1年半越しの事実
アリアちゃんとクレイちゃんと一緒に勉強することになったのでさっき食事をとったテーブルのある部屋に行って椅子に座らせてもらった、椅子が高くなっているのでテーブルを見下ろすことができる。
「アーちゃんとクーちゃんは昨日教えた計算の問題を解いてね」
アリアちゃんとクレイちゃんが座ったのを確認して二人に計算の問題を解くように言いながら自作であろう計算問題の書かれた紙と鉛筆もどきと消しゴムもどきを渡した。
渡したあとは俺の横に持ってきた椅子に腰を下ろして
「トキ君は文字の練習をして自分のお名前と家族の名前を書けるようにしましょうね」
そう言ってまっさらな紙と鉛筆もどきと消しゴムもどきをを俺の目の前においた。
一歳半の息子にいきなり文字を書くなんて何を言っているんだろうと思ったが文字を覚えて損はないので書こうとする。
「先にママがお手本を見せるからそれを真似してみてね?」
そう言って母さんは鉛筆もどきを手にとって紙に「トキニア・ヒュペリオ・ディノール」「アリア・ヒュペリオ・ディノール」「クレイ・ヒュペリオ・ディノール」「アーニア・ヒュペリオ・ディノール」「グレン・ヒュペリオ・ディノール」家族の名前を書いた。
それを俺は興味深そうに眺めていた、なぜなら家族のフルネームを知ったのはこれが初めてだった。1年半近くずっと俺は「トキ」って呼ばれていたしアリアちゃんやクレイちゃんも上の名前だけで父さんは最初に「グレン」と聞いてからは「パパ」か「あなた」としか呼ばれていなかったからである。
「トキ君?書いてみましょうね」
そう言って母さんは名前を書いた紙を俺の目の前においた。
鉛筆もどきはまだ小さい俺の手には大きい鉛筆もどきだがそれでも拙いが文字を書いていく。
そんな様子を眺めていた母さんの表情が固まっていた。
アリアちゃんとクレイちゃんを見てみると問題を解いていた手が止まって俺の方を見ていた。
そんな視線を感じながら頑張って名前を書いた紙から鉛筆もどきを離してテーブルの上に置いた。
「トキ君はすごいね~、ちゃんと書けているわよ」
そう言いながら優しく俺の頭を撫ででくれた。
「ママ、私にも見せて~」
「私も~」
アリアちゃんとクレイちゃんは紙に書いた俺の文字が気になったのか母さんに見せて欲しいと言っていた。
「はい、トキ君が初めて書いた文字よ~」
そう言いながらアリアちゃんに紙を渡した。
「トキすご~い」
見ながらアリアちゃんが褒めてくれた。嬉しいので笑顔になる
「トキが笑った~!」
書いた文字よりも俺が笑顔になったことに興味を持ったクレイちゃんが話しかけてくる。
「はいはい、二人共、問題は解けたかしら?」
二人を俺に対する興味から勉強に集中を戻すために話しかけた。
「もう少しで終わるの」
「もうちょっとなの」
二人共俺に興味を持ちつつも問題は解いていたようだ。
「トキ君はもう少し文字の練習をしましょうね」
そう言ってさっき書いた紙をまた俺の目の前においた。
夕方に近くなるまでアリアちゃんとクレイちゃんと三人で母さんに教わりながら勉強したのだった
☆ ☆ ☆
二人の娘がトキ君と勉強したいと言い出した時はトキ君を近くに置いて勉強を教えた風にして勉強を促そうと考えていた。
「アーちゃんとクーちゃんは昨日教えた計算の問題を解いてね」
髪の色はあの人、目の色と鼻筋は私、口元や輪郭は私とあの人の両方に似ていて時折間違えるのでは無いかと言うほど似ている娘にさっきお昼ご飯の後片付けが終わった後に作った計算の問題を書いた紙とペンと文字を消せるゴムを渡した。
渡した後はトキ君に勉強を教えるフリをするためにトキ君の隣に椅子を置いて腰を下ろした。
「トキ君は文字の練習をして自分のお名前と家族の名前を書けるようにしましょうね」
これも方便で最初から書けることなんて期待していなかった、あの子達が自分の弟も勉強していることを見せて勉強をする意欲を出せるためのものだった。
「先にママがお手本を見せるからそれを真似してみてね?」
教えているように見せるために家族の名前を書いてみる、これを書いてくれるなんて思っていなかった、娘たちも書けるようになったのは2歳を過ぎてからだからだ。
「トキニア・ヒュペリオ・ディノール」「アリア・ヒュペリオ・ディノール」「クレイ・ヒュペリオ・ディノール」「アーニア・ヒュペリオ・ディノール」「グレン・ヒュペリオ・ディノール」トキ君の名前、娘たちの名前、私の名前、あの人の名前を書いて興味を持ったように見ていたトキ君の目の前においた、多分文字を書けるペンに興味を持ったのだろう、ペンを目の前に置くと小さな手には大きすぎたのか覚束無いように文字を書き始めた。
最初は適当に書いているのだろうと思っていたがよく見てみるとちゃんと自分の名前、家族の名前を書いていたのである。
自分の顔が固まっていたのを感じていたがそれよりも1歳半という速さで文字を理解して書いている息子に驚愕に似た感情を抱いていた。
書き終わったあとに何事も無かったようにテーブルにペンを置く動作は普段から文字を書く事に慣れているようにも見えた。
「トキ君はすごいね~、ちゃんと書けているわよ」
私は精一杯の褒め言葉を送りながらトキ君の頭を撫でた、私と同じ銀色の髪、髪の質感はあの人に似ている、私たちの子供だと感じることで一応の平静を保つことにした。
「ママ、私にも見せて~」
「私も~」
娘たちも興味を持ったのか見せて欲しいと言い出した。
「はい、トキ君が初めて書いた文字よ~」
そう言いながら私はアーちゃんに紙を渡した。
「トキすご~い」
紙を見ていたアーちゃんがトキ君を褒めた、文字を書けるという事を純粋に喜んでいるようだ。
「トキが笑った~!」
書いた文字よりもトキ君が笑顔になったことに興味を持ったクーちゃんが笑っていた。トキ君は感情表現に乏しいが笑顔を見せることが多く物に興味を示すことが多い。
「はいはい、二人共、問題は解けたかしら?」
娘たちにトキ君に対する興味から勉強に集中を戻すために話しかけた。
「もう少しで終わるの」
「もうちょっとなの」
二人共トキ君に興味を持ちつつも問題は解いていたようだ。
「トキ君はもう少し文字の練習をしましょうね」
そう言って私はアーちゃんから返してもらった紙をまたトキ君の目の前においた。
夕御飯の支度を始めるまでアーちゃんとクーちゃんとトキ君の三人の勉強を見たのだった。
ニアさんはトキに対して気味の悪さや恐怖に似た感情を抱いているようです。
まぁ、1歳半で文字を理解して書く子が居たら普通はそうなりますよね。
タイトルはそのまま自分の本名、家族の本名がわかると言った内容です。