二話 ウィッグだと?!
夏草や 兵どもが夢の跡
我が頭髪にも栄華を誇った時分あったものだ…
若草が生い茂る様に次から次へと毛が生え髪型を整えるにも一苦労した記憶もはや昔
栄華も長くは続かなかった
人事を尽くし天命を待ったが、今や何もかもが衰退しきっている
己の頭部で時の流れの儚さを感じ入る…
はっ
いかんいかん
いきなりアイアンクローされ続けてた衝撃で現実逃避しちゃってた☆
何回顔から手を離せと言った事か
さっきからタップし続けてるんですが……
ホントどうしよう
さっきから、見つめあうと素直におしゃべりできない桑田佳祐の如く無言で俺の顔を掴んで離さない「この子」
名は双見麻 慧
性格は割と穏やか………なのに無駄に怪力。
顔の造作も秀麗でスタイルもアホみたいに良いのに………表情が常時とてつもなく怖い。
登頂部の髪はこの年頃の女にしては非常に薄い為か
深いクレバス状になっている
人の事は言えないが色々と残念なクラスメイトである。
まるで憎い仇がそこにいる様なこわばった顔付きで俺を睨んだままだが
どうやらこの表情も生まれつきのものらしい
何度か会話している内にそう教えてもらった覚えがある
興奮してるのか怒ってるのか分からんが何か顔が酷く紅潮してるし
ねえ落ち着こうよ
何と言うかさ
大体どんな奴かは知っててもお前の顔やっぱ地味に怖いから、あと顔が痛い。非常に痛い。中身が出る、出る!! 出ちゃいますよ!!!
「そろそろ手を離してくれませんかね……」
「相談があるんだけどね」
人の話を聞けい
「いきなり呼び出してきて相談って何事なの。顔が痛い」
「外出用のウィッグが欲しいから、一緒に買いに行ってくれないかなって………」
そう言いながらようやく顔から手を離してくれる
相も変わらず射殺すような恐ろしい顔付きのままで
アイアンクローも彼女なりの照れ隠しだったらしい。たまげたなぁ
「そういうのは同じ女子に「どうしてか、避けられちゃうの」頼ん」
あっ
顔付きですね。分かります。
クラスでも畏怖もしくは敬遠されている彼女
何の因果か彼女との間で起こってしまったトラブルという形で彼女の中身を知って(深淵を覗いて)しまった俺としては何とも言えない気持ちになる
そりゃ避けるわなぁ、と
でもウィッグ事情なんて俺、全然詳しくないんだよなあ
東急バンズやドンキンホーテでカツラ紛いの玩具を彼女と買う訳にもいかないし
どうしよう
「今まではウィッグ付けてなかったみたいなのに、どうしてまた」
「親の意向なの」
え、本人の意思じゃないの
何か凄いあっさりしてるんですが
「じゃあ親と買いに「友達と買いに行きたいなって、思って」行」
友達と選んで買う商品じゃねーよなあ、おい
母さん今日も僕は元気です