視線
非常に短い掌編となっております。五分とかからず読み終えるものですので、ちょっと電車を待つ、等といった時にでもお伴にして頂けると幸いです。
俺は獲物を求め、ここへ来た。
俺は眼下を見下ろす。
へっ。わんさとありやがる。俺に喰われるのを心待ちにしてやがるみてぇだぜ。
俺はソレの一つに狙いを定めると一気に接近した。そのスピードは隼も真っ青さ。
ぐんぐん迫るソレとの距離。イケる。天にまします我らの神よ、今日も美味しく頂きますよっと。
だが、その時だ。
俺は感じたのだ。
奴の、視線を。
咄嗟に視界を広く見て探す。いた。奴が見てやがる!
まるで生気を感じないような、虚ろな黒い目でこちらを見つめている。
ユラユラと左右に揺れながら、ただただこちらを見つめている。
俺は本能的な恐怖を感じ、即座に身を翻した。
ソイツは追ってくる気配を見せなかった。
どうやら助かったようだな。
俺はその場を後にすると、次の狩場を求めた。腹は減っているが仕方ねぇ。何事も命あってこそ、だ。
*
その老人は稲刈りの手を止めて腰を伸ばすと、トントンと腰を叩きながら空を見上げた。
チチチ、チュン、と雀が踊っている。
「ふふふ、鳥共め。近づけまい」
そう言って老人は傍らを誇らしげに見つめる。
「なんせコッチには心強い用心棒がおるからのう」
老人の傍らでは、鳥避けの黄色いバルーンが風に吹かれてフワフワと揺れていた。