薬などとは違う感触が伝わってくる。取り出してみるとそれは辞書のような分厚い本だった。
恐る恐る一ページ目をめくってみる。「これを見つけたということはゲームはもう始まっています。とりあえず今までみたいには炎も雷も時を止めることもできないので剣とか弓矢で頑張りましょう!ちなみにこれは魔道書でして、一定のレベルになると使える魔法が出てきます!」
……実にふざけている文章だ。なんだレベルって。ゲームかここは?てか、俺はこの世界にゲームをしに来たわけじゃないんだが?それに生身の人間に剣とか弓矢使えと?銃刀法違反だろおい。
続けて二ページ目、三ページ目とめくっていったが全て白紙だった。
「何してるんですか?」
俺の見ていた魔道書をシェネルとクリアが覗き込む。慌てて隠したつもりだったが少し遅かったようだ。
「え!?夏さん魔法使えなくなったんですか!?」
「うっ」と言葉に詰まる。
「じゃあもうただの夏さんだね」
すごい屈辱だが、そう呼ばれても仕方ない。
「と、とりあえず武器さえあればなんとかなるからさ!村長たちには言わないでくれ。」
もしバレたりしたらタダじゃ済まないだろう。あれだけのことをしたんだ。多分……いや絶対に殺されるはずだ。
「まぁ、二度助けられましたし、別に他の人には言ったりしませよ。」
クリアとシェネルは互いに顔を見合わせて頷いた。クリアにはかなりのことをした気がするが、本人は気にしていないようだった。もしかしてドMなのだろうか。
「ならバレる前に早くこの村を出ましょうか。」
俺とクリアはコクリと頷いた。
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村長や村の人たちに挨拶を済ませた後、俺たち三人はそそくさと村を出た。村長の「何か隠してないかい?」という言葉にはしょうじき冷や汗をかいたが、まぁバレなかったので良しとしよう。だがいきなり村を出た今、俺たちはどこへ向かえばいいのだろうか。所持しているものは食料、薬、僅かな金、そして魔道書。
「とりあえず大きな街に行ってみましょう。確かアルストナとかいう街が村の近くにあったはずです。」
しまった、地図を持ってくるのを忘れたと思ったが、何度か行ったことがあるので道は覚えているという。とりあえずそこで地図を買えばいいだろう。
アルストナという街は近いらしいが街の手前にある森を越えなければならないらしい。もし炎が使えてたら全部燃やせていただろうか。
「あ、あの森です。」
シェネルが指差す方には予想していたのとは全然違う、なんというか輝きがあった。ゴブリンとは違うモンスターも出てきそうになくホッと一安心する。
「あ、でも夜になったらブラックウルフとかマーリンタイガーとか出てくるので早めに抜けましょうか。」
いかにも強そうな名前のモンスターを聞いて、俺とクリアは急ぎ足で森の中へ入った。後をシェネルが追ってくる。
森は見た目とは裏腹に結構深いようだった。外から見た森とは全然違い、中はかなり暗い。モンスターらしいモンスターにはまだ出会っていないが、ダラダラしていると本当に遭遇しそうな雰囲気だった。