第6話
ドンチャンドンチャン村の中心から聞こえてきた。俺はあれから数時間うつ伏せの状態だったらしい。村長もドラゴンも良心というものがないみたいだ。
俺はむくりと起き上がるとシェネルの部屋に行った。まだ引きこもっていたらとりあえず宴に連れて行くのは俺の役目(多分……)だ。
だが部屋にはいなかった。
「まぁあれだけ楽しみにしていたのならさっきのことも忘れてるか。」
続いてクリアが連れて行かれた部屋を訪れる。が、こちらは宴のことなどどうでもいいようだ。
多分いい夢でも見ているのだろう。ヨダレをダラダラ流しながら熟睡中だった。
俺は気絶させたことも忘れ、クリアの頭に蹴りを入れた……が全く起きる気配がない。
「ファイヤーボール……。」
小さめの炎を手の上に作り、クリアの顔に近づける。
十数秒ほどして、彼女から汗が流れ始めた。
数分後には呼吸が荒くなり始める。
「あっっっっっぢぃぃぃいいぃい!!!!!」
見事なまでにクリアは飛び起きた。そして天井に突き刺さる。ある意味俺は感心?した。
「いつまで寝てんだ?宴始まってるぞ?」
「そんなもん行って何になるんだぎゃぁぁぽぉぉぉあぁぁ!!!」
生意気なクリアの頭を俺はまた握って持ち上げる。
「行くよな?」
「行ぎまず行ぎまず行ぎまずがら早ぐごのでをはなじてぐだざい〜〜!」
最初の「行ぎまず」から聞いてなかった俺はそのままクリアを宴の方へ連れて行った。
……………………………………
「おぉ、やっと起きたか。」
そう迎えてくれたのは村長だった。
「えぇ、おかげさまで。」
「そんな不機嫌な顔しなくてもいいだろうに。おや?クリアも連れてきたのかい?」
「はい、どうしても来たいと言って聞かないので仕方なく……。」
気絶寸前のクリアに目をやって俺はそう言った。
「そうかそうか。お前らの席はあそこだ。」
そう指指したのがシェネルの席の隣だった。しっかりと席に名前の札まで置かれていた。
「よ、よぉシェネル。」
俺は目の前に立って声をかけたが無視された。
もう一回声をかけてみたが案の定同じ反応だった。
仕方なく俺はクリアとともに隣にそっと座った。
真ん中の方では何やら盛り上がりを見せているが、ここだけすごく重い雰囲気になっていた。
「クリア、これ美味いから食ってみろよ。」
「無理……頭痛いから寝る。」
ここに来て自分の行動に後悔する。もう少し緩めておけばよかった。
「シェネル……。」
俺がシェネルの方を向きなおすと同時に彼女も反対側を向く。
村長すいません、多分シェネルが旅を受け入れてくれないと思います……。
「おーい、みんなちょっと聞いてくれ!」
俺がそう思ったそばから村長が立ち上がる。
「もうみんな知ってると思うが、今日の宴はシェネル……とクリアが旅に出るというもんだ。精一杯祝ってやってくれ!」
「おぉぉー!」と雄叫びがあちこちから聞こえる。隣のシェネルはただ一人キョトンとしているみたいだが……。
「驚いたかい?」
近づいてきたのは村長だった。
「お、おばあちゃん、一体……。」
「この異世界のお兄さんとやらに頼んだんだよ。お前に世界を見せてやってくれってな。」
少々荒っぽいこともしたりされたりでしたけどね……。
「で、でも村のことはどうするの?私がいなかったら困ることもたくさんあると……」
「役立たずの暇人が何言ってんだい?」
「うっ」と詰まる彼女に思わず笑ってしまった。
「でもなんでこの人と一緒なのよ!クリアはともかく……」
「なんか色々使い勝手が良さそうだからいいと思うぞ?」
本人の前でそういうのは言わないでほしい。見えない槍が俺のガラスのハートを貫いた。
「そ、そう……まぁなら仕方ないか……。」
こんなにボロクソに言われてなんで一緒に行かなければならんのかイマイチサッパリだが、二人ともいい顔をしているから良しとしよう。
グォォォグォォォ!!!
せっかくのいい雰囲気で荒げた声を出してきたのは、ついさっき俺を苛め尽くしたレッドドラゴンだった。
「おやおや、お前も祝いたいってか?」
しかしドラゴンは村長の手を振り払うと俺に近寄ってくる。
「夏、すまんが手を貸してくれ。」
そうか、こいつは俺としか話ができないんだったな。
「どうかしたのか?」
「ゴブリンだ。しかもさっきの比じゃねぇ!軽く10倍はいる。村長たちにも知らせて……」
そこまで聞くと俺はどらごの口を閉じた。
「とりあえず黙って連れてけや。」
そう言うとなぜかクリアを持ち上げ、ドラゴンの背中に乗った。
「ちょ!夏、どこ行くの!?」
「クリアとデートだ。お前は村長とイチャついてろ!」
俺がそう言うとドラゴンは飛びたった。
「いいのか夏?一人じゃ手に負えない数だぞ?」
「まぁいざとなったらこいつを身代わりに使うさ。それに奴らが用あるのも多分俺だろ?あんだけやっちゃったんだから。」
「……は?なんで私飛んでんの!?」
まさかの状況に慌てるクリア。面倒臭いから連れてきたのは失敗だったかな。
「あれだ。」
もし赤く燃えてるものがゴブリンたちの持っている松明なら、かなりの数だろう。平地から山まで続いていた。
「これはこれは……あんなにいたんじゃ村なんかひとたまりもないな……。降ろしてくれ。」
ドラゴンは俺の指示通り俺とクリアを地上に降ろした。
「本当に一人でいいのか?」
「村長たちには心配するなって伝えといてくれ。お前も簡単な字かジェスチャーくらいはできるだろ?」
そう言うとドラゴンは村の方へ急ぐように飛んで行った。
「ふぅ……。」
一つ呼吸して、改めて敵を確認する。これは何千とかいう単位じゃないな……。
「どうするんですか異世界のお兄さん?」
俺に担がれているクリアがニヤニヤしながら俺に聞いてきた。
「なんでお前そんなに嬉しそうなんだ?」
「いやいや、この数をどう料理しちゃうのか見ものじゃないですか!下手したらされちゃうかもしれグホッ!!」
最後の方が気に入らなかったので、頭から地面に叩きつけた。
「まぁ、向こうが一斉攻撃してきたらひとたまりもないわな……。」
「と……とりあえず私逃げていいですか?」
「は?バカ言ってんじゃねぇよ。」
逃げようとするクリアの襟元を俺は掴んだ。
「とりあえずお前、行ってこい」
「はい!?」
俺の言葉を理解できなかったろうクリアは敵の中に投げ入れられた。途端に目の前のゴブリンが騒ぎ出す。
「お、きゃー!おぼえ!……うほっ!とい……あぶなっ!ヤバ!このやろー!」
途切れ途切れにクリアの声が聞こえる。とりあえずは軽く大丈夫みたいだ。
「よし!ファイヤーボール!!」
クリアに気を取られているゴブリンどもにおれはすかさず炎を放つ。敵がこっちに襲ってくることもないので、前回以上に楽そうだ。ゴブリンたちの「ギャボァアア!」とか「ポゲァョァ!」とかいう声に混じってクリアの声も聞こえるが、この際聞こえなかったことにしよう。
「ヘブンズタイム!」
俺がそう唱えた瞬間に周りの時間が止まる。本来ならこの間に倒せると思ったが、制限時間とかがあっても困るので、とりあえず別のゴブリンの集団にクリアを投げ捨てて時間を動かした。
途端に「ウギャァァアァ!」というクリアの声が辺りに響く。そろそろ面白くなってきた。
それを何回か繰り返しているうちに、ゴブリンの数は大分減ってしまったようだ。ジリジリと山に後退し始める。
「この際全滅させるのもありかな……見た目キモいし。」
その見た目がキモいという理由で俺はクリア丸ごと炎をぶつけた。ゴブリン以上にクリアの声が聞こえるが……まぁ心配ないだろう。
「…………あっけな。」
広々とした原っぱには俺……と死にかけのクリアがいるだけだった。
「…………帰るか。」
俺は倒れているクリアを地面に引きずりながらその場を後にした。
呼んでくれた方ありがとうございました!
次回から主人公弱くなっちゃうので、もう少し楽しめると思います!
応援お願いします!