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Chapter1-1

途中までは昔書いていた作品の細部を修正しての転載になります。


本来完結するところからさらに話を繋げるので、途中からは普通に書いて行きます。

そのため、途中から更新頻度が落ちます。

今のところ最優先作品は別にありますので。

それが完結するとおそらくこれが最優先です。

 今俺の目の前には赤鬼が居るというと、一体何人の人がその話を信用してくれるのだろうかと、俺は想いを馳せる。正直、重度の精神病患者に間違われてしまうだろう。

 別に俺は脳に疾患がある訳でもないし、違法な薬を使っている訳でもない。もちろん、不意に突飛な事を言って人を困らせたい訳でもないし、巷で騒がれている中二病でもない。ただ、本当に目の前に鬼がいるのだ。

 平成のこの世で、大阪なんかでそんな妖怪が出るなんて、と一笑する人がいるかもしれない。むしろ、そうでない人の方が珍しい。俺だって、登校の途中でこんなのに出くわすのなんて久しぶりだ、信じたくない。

 物心ついた時から、俺は妖怪を見ることができた。なぜかは分からなかったけど、見えた。もう今では、それが日常茶飯事になっている。

 毎日毎日、人でも動物でもないその姿を見て、それが当り前だと思っていたある日に、転機が訪れた。幼稚園の入園と共にできた友達が、妖怪に気づいていなかった。もちろん、俺はその時それらが妖怪だとは知らなかったが、何やら不穏な気配を感じ取っていた。

 子供ながらに、これは口に出さない方が良さそうだと悟った俺は、家に帰るや即行で、母親の元へと駆けつけた。幼い頃から父親が居なかったので、分からないことは全部、母さんに訊いていた。

 その辺で走っている、小さくて変なのは何? と聞いてみると、困ったような表情ですぐに返事をしてくれた。「ああ、あなたも見えているのね」と。

 その時は、妖怪についてくわしい説明をしてはくれなかった。ただ、絶対に他の人には言ってはいけないとだけ釘を刺された。

 自分で言うのもなんだが、小さい時から妙に聡かった俺は、言ってしまうと友達から疎外されると薄々悟っていた。そのため、母さんの言いつけを忠実に守った。見えているものを、皆といる時は見えないものと扱った。

 二度目の転機は中学の卒業式の日だ。その日は、いきなり今まで隠されてきた秘密を一気に伝えられた。

 そのせいで、今のこのような状況が出来上がってしまっていると言っても過言ではない。目の前にいるのは、先ほども述べた赤鬼だ。

 この世にお化けや妖怪は居ないというが、それは少しだけ間違っている。妖怪はいるが、お化けはほとんど居ない。しかもそれはお化けではなく、地縛霊や悪霊の類であり、厳密にはお化けとは少々異なる。

 まあ、お化けとそれらの違いはさておき、そのような普通は目に見えない連中は、一応居ることには居るのだ。それも、かなり大勢。

 それで、後々話すことになるのだが、俺は数少ない『見える側』の人間だ。そして、『見える側』というのは、『妖怪と戦う側』の人間でもある。理由は単純、見えない人には戦うことは不可能だからだ。

 目の前の鬼をもう一度よく見てみる。見るからに筋骨隆々とした大柄な鬼だ。まあ、青や緑など何種類か居る鬼の中では最も腕力の強い種類なのだから、そのような体型なのは当り前なのだが。

二メートルは優に超えているであろう巨大な体躯。厚い胸板に綺麗に割れた腹筋、俺の胴体よりも太い金棒を易々と振り回し、走り回る太くて強靭な四肢、それをもって俺は筋骨隆々と判断した。だが、その割には妖気が弱い。

 ああ、こいつは大して強くない個体だなと判断したが、退いてくれそうには見えない。そのため、俺も臨戦態勢を取らざるを得ない。

 高校に入ってから、こういうのに絡まれる機会が増えた。そのため、中学を卒業してから、家ではずっとこういう奴の対策のために修行の毎日だ。部活には入っていないが、それよりもはるかに肉体的には辛い。

 別に、俺が(あやかし)から襲われるようになった理由と、中学卒業とは関係がない。ただ単に、上級妖怪が地上に戻ってくるタイミングと俺が中学を卒業した時期が完璧に重なってしまったのだ。

 そのため、以前はその辺を走り回る程度の弱い妖怪しかいなかったのだが、最近となってはもっと位が高い連中がのさばっている。でもって、かつて自分達を封印した連中の子孫を見つけては根絶やしにしようと、妖達は日々奮闘しているようだ。

 ずっと黙って見つめあっていても気持ちが悪いな、と思って口を開こうとした矢先に、相手の方が先にその口を開いた。


「お前が、夜行(やこう)か?」


 たとえその姿を見ていなくても、この声だけで人間ではないと分かりそうだな、と感じる声だった。ガラガラと枯れた声は、どちらかと言うと唸っているような重低音だった。ボイスチェンジャーでも使わないと人間にはこの声は無理だと思う。それほど、見にくい声であった。


「だったら?」


 確認するまでもなく、妖怪の姿が見えているのだから本人に決まっているだろうと言外に示唆する。そうであったらどうするつもりなのだと、訊くついでに。

 すると、相手は鋭い牙を剥き出しにして不敵に笑った。これ以上ない満面の笑みなのだろうが、顔がいかついので、ただ不気味なだけだ。怖いと言うより、気持ち悪い。

 まあ、こいつも俺の命を奪いに来た(たち)なのだろうなとすぐに分かる。


「決まっている、簡単に言うと、始末するというだけだ」


 そうなるよね、と軽口を叩くような感じで俺は相槌を打った。それを奴は、余裕ぶった態度だと判断したのか、額に青筋を浮かべた。実際この程度なら余裕なのだが。

 学校へ向かう途中なので早くこいつを片付けたいのだが、毎度毎度その命を絶つのも忍びない。いくら正当防衛でも、かなり寝覚めが悪い。


「あのさ、俺、急いでるから通してくれないか? そしたら見逃してやるからさ」


 おれは、挑発ではなく、かなり本心としてそう言っているつもりなのだが、それをどのような言い回しで言おうと、額面通り受けとめた奴は居ない。誰もがこの言葉を全て挑発だと受け取っている。

 それも仕方のないことなのだと納得したのはつい先日だ。あの時は天狗だったか、今際の際に「こんな僅かな妖気の(わらべ)に負けるとは」と呟いていた。そして判った、俺自身には欠片ほどの妖力しか無いため、妖達にとっては、次から次へと仲間が始末されるのが謎だったらしい。

 別に俺は弱いつもりはないのだが、相手の基準では雑魚に部類されていたようで、そのような相手から見逃すと言われたら、それは挑発だろうなと察したのだ。


「落ち着け。挑発じゃない。真剣に急いでるんだ。今日は始業式なんだ。そんな日から遅刻する訳には……」

「うっせぇ!」


 話を聞かない鬼が、金棒を持っていない左手を不意に振るった。言い損ねていたが、今俺たちは人目につかない路地裏にいるのだが、鬼の左腕がコンクリート製のブロック塀を軽々と粉砕した。奥が空き地になっていたのが唯一の救いだ。というかこいつ、その体躯で細い路地に俺を連れ込むって馬鹿じゃないだろうか。

 鬼の、紅蓮の瞳が真っ直ぐに俺を見据えているのを見て、その殺気や恨みを感じ取る。確かに長いこと地獄に封印されていたら嫌気がさすだろうな、とは俺にも分かる。

 妖怪の寿命は、確かに種類にもよるのだが、人間と比べると圧倒的に長い。鬼はどちらかと言うと長生きな妖で、ものによっては千年はあっさりと超える者がいる。おそらくこいつも、その部類だろうな、とはすぐに分かった。

生まれてすぐに地上から追いやられて、文字通り地獄で暮らしてきた。人間、それも陰陽師の血筋を引く者は親の仇よりも憎いのだろう。

だが、その八つ当たりを俺にされても、日の光を浴びられなかった千年は帰って来ない。だから諦めて、ようやく帰って来られた地上を平和に満喫しておいてほしい。

 少なくとも、俺に迷惑をかけるな。と言っても、聞いてくれはしないのだが。


「お前がどう思っていようと、俺はお前を殺す気で来たんだ! 死にたくなけりゃ、かかってこい!」


 そう言われても困るということを示すために、俺は右手で頬を掻いた。より、奴の機嫌は悪くなってしまう。


「余裕を見せていられるのも今だけだ!」


 今度は威嚇ではないのだろう、右手の金棒を大きく持ち上げる。一気に振り下ろすつもりなのだろうが、させるつもりはない。


「行くぞ『(しゅう)』、『(じょう)(らい)』」


 こうなってしまうと、応戦しない訳にはいかなくなる。会話をしていた時に既に手袋は両手にはめている。真っ黒な革の手袋だ。

 妖力や妖気というのは、妖怪、そして陰陽師の持っている、攻撃の為のエネルギー源だ。それが多ければ多い程、上位の妖怪であり、強力な陰陽師である。しかし、俺は妖怪が見える程度の、ほんのちょっとの妖気しかない。そのため、こいつらで攻撃力や防御力を補っている。そのうちの二体が、運動靴と手袋なのだ。

 運動靴の蹴の持っている力は、脚力の強化と速力の上昇だ。高速移動を可能にし、蹴りの攻撃力を飛躍的に上昇させる。その力で、一瞬にして相手の懐に潜り込む。

もうすでに、金棒の攻撃範囲よりも内側に入っていたため、鬼の攻撃は地面だけをえぐった。クレーターのような粉砕跡が出来たのを見ると、毎度のごとく蹴には感謝だ。

 相手が焦ったような表情でこちらを振り向くが、その動きは遅すぎて、何もかもが手遅れだった。空気を焼いているような、パチパチと()ぜるような音が小気味よく辺りに響く。

 もう既に黄金に輝き、黄金色の雷電を放ち始めた手袋、浄雷の能力は簡単で、攻撃だ。浄化の雷鳴を以て邪なる敵を浄化する。ただそれだけなのだが、貴重な攻撃手段だ。特に、血が飛び散らない辺りがありがたい。

 黄金に煌めいている右手を、巨大な鬼の、燃えるような深紅の肌に押しつける。刹那、鬼の口から大音声の断末魔の叫びが走る。まるで、天をも引き裂かんとする勢いだと感じる。もしかすると、鼓膜が破れそうになるほど、激しい咆哮だ。

 叫べば叫ぶほど、彼の体は徐々に聖なる灰へと変わっていく。浄化が進んでいっている証拠だ。少しずつ、叫び声も小さくなっていく。声帯や口、肺などの声を出すのに必要な部分が灰へとなっているからだ。

血がドッと飛び出すようなものではないのだが、このやり方でも、自らの手で始末したという罪悪感が残る。その感覚がいつも、俺の心を傷つける。お前も妖も、している事は変わらないのではないか、と冷静な俺が静かに揶揄している。

 鬼が死ぬ時の断末魔の声も、見えない人には聞こえすらしない。誰にも見られずに、仲間から叱責だけされて消えて行く。たとえこの先、輪廻に乗ってまっさらに生まれ変わると知っていても、俺の心は晴れない。

 また一つ、心に傷を増やした俺は、それを紛らわせるために学校へと駆け足で向かった。もうすぐ、高校二年となった、新しいクラスの発表のはずだ。

 やっぱり、そんな事では俺の心は、晴れない――――。


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