第1話
今日も新しい一日が始まる。
高校の校門を全速力で駆け抜け、階段を二段飛ばしし、教室へ走る。
「閃光の一撃をくらいやがれー!!」
俺は教室に入ると、奥の席に座っている友人へ突っ込んだ。
「ごふっ!?て、てめっ、ふざけんなよ毎度毎度!?」
友人は机を支えに使って、よろよろと立ち上がろうとする。
「フハハハハッ!やはりお前の能力で俺に勝ち目はないようだな!」
「……勝手にしてろ厨二病。」
そう言うと彼は自分の席に着いた。
「なんだよ、釣れねーやつだな。」
友人のつまらない態度に呆れた俺、夏は別の友人に向かってまた突っ込む。
「っざけんな厨二!!」
そして同じような反応を食らう俺。それが俺の一日の始まりである。
「ねぇ夏。そろそろ厨二卒業したら?」
毎度毎度お節介ババァのように俺の心配をしてくれているのはクラスメイトの真紀だ。
「はぁ?っざけんなよ。お前らには夢がないんだよ!夢がっ!!」
俺の素晴らしすぎる言葉に感動しているのか呆れているのかはわからないが、ため息をつきながら俺の肩をポンと叩くとその場を去る彼女。
全くこの世界は腐り果てている!!
毎日こう思ってしまう俺は正直この世界にうんざりだ。俺の常識が通じる世界がほしかった。
「…………おい!夏!聞いてるのか!」
そんなことを考えている間にいつの間にか一時間目が始まっていた。
「なんですかぁ?」
「この問題、解いてみろ。」
教壇の上に立つ先生が黒板を叩きつける。俺は先生の前に立つと、チョークを取り上げ、黒板に解答を書き始めた。
「なっ!?え……せ、正解だ。座れ……。」
習ってない範囲の問題で俺を困らせようとした先生の今の顔を見なくても想像がつく。
「お、おい夏、三角関数とかまだ習ってないのになんで解けるんだよ!」
俺の周りの奴らが驚きの表情で聞く。どうせ「先取りしたから」とか「塾で……」とか期待してるんだろう……が、生憎だが俺はそんなに勉強が好きなわけではない。
「サインコサインってかっこよくね?」
俺の発言に目を二度瞬きさせる彼らは俺を哀れみの目で見つめ出す。
本当にこの世界はどうかしている。
まぁそんなわけで、俺は人曰く厨二病ってことでクラス……いや学校全体から一目置かれていた。
「なぁ夏……。」
また俺はボケーっとしていたみたいだ。いつの間にか授業が終わっていた。
「お前、いつからそんなになったんだ?」
哀れみの目で俺を見ながら友人が言う。
「そんなにとは失礼だな。俺はいたって真面目なつもりだが?」
「厨二病は自覚していないって本当なんだな。」
一人で喋って一人で納得する友人に俺はむっと顔をしかめる。
「お前さぁ、夢とかないだろ?」
「ゆ、夢!?」
「例えば炎を操ってこの世界のヒーローになるとかさ、隕石に乗って宇宙旅行とかさ、お前にはないわけ?」
友人は黙り込んでしばらく考え込んでいたが、俺を見てため息をつくと自分の席に戻っていった。
そんな俺にも毎日楽しみにしていることがあった。家の近くの公園……そこには小さい子供たちが世間でいう「戦いごっこ」をしていた。そこに参戦するのが俺の日課である。
「ファイヤーボール!!」
「なんの!!ライトニングサンダー!!」
俺の技に怯むことなく、ちびっ子たちは俺に襲いかかる。
やっぱこいつらはいい。夢がある。永遠にこういう夢を持っているように俺が教育せねば……。
「あら夏君?今日も子どもたちと遊んでくれてたの?」
5時になるといつもちびっ子たちの母親が迎えに来る。母親たちは俺を厨二病だとは思わず、ただ「こども好きの優しい高校生」としてみてくれているようだ。まぁ、それはそれで俺のクラスメイトよりは幾分マシなのだが。
「夏兄ちゃん!明日はもっとすごい必殺技考えてきてよ!」
「おう!任せとけっ!」
ちびっ子たちに手を振ると、俺は一人寂しくベンチに腰を下ろした。
「この世界は腐敗しすぎている。」
俺は赤く染まる空を見つめながらそう呟いた。
「ならお兄さん、この世界を捨てる覚悟はありますか?」
突然の声に俺はビクッとする。横には小学生くらいだろうか。銀髪の可愛らしい少女がいつのまにかチョコンと座っていた。
「お兄さんはこの世界を捨てる覚悟がありますか?」
「お、おぉ!……おおぉ!!」
俺は多分今ものすごく興奮している。なぜか、それは目の前の可愛い少女が恥じらいもなく、ものすごくかっこいいことを言っているからだ。
俺は咄嗟に少女の手を掴み取る。
「一緒に行こう!この世界を捨てて、新しい世界へ!!!」
少女は一瞬動揺を見せたが、すぐに俺に笑顔を向けた。
「わかりました!では早速行きましょう!」
少女は俺の手を離すと、急に抱きついてきた。
「ワールドジャンプッッッ!!!!」
お、おぉ!かっけー!……そう思ったのも束の間、俺の景色がみるみる変わっていく。
「す、すげぇ!すげぇすげぇ!!なんだこれ!本当に世界が変わって見える!」
「変わって見えるんじゃなくて、本当に変わってるんですよ。」
俺は思う。この少女は俺と同等……いやそれ以上の存在だ。ここまで人間に秘められた力を具現化するとは……。
「師匠!!」
「ほぇ?し、師匠!?」
突然の俺の発言に驚いた表情をするが、すぐに笑い返す。
「さぁ、もうすぐ新世界へ到着しますよ!!」
………………………………………
「うぉっ!?」
ドスンと俺は草むらに尻もちをついた。
あたりを見渡す俺の視界に飛び込んで来たのは、ついさっきまでいた公園ではなく、あたり一面緑で覆われた大草原だった。
「ここは…………」
「新世界、『チェインマカランナ』です!」
ヤ、ヤバイ!?興奮しすぎて俺おかしくなったんじゃねぇか!?
「ではお兄さん、さっきの子どもたちみたいになんかやってください!」
少女は目を輝かせて俺にそう言う。
「よっしゃ見てろよ!行くぜ!ファイヤーボール!!」
少女の言うがままに右手を差し出して俺は言った。だが俺は予想していなかった。まさかこの俺が赤い炎を出せるときがくるとは……。
「おぉ!……おおぉ!!…………おおおおぉ!!!」
驚きと喜びの混ざった表情が俺の顔に現れる。
「これが……新世界……。」
「どうですか?」
少女は首を傾げて俺に微笑む。
「っっっっっさいっこうだ!!」
ファイヤーボール!ファイヤーボール!!ファイヤーボール!!!
ヤバイ、楽しすぎる。これは夢か?夢なのか?夢なら覚めないでくれー!
「心配しなくても夢じゃないから覚めませんよ?」
俺の心を読み取ったのか、彼女は俺にそう言った。
「キャッッッホーーーイ!!ライトニングサンダー!!」
そう言った途端、俺の手から雷撃が飛び出る。俺はまるで神になった気分だった。
「ありがとな……えっと…。」
「あ、申し遅れました。私は玲奈といいます。」
少女はペコッと頭を下げる。
「ありがとな玲奈ちゃん。俺をこの世界に連れてきてくれて。」
「いえ……多分そのうち前の世界が恋しくなると思いますが、本当にあちらの世界を捨てて構わないんですか?」
「ファイヤーボール具現化できるんなら俺はそれでいいよ。」
俺はまたファイヤーボールを連発しながらそう言った。
「はぁ……わかりました。ではこの世界で頑張ってください。」
そう言い残すと、玲奈はすぅっと消えていった。
「ファイヤーボール!ファイヤーボール!!……え?」
さて、一人残された俺はどうすればいいのだろうか。
…………まぁ、なんとかなるだろ。
俺はまたファイヤーボールを連発しながら、とりあえず適当に歩き始めた。
読んでいただきありがとうございます!
素人でまだまだ未熟ですが読んでいただけると嬉しいです!