3話:出会いってマジすか
今日は入学式である。流石にマンモス校とだけあり、異様に校舎がでかい。さらに、行き交う生徒は当然ながら、女の子である。
実際夢のような体験なのだが、ばれた時どうしようという不安しかない。
校門をくぐりまっすぐ行ったところに1年生の下駄箱がある。そこに、クラス分けの名簿が張り出されている。
(こういうの本当はわくわくしながらクラス確認するんだろうが…不安しかねぇ…)
クラスを確認する。
どうやら、俺は1年A組らしい。1クラス約40人編成で、A〜Jクラスまであり、1年生だけでも約400人もの生徒がいる。更にAクラスに行けば行くほど優秀であったりとか、入試の点数がいいだとか、1芸に長けていたりするらしい。
そんな中、どうしてバカな俺が優秀なAクラスにいるのかというと…
無論、元生徒会長である百合姉さんの力である。
(この学校の生徒会長ってどんだけすごいんだよ…)
流石に元生徒会長である百合姉さんの推薦人物とあってか、自分が注目されているのがわかる。女の子達に注目っていうのも悪くないのだが、俺が男してではない、尚且つ事情が事情なだけに俺はクラスを確認して、この場を後にする。
自分の下駄箱の位置を確認して、ローファーを中にしまう。
流石に女子校とあってか下駄箱の位置は低めに設定されてある。俺自身も身長162cmと男子として見たら小さい方なので、ありがたい。
早速教室へと向かおうとした瞬間…
「ちょっと!そこの下駄箱、私の場所なんだけど。」
後方から声がかかった。
振り向くと、一瞬桜を包んだ暖かい春の風が俺を通り越したように感じた。
そこには…美少女がいた。髪の毛は茶色いロングでそれをシンプルなゴムで止めポニーテールにしている。目鼻立ちは整っており、猫目で可愛らしい。背丈は俺より少し低いくらいであろうか?158くらいである。
その可憐な容姿に暫し見入ってしまった。
「ねぇ…ねぇ!ねぇってば!聞いてる?そこ私の下駄箱なんだけど!」
そう促されてようやく自分を取り戻す。
言われた通り確認してみると自分の下駄箱は隣であった。
「あ、あぁ!ごめん!じゃなくて…ごめんあそばせ?ちげえな…すみません?」
女言葉は慣れない…動揺を隠し切れてないのか顔が赤くなるのを感じる。
それを見ていた彼女はおかしかったのか。笑っていた。
「あははっ!何あんたおかしい。」
彼女は爆笑していた。
そんなに、笑わなくてもいいじゃないか。こっちも慣れない言葉に困惑しているのだ。容姿に一瞬ドキッとしてしまった心を返して欲しいくらいである。
やはり、俺の中の天使は百合姉さんだけだなと、自分自身再確認をする。
「あなた面白いわね。私は、秋山 紅葉。下駄箱隣ってことは教室の席も隣同士よね?よろしく。あなたは?」
自己紹介をしてきた。俺も礼儀として返さない訳にはいかないので自己紹介をする。
「お…じゃなくて、私は、春野 美樹。これからもよろしく。紅葉でいいかな?」
慣れない女言葉で話す。何か違和感しかない。
むしろ、言葉が成り立っていない気しかしない。
「あなた本当面白いわね。慣れない言葉使わないでもいつも通り喋ってくれてかまわないわよ。あなた髪も短いしボーイッシュって感じだし。
オッケーよ。逆に私も美樹って呼ぶわね。」
紅葉が爆笑しながら答えてきた。
ダメだ。紅葉…こいつ腹立つ。
ちょっと顔がいいからって調子に乗りやがって。しかし、同じAクラスって事は相当優秀なのであろう。俺もAだが俺の場合は百合姉さんの力だしな…
「教室同じよね?一緒に行きましょ。それに、美樹ってあなたが…ふーん」
紅葉が何か含みのある言い方で俺を見てくる。
「お…私に何か…?」
また、間違えそうになるのを抑えて質問をする。
「そりゃあ春野 美樹ったら有名じゃない。 だって元生徒会長の特別推薦枠で入ったんですもの。ねぇねぇ!やっぱりあなた、頭とかすごい良かったりするの?」
紅葉がキラキラとした眼差しでこちらを見てくる。
やめてくれ…と心の中で思う。俺は勉強はからっきしだ…スポーツは多少出来るが誇れるほどのものでもない。
「いや…勉強とかはあんまり出来ないよ。何で私が推薦されたのかな?はははっ」
俺は、きょどりながら返事を返す。それを受けて紅葉は、ふーんとそれ以上追求することなく流す。
「逆に紅葉は何でAクラスに?勉強とか?」
紅葉も同じAクラスなのだから何か芸に秀でているのであろう。疑問を投げかける。
そうすると、紅葉が少し、苦い表情で答えた。
「違うよー。私ね弓道が得意なんだ。中学3年の最後の大会で全国2位。」
おぉ、それは凄い。確かにそれなら当然Aクラスであろう。てゆうかむしろそういう人がAに来るべきであって、俺みたいのが来るべきとこではないだろ…と、心の中で自己嫌悪になる。
その質問の答えに対して、俺は率直な感想を述べた。
「2位って凄いね!しかも全国!」
その賞賛の言葉に対して紅葉は、表情が暗くなり、絞り出すかのように答えた。
「なんにも凄くないよ…1位に慣れなければビリと一緒だ…この世界は1位かそれ以外かなんだ…」
紅葉の身体は震えていた。手元を見てみると拳を握り力を入れている。
その姿を見て、俺は投げかける言葉が見つからずただ呆然とすることしか出来なかった。
それ以降、教室に着くまでの間、俺らに会話が生まれることはなかった。