プロローグ 頭皮deダイハード
勢いで書き連ねます
考えるではなく感じるままに
ここは江頭町
この江頭町には何とも言えない高校がある
新緑の芽吹く閑静な町並みの中に佇む一見して普通でしかない建物に
ニ月の啓蟄もとうに過ぎ虫達も活発に活動しているのが目の前に広がる窓からの景色から窺い知れる
虫は嫌いだ
矮小でしかない自らと小さな体を懸命に動かし足掻く彼らとをどうしても重ね合わせてしまうから
「はぁ、、、」
ため息をつく
今日も憂鬱な気分は変わらない
中学受験前から頭髪が抜け落ち続け髪が生えてこなくなるのはいくら何でも若い身空にはショックな出来事過ぎたのだ
勉強はロクに捗る訳もない
強い抑うつ状態で計算も文字の読み書きもあやふやに
正に前後不覚に陥っていた
とは言え流石に当時の俺も第一志望の江頭高校は諦めたものの
高校卒業後の国公立大受験を考える思考は残っていたようで
入試で私立童貞学園の特別進学科を受験するつもりだったようだ
しかし俺の脳&体はここ総合ホルモン科の若ハゲコースに自然とホイホイされていた
どうやら俺の頭の中はハゲでいっぱいだったらしい
もう人生台無しである
そんな諸々の諸事情も有り☆不思議☆で存在する事すらおこがましいだろうこのクラスの一員として頑張るしかない羽目になってしまったのだ
「にしても若ハゲコースって何だよ……正に今の俺にぴったりじゃねえか ハハハッ…」
自嘲気味に笑う
なんにしても受験失敗の過程で見事に色々とへし折られたのだ
抜け散らかした惨状とも言える頭部と自尊心はリンクしているかのよう
自己を肯定的に捉える事がこんなにも難しくなるなんて思いもしなかったよ、パトラッシュ…
「……………」
俺はつくづくツイてない
手に持った鏡に映る己の頂点は今日も今日とて広漠たる砂漠の様相を呈している
「…クソッ このままじゃ終われん、終われんぞ!特別進学科への転学科に向けて独学で勉強進めとかないとな」
一年このアホコースで勉強するのはこの際仕方ない、と、諦めている
だが二年生時にチャンスはある
以前PCで見た私立童貞学園の規定条項を思い出す
狭き門ではあるが学園規定で一年生の成績優秀者は内申問わず転科試験を受ける事が特別に認められている
カリキュラムに沿った授業がそれぞれの科で大幅に違う以上、転科の際に試験で凡庸な生徒を振り落とす事は致し方ない事
それまで雌伏の時を過ごすのだ☆
ハゲさえしなければ☆☆良かったのに☆☆
母方の祖父の遺伝子
男性ホルモンバランスの変調
睡眠不足
親からの期待を一身に背負い込み長年溜め込んだ苛烈なまでのストレス
−−-キーンコーンカーンコー
考え耽ったままボンヤリとしていると静まり返った廊下にもチャイムが反響して鳴り響いていた
そう言えば今日は校外活動でボランティアがあったっけか?
「やっべ」
通学路の清掃活動
と、この学校の校名に似合わずに実にノーマルで健全
至極まともなものだったはず
今後の内申の為に参加しておけば良かったと頭に少しばかり後悔の念がもたげた
校庭を見れば校門からボランティア活動が終わったとおぼしき俺のクラスの同類共がウヨウヨうごめいている
己と同じ頂点の凶状を晒したままの同類共は目の毒でしかない
精神的に
「まーーった・・・・・ボランティア活動サボったのね、アンタ」
声に反応して後ろを振り返ると穏やかな陽の光に当たりながら揺れる長髪が視界に入った
そこには声の主
同じ若ハゲコースでは数少ない髪がドフサの女
二ノ舞 光が俺を軽く睨み付けていた
彼女が姿を目にした瞬間
なんでドフサなのに若ハゲコース選んでんだよ、とか一瞬思ってしまったのは内緒だ
まあ考えても詮無いことだ
それ以上に急に目に写る黒々とした毛髪は目の毒でしかない
俺の豆腐メンタル的に
「ゲッ…」
「ゲッて何よ、ゲッって」
ムッと不満そうに特徴的な切れ長な目をやや吊り上げる
「別に」
「どうせアンタの事だしまた髪の毛でしょ」
「ちげーよ」
彼女は鬼の首を取ったかの様に得意気な表情で小憎らしく笑っている
相変わらず妙に突っ掛かってくる女だ
入学して知り合ったばっかだってのに
そもそもからして頭髪量の少なさを気にしない奴が俺の年齢でいると思っているのか?
「で、なんの用だっつの」
「小杉杉先生から呼ぶように頼まれただけよ」
「用事?」
「そう、ふぁあ」
そう欠伸を噛み殺しながら俺に告げる
小杉杉はうちのクラスの担任(48歳独身・生え際キープ力に定評のある全スカハゲ)を務めている
どうせまたかなり下らない事なんだろうなと当たりを付けた
こういう時に限って俺の予想は大体にして当たるのだ
忌々しいにも程があるだろう
常識的に考えて
「で、小杉杉の用事は何だって?」
「先生の全スカ対策を同じクラスの生徒でグループディスカッションしあうから早く来いってさ」
何だよ、それ
やっぱり訳分かんねえよ
素人知識で論議しあって何になるんだか
iPS細胞にでも希望を託した方がまだ未来があるだろ?
「相変わらず訳分からんって顔してるわね、アンタ」
「そりゃそうだ」
「大学、高校卒業後の就職面接の練習だと思えばいいじゃない。ディスカッション方式の面談多いみたいだしねー」
ドヤ顔だな、二ノ舞
「いくらなんでも前向き過ぎだろ、お前」
「若い私達がこれ以上後ろを向いても何もないでしょう?」
前向きに捉えないと損だよ、損
真面目な顔に戻すとそう言い切る
ドフサの二ノ舞は俺にありふれたそんな事実を突き付ける
ネガティブハゲの俺には彼女の在り方は少し眩しすぎるぐらいだ
そういった姿勢はいつか見習いたい
「二ノ舞、お前さぁ…」
「ハイハイ さっさと先生のとこ行く」
彼女に背中を両手で押され前に歩き出す
一歩、また一歩
心臓の音が遠くから聞こえる車の排気音に重なる
夏はすぐそこまで来ていた
「分かってるっての」
面白い文が書ける方は素直に凄いと思えます
連載作ならば産みの苦しみは半端じゃない筈、、、