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王の目に映るものは…  作者: 漆原 ともみ
3/3

2話

サムとうさぎ狩りをした後、ウィルヘルムはいつものように、サムの家に向かった。


「今日はウサギの肉のシチューだろうな」


「確かに、シャルロッテが作りそうだ」


2人は顔を見合い笑った。


だが、村の様子がおかしい。たくさんの人が家の周りに集まっている。


「どうしたんだろう?」


「サムが悪さをするから騎士団が来たのかもしれないな」


ウィルヘルムの軽口にサムも、確かにな、と言って笑う。


「エミリアおばさん!」


サムに呼ばれ、エミリアは2人に気が付く。


「サム!ウィルヘルム!大変なことになったよ」


エミリアは目を大きく開き、動揺を隠せていないように見える。


「離してっ!!」


シャルロッテの悲痛な叫び声が響く。

それを聞いたウィルヘルムとサムは顔を見合わせ、人混みを掻き分けて家へと走る。

人混みの先にいたのは、騎士だった。その1人が、シャルロッテのことを掴んでいる。その足元には、サムの母親がしがみついていた。


「やめてください!その子には…」


サムの母親が祈るような声で言う。


「黙らぬか!これは皇太子殿下の命令だ。大体、農民であるお主らの中から王妃が選ばれるのは身に余る光栄であろうが!」


騎士が母親を蹴り飛ばす。


「なっ…」


サムは声にならない声を上げた。


「母さん!」


サムが母親に駆け寄る。ウィルヘルムもサムを追いかける。


「ウィルヘルムくん…」


そう呼ばれたウィルヘルムはシャルロッテの方を見た。シャルロッテは泣いていた。


「シャルロッテ…」


ウィルヘルムは呆然として、どうすればいいかわからなくなる。


「はははっ。随分手間取っているね」


透き通るような声が響く。


「皇太子殿下!!」


騎士の1人が言った。

皇太子は、金髪に白い肌、高い背と整った容姿を併せ持っていた。


…この人なら、話がわかるかもしれない。


ウィルヘルムはそう微かな希望を抱いた。皇太子は、優しく物分りの良さそうな人物に見えたからだ。


「君がシャルロッテか。とても美しいじゃないか。僕の妻にはうってつけだ」


皇太子はシャルロッテを見て微笑んだ。


「嫌です!!私には心に決めた人がいます!!」


シャルロッテが叫んだ。


「元気がいいな。今に、そんなことも忘れるさ」


連れて行け、と皇太子は騎士達に命令する。


「やめろよ!!!」


サムが叫んだ。


「ねーちゃんには、ウィルヘルムがいるんだよ!」


サムは怒りから拳を握りしめ、歯を食いしばっている。


「サム…」


ウィルヘルムが呟いた。


「サム!」


人混みの中から父親が駆けつけて来た。農作業の途中で戻って来たようだ。


「なんで…なんでねーちゃんが嫌がっているのに連れて行かれなけりゃならないんだ!!そんなの間違っている!!!」


サムの両目からは涙が溢れていた。


「ねーちゃんを連れて行くなーっ!!」


サムはシャルロッテに向かって走り出した。

だが、


「無礼!」


騎士が剣を抜き、サムの背中を斬りつけた。


「あっ…」


ウィルヘルムには、声を出すことも出来なかった。


サムは崩れ落ちるように倒れた。


「サ…サム…?」


サムの両親が唖然とし、口を震わせた。


「サ…サ…サム…」


シャルロッテが両目を見開く。


崩れ落ちるサムの姿を、ウィルヘルムはただ見つめているこもしか出来なかった。


…サムが斬られた?なんで…?


赤い鮮血がサムの上着を染める。


「サ…サムぅぅぅ!!!!」


ウィルヘルムは叫んだ。ウィルヘルムはサムに駆け寄る。


「サム…サム…」


サムのことをうつ伏せの状態から腹ばいに直す。


「ウィル…ねーちゃんを…たすけ…て」


サムの顔からは血の気が引いてゆく。ウィルヘルムの心臓の鼓動が早まる。


「サム…」


「お前なら…誰にも…負けな…いだろ…う…」


サムは、ウィルヘルムの頬に手を伸ばした。だが、その手がウィルヘルムに届く前に、サムはこと切れた。


「サム?サム?」


ウィルヘルムがサムを揺すっても、もはや反応はない。


「サム?ねえ、サム!」


ウィルヘルムがいくら呼んでもサムはもう返事をしなかった。


「片付けておけ」


皇太子は騎士の1人に命じると、その場を後にしようとする。


「待てよっっ!!!」


ウィルヘルムが叫んだ。


「サムが…サムが…。なんでサムが死ぬんだよぉぉぉ!!!」


ウィルヘルムは空に向かって叫んだ。


…あいつが、あいつらがサムのことを…。絶対に許さない。


「なんでだよ!なんでなんだよぉぉぉ!!!」


ウィルヘルムの目からは涙が溢れていた。

ウィルヘルムは皇太子を、そして、騎士達を睨んだ。


「サムは…サムは僕の…友達なんだよぉぉ!!」


ウィルヘルムの心の中には、サムの笑った姿が思い浮かんでいた。


「絶対に…絶対にお前らを…許さないっ!!」


その瞬間、ウィルヘルムを中心として、突風が発生した。


「なっ…」


騎士たちはかろうじでその場に留まった。


ウィルヘルムは立ち上がった。その目は、青く輝いている。


ウィルヘルムが懐からナイフを取り出した。

刹那、近くにいた、サムを斬った騎士の首が落ちた。


「はっ…?」


皇太子口をポカリと開けた。


次の瞬間には、騎士達全員の首が落ちる。


10人ほどいた騎士が1分もしないうちに全滅した。


皇太子は腰を抜かす。


「や、やめて…やめてくれぇぇ!!」


ウィルヘルムが近づいて来る。その姿は返り血を浴び、赤く染まりながらも目だけは青く光り輝くという不気味なものだった。


「サムを…」


ウィルヘルムは呟いた。


「なんでサムは殺された?なんでシャルロッテは連れて行かれる?」


その声は、先ほどまで叫んでいたものとは違い落ち着いている。


「あ…あう…あああ…」


皇太子は声を出すことも出来なかった。

ウィルヘルムがナイフを振りかざす。それは、皇太子の右肩を斬り落とした。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!手がぁぁ!!手がぁぁぁ」


皇太子はうずくまり、地の吹き出す肩を抑えながら悶えている。


「お前は…死んでも仕方ないよね?」


ウィルヘルムは冷たく言い放った。

ウィルヘルムは皇太子の首にナイフを突き刺した。


「あ…ああ…」


そう声を漏らしたきり、皇太子は目を開いたまま息絶えた。






一連の流れを、村人たちは黙って見ていた。ウィルヘルムが皇太子を殺してからしばらくして、サムが、皇太子殿下が、などという声がチラホラ聞こえてきた。


ウィルヘルムは黙ったまま、皇太子のことを見つめていた。


「ウィルヘルムくん…」


気が付くと、シャルロッテがウィルヘルムの服の袖を掴んでいた。


「…シャルロッテ」


シャルロッテがウィルヘルムに抱きついた。2人の身長は同じくらいなのでシャルロッテの髪がウィルヘルムの鼻に掛かった。シャルロッテからは女性特有の花を思わせるいい匂いが漂っていた。

シャルロッテは嗚咽を漏らしている。解放されたことに対すること、サムが殺されたこと、ウィルヘルムが救ってくれたこと、たくさんのことが心の中で渦巻いていた。


「僕は…サムのことを助けられなかった」


ウィルヘルムが呟いた。


「僕はサムみたいに強くはない。シャルロッテを助けようとしたのはサムだった…なのに、僕はただ見ているだけだった。あの時も…」


ウィルヘルムの目から一筋の涙がこぼれ落ちた。


「僕は…僕は…サムのことを救えなかった」


「ちっ違うわっ…貴方はサムのことを、私のことを助けてくれたのよ」


「僕が、僕がもっと早く動いていれば…」


ウィルヘルムの瞳からは次から次へと涙が溢れ出していた。


「ごめんね…」


ウィルヘルムはそう呟いた。





































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