第3話
「よっと!!」
レッドドラゴンの背中から降りた俺は、改めてゴブリンの大群の方を向く。
「……やっぱ多いな。」
「当たり前でしょう!私たちだけじゃ無理に決まってるじゃないですか!」
シェネルがドラゴンの上からギャーギャー騒いでいるが俺は無視した。
「お前はとりあえず村の連中連れてこい。俺が食い止めといてやるから。」
「何厨二病発言で決めちゃってるんですか!夏さんこそ逃げてください!」
この世界にも厨二病という発言があるのかと俺はため息を吐いた。
「シェネル、言葉に気をつけろ。俺は厨二病じゃねぇ……。ただ夢を追いかけているだけだ。」
こんな状況でもシェネルは口をポカンと開ける。
「レッドドラゴン、そのバカ早く連れてけ!」
ドラゴンは長い首をブンっと縦に振ると、シェネルを乗せ急上昇する。この世界では人間よりもドラゴンの方が話が通じるみたいだ。
「さて、バカもいなくなったし、足止め程度に頑張りますか!」
大群のゴブリンの前に立ちはだかる俺は、何故かあまりビビらなかった。むしろ興奮の方が勝っていたかもしれない。
「ファイヤーボール!」
とりあえず先制攻撃で敵の何体かを消滅させる。
(なんだ?意外とたいしたことなくね?)
「ファイヤーボール!ファイヤーボール!!ファイヤーボール!!!」
連発して魔法らしきものを使う。敵は「ゴギャァァ」だの「ギャポォォ」だのと叫び声をあげながら、バッタバッタと倒れていく。本当にこんな奴らにドラゴンが負けるのか……。
「あれ?」
ゴブリンたちは、俺に恐れ入ったのか山へ逃げていく。
追いかけても良かったが、そこまでするほど俺には敵対意識がないので、ただ見送った。
「結局、村の人とか必要なかったな……。」
そう思った直後に応援が駆けつけてくる。終わった直後に応援が来るのは確かに定番だが、わざとやっているのだろうか。
「夏さん!応援連れてきましたよ!」
「そうか、それなら今すぐ撤退させろ!」
「了解…………はい?」
シェネルは辺りをキョロキョロ見渡した後目をキラキラ輝かせて近づいてきた。
「も、もも……もしかして!やっちゃったんですか!?」
「いや、余裕すぎてやったって言っていいのかわからんが……。」
「あ、あのゴブリンをこんな短時間で蹴散らすなんて……さすが玲奈様に連れてこられただけのことはありますね!」
玲奈様と聞いて、村の連中が騒然とし始めた。あんなちびっ子がこの世界ではそんなにすごい人物だったとは……。
「シェネル、その人が村の近くで見つけたっていう子かい?」
村人の中から一人の女性が前に出てくる。青い瞳を持ち、背が高く、俺の世界にいたらまずトップモデルだろう。
「あ!おばあちゃん!」
……は?おばあちゃん!?!?
「シェネル……流石にそれは失礼じゃないか?」
「え?私のおばあちゃんだよ?歳ももう80超えてるし。」
外見では完全にど真ん中ストライクだった。人は見た目で判断してはならないとはこのことを言うのだろうと俺は改めて実感した。
「……ゴブリンの大群を一人で追っ払ったのかい?」
「え?……そうですけど?」
「……そうか。」
そう言うと美人な女性は群衆の中に戻り、何やらヒソヒソと数人に話し始める。
(俺、何か悪いことしたかな……)
シェネルの顔を見てみるが、俺と目が合うと、ただニコニコ笑うだけだった。