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 王都へ向かう日、数人の教会関係者と思われる人たちが現れ、私は棺に入れられた。どうやら、棺に入った状態で、私は運ばれるらしい。

 あの子達の妨害が予想される為、執行者を二人にするという提案があったそうだが、彼が断っていた。

『………たかが餓鬼二人にやられることはありません』

 彼が滅多に私情を挟むことがなかったので、それには周りが驚いていた。確かに、子供二人が彼を追いつめることが出来るとは思えないので、誰も反論することはなかった。

 夕方、国の兵士がコンビクトに現れ、王都へと向かうこととなった。話によると、あの子たちは昼前にコンビクトを出たそうだ。とは言っても、あの子が大人しく帰っていったとは思えない。しかも、彼に宣戦布告をしたのだから、何処かに潜んでいるだろう。

 そうは思うものの、私はこのまま、あの子が姿を現さないことを願っていた。

 私の為に、あの子が傷つかなくてはいけない必要なんてどこにもないのだから。


***

 俺は地面に転がるようにして、特大の雷から避けた。とんでもない芸当をしてくれる。あんなことしたら、あいつの友達もただでは済まないのではないか?

 そんなことを思っていると、断罪天使エクソシアが煙の中から現れた。彼の左手には太刀が握られており、俺はその攻撃を避けることが出来ないと直感で判断し、背中にある大剣を取り出し、受け止める。だが、彼の腕力が凄いのか、はたまた、俺の大剣が脆いのか、おそらく両方だと思うが、この大剣は修理に出したばかりと言うのに、ピシッとヒビが入る。鍛冶屋のおっちゃんに耐久性を高くしてくれるように頼んだと言うのに、何と言う有様だ。

 持ちこたえろとは言わない。だけど、あと少しだけ、できることなら、あいつが来るまで頑張ってくれ。お前の頑張りが俺の生死を左右する。

 とは言え、大剣のヒビは真ん中付近まで達する。このままだと、死神様が迎えにくるのも時間の問題だ。

 そして、次の瞬間、もう耐えきれなくなってしまったようで、パキンという音と共に、大剣の破片が宙高く舞う。そして、太刀が俺の身体に迫っていく。この至近距離では避けることなんて叶わない。致命傷だけでも避けなければ………。

「うっ」

 俺はとっさに左腕で太刀を受け止めるが、太刀は俺の左腕の肉を深くえぐり、当然、左腕から流血する。

 このままだと、左腕が斬られると直感で感じたが、これではどうしようもない。最善の策を考えろ、と頭をフル回転させる。だが、何もいい策が浮かんでこない。そればかりか、自分が死んでしまうのではないか、と悪い方向へ考えてしまう。

 このまま死んだら、あいつを一人にしてしまう。そんなことあってはならない。

「あいつを置いて逝けるわけない」

「………その通りです。貴方が私より先に逝くことなど許しません」

 俺がそう零すと、あいつの声が聞こえた。その瞬間、カタールが彼目がけて投げつけられる。彼はそれにいち早く反応し、太刀を俺の腕から抜き、後ろに跳躍して避ける。

「大量出血していますが、生きていますか?」

 あいつは二人相手をしたと言うのに、かすり傷も負ってない様子で俺達の前に現れる。

「あともう少しで、天国への片道切符を切られそうになったけどな」

 皮肉で返してやる。

「そうですか。そこまで憎まれ口が叩けるなら、大丈夫です。これから、私が相手をします。貴方は予定通りやって下さい」

「だけどな、断罪天使が特大雷を撃ち込んだぞ。普通の人間だったら、生きては………」

「そこは大丈夫です。彼女が入っている容れ物はどんな衝撃だって耐えられるようになっているはずです。そうじゃなかったら、彼がそんなことをしないはずです」

 彼の仕事は王都まで彼女を運ぶことですから、とこいつは言ってくる。それもそうだ。彼は俺達から彼女を奪われないようにするのは勿論だが、無傷で彼女を運ばせるのが本来の仕事だ。

「分かった。俺が助けるまで、死ぬなよ」

 俺は左腕に走る痛みをこらえて、馬車があった場所まで走る。すると、断罪天使が行かせまい、と俺を追いかけようとするが、あいつがの進路を防ぎ、蹴りをお見舞いするところが見えた。

 断罪天使エクソシアが凄いとは言え、あいつなら、何とかしてくれる。なら、俺は俺が出来ることをしなければならない。馬車のあったところはところどころで馬車の木片が燃えていた。青い鳥の友達が入っている容れ物は何処だ?

 俺は血眼になって探していると、棺のようなものが視界に入り、それは不自然のことに燃えていない。青い鳥が言っていた言葉を思い出す。どんな衝撃にだって耐えられるということは、魔法がかかっていると見て、間違いなさそうだ。

 その棺に近づいてみると、その棺には複雑な魔法陣が描かれていた。こう言う魔法陣は解除するには暗号というものがあり、その暗号を打ち込めば開くことが出来る仕組みだ。だが、俺が彼らの暗号を知るはずがない。

 俺は左腕を見る。いい具合に出血している。俺は左手を棺に当てると、血液がポタッ、ポタッと流れ落ちる。血液を媒介にし、俺の持ちえる魔力を魔法陣へと込める。すると、棺が内部爆発でもしたかのように、棺の破片が飛び散る。自分がしたことながら、無茶な方法だと思うが、今は手段を選んではいられない。

 そして、棺が守っていたものが露出する。きれいな金色の髪。透き通るほどの白い肌。傍目から見れば、人形のように整った顔をしている。あいつよりは2,3歳ほど年下に見えるが、この子が、あいつが逢いたがっていた“友達”なのだろうか?とは言っても、彼女以外、それらしき人物はいない。

 だが、彼女の全身には鎖が巻かれており、これを解かない限り、動かすこともできない。俺は鎖をどかそうとするが、びくともしない。この鎖も魔法がかかっているとは思うが、それらしい魔法陣は見当たらない。その時、彼女の瞼が開き、

「………こ、ここは?どう考えても、王都の城の中ではありませんね」

 彼女は周りを見回している。

「………貴方は誰でしょうか?教会の関係者ですか?」

「残念ながら違うな。俺は何と言えば、いいだろうか。あいつの名前、俺知らないんだよな。まあ、青い鳥とか自称している電波少女の友人だ。君を助けに来た」

 そう告げると、彼女の顔がみるみるうちに強張ってくる。

「貴方達は何馬鹿なことをしているんですか!!貴方達がしていることは自殺願望者と同じです。死にたいのですか!!」

 彼女は叫んでくる。傍から見れば、俺たちのしていることは無謀に思えるかもしれない。馬鹿なことをしているように見えるかもしれない。それでも、譲れないものがあいつにはある。

「確かに、君の言う通り、俺達は馬鹿なことをしているかもしれない。だけどな、あいつは言っていた。君を外に出すお手伝いをしに、戻ってきた。あいつはせっかく平和を手にしたのに、それでも戻ってきた。何故だと思うか?」

 俺はそう言って、彼女を見る。

「あいつが君のことを友達だと思っているからだ」

 だから、あいつはわざわざこんな所に戻ってきた。

「私だって、あの子が幸せになって欲しいと思っています。だから、あの子に、貴方達にここへ来て欲しくはありませんでした。今でも遅くはありません。逃げて下さい。私のような化け物を助ける義務なんてないんですから」

「そんなの関係ないだろ。君が化け物だろうと、何者だろうと関係ない。あいつは君が人形兵器だと知っていて来たんだ。その前に、君は外に出たいとあいつに言ったんだろ?」

 俺がそう言うと、彼女はハッとする。

「だからと言って、貴方達の命を危険に晒すことなどできません」

「君が何言おうと、俺達はもう戦場に立っている。あいつは断罪天使エクソシアと戦っている」

 俺があいつの方を見ると、断罪天使エクソシア相手に、必死に戦っている。流石に、体術では不利と分かっているのか、右手には細剣が握られている。細剣は飾りだとか、我流だと言っていたくせに、相手に一歩も退いていない。とは言え、何処まで耐えることが出来るかは分からない。あいつには天性の才能があったとしても、剣術の訓練は自発的に素振りをしていたくらいで、何もやっていないそうだ。ちゃんと訓練を施されただろう相手にどこまで通用するかは分からない。

「あの子が断罪天使エクソシアと………。駄目です。今すぐやめさせて下さい。彼の恐ろしいところは剣術ではありません」

 彼女がそう叫ぶと、先ほどよりは威力が劣るが、雷があいつを襲う。あいつは必死に避けるが、続けて、雷が襲う。これもどうにか避けるが、次は太刀があいつを襲う。元々、魔力がないと言うわけではなく、体質的に、魔法を扱うことが出来ない為、魔法で応戦と言うことはできない。

 とっさに、雷を避けることが出来るのは大気中の魔力を可視することが可能らしい。あいつの魔法陣を打ち消す手と言い、魔法だけ避けるだけなら、まだいい。だが、断罪天使エクソシアは雷と剣術を巧みに操ることが出来る。避けきることができるのも時間の問題である。

 何とかしないと、彼の太刀の餌食になるか、黒焦げになってしまう。いい策はないか、と周りを見回すと、近くに、俺の大剣の残骸を見つける。これを使えば、助けられるかも知れない。

 俺はそれを拾い、左腕の血を使って、それに陣を描いていく。

「俺は君のことを知らない。君がどうなろうと俺には関係ない。君の為に死ね、と言われても、俺は死ねない」

 自分と関係のない人の為に、命を捨てるようなことはできない。

「だけど、あいつは違う。お前があいつのことをどう思っていようと、少なくとも、あいつはお前のことを友達だと思っている。だからこそ、あいつはお前を食い物にして、平和を手に入れることになった自分が許せないんだろう。だから、今度は自分がお前を助ける番だと思ったんだろ」

 あいつはいつもそうだ。自分がどうなろうと、相手のことを第一に考える。それがあいつの腹だたしいところであり、いいところだと思っている。

「と言っても、あいつは我儘だ。君を外に出したいと思っているし、もう一度会って話したいと思っている。君に伝えたかった想いとかな。それは一日じゃ足りないはずだ。だから、自己犠牲なんてさらさらする気なんてない。あいつは生きて、君の前に現れる。だから、信じてやってくれ。あいつは死なない。どんなことだって生き延びる。あいつを信じれば、君にも幸せが来るくれるはずだ。なんせ、あいつは……、」

 青い鳥(幸せを呼ぶ鳥)だ、と陣を完成させて、俺はその残骸を持って、投げても十分届く距離まで行く。すると、盗賊やコンビクトの住人を軽くあしらえるあいつの身体では至る所から出血している。ここからは良く分からないが、今はまだ致命傷を免れているが、あいつの身体はもう悲鳴を上げているはずだ。

「青い鳥、奇跡を起こすぞ!!」

 俺がそう叫ぶと、断罪天使エクソシアはこちらに注意が向く。そして、断罪天使エクソシアの方へその残骸を投げつけるが、断罪天使エクソシアは簡単に避ける。これでいい。あいつは俺がしようとしたことにいち早く気づき、後ろへ跳躍する。すると、その瞬間、地面が蟻地獄のように周りのものを吸いこんでいく。断罪天使エクソシアは俺が何をしようとしているのか、気付いたようで、それから逃れるために高く跳躍する。そして、お返しと言わんばかりの雷撃を俺にぶつけてくるが、地面に魔法陣を展開して、雷撃を中和する。そして、大剣の折れた剣の部分に素早く陣を描き、その剣を地面に突き刺す。すると、地面がメキメキと音を立て、空中に幾数の土の剣が浮き………、

「行け――――」

 流石の断罪天使エクソシアにはもう逃げ場がない。だが、彼は素早く魔法陣を展開して、土の剣を粉砕するが、粉砕しきれなかった土の剣が彼の身体を突き刺す。

「………う」

 彼の表情は苦痛にゆがみ、バランスを崩した身体は地面に叩きつけられる。流石の彼でも、この状態では体を動かすことが出来ないだろう。

「青い鳥。今度こそ、彼女を外に連れ出せ」

 俺はあいつの方に向かって、そう叫ぶ。それが出来るのはお前だけだ。

「分かりました」

 あいつはそう言って、彼女の元へ駆けつける。だが、

「………させるわけにはいかない」

 は土の剣を身体に刺さったまま、こちらに向かってくる。流石に致命傷を与えることはできなかったようだ。あいつは頑張って、ここまで来たんだ。ここまで来て、邪魔させるわけにはいかない。俺は魔法を展開し、火の玉を彼にぶつけるが、雷撃で中和する。いや、彼の魔法の方が威力が大きかったようで、火の玉で中和出来なかった雷撃が俺を襲う。

「っく」

 俺はよろめくが、こんなところで倒れるわけにはいかない。あいつが本当の意味で彼女と再会するまでは……。だが、彼との魔法戦は俺の方が不利だ。このまま、彼を俺の懐に入れたら、デッドエンドだ。とは言え、彼の動きを止める術を俺は持たない。これでは八方塞がりだ。何か策があるはずだ。考えろ、俺。

「御守りを彼へ投げて下さい!!」

 すると、あいつがそう叫ぶ。お守り?さっき、おばさんがくれたあれか?あれを投げて、意味あるのか?だが、今は迷っている時間はない。あいつのことを信じるしかない。

 俺はポケットから、御守りを取り出し、言われた通り、彼に投げつける。その瞬間、御守りが光り出し、魔法陣が浮かぶ。俺は知っている。この陣は………。

「縛れ!!」

 すると、その陣は断罪天使エクソシアの身体に侵食して行き、彼の身体の自由を奪っていく。これで、もう動けないだろうと思った瞬間、

「う…」

 両足に根が絡まり、その場で崩れ落ちると、その横を人影が走り去っていく。どうやら、彼の魔法で拘束されてしまっただが、それにしても、まだ四肢まで拘束しきれていないようである。とは言っても、魔法陣が発動しているのだから、徐々に体の自由は奪われて行っているはずである。それでもなお、彼が身体を動かせるのは驚き以外の何ものでもない。

 彼の向う場所にはあいつがいる。一方、あいつはと言うと、彼女の元へ行き、鎖を解こうとしていたところだった。

「逃げろ――――」

 俺の叫びが静かな荒野に響き、その後、ガシャンと鎖が外れる音、そして、パシュッと肌を裂く音が響いた。

 その音はあいつが刺された音ではなかった。

 あいつを庇って彼女が刺されていたのだ。

 その光景には絶句するしかなかった。刺した本人はその光景を受け入れられないような驚愕の表情を浮かべている。

「………、無事だった…、ようで……何よりです。貴方の話を…聞いてあげたいのは……山々ですが……、今は正直……、眠いので、寝かさせ……て、く…ださ……い」

 彼女はそう言って、眠るように倒れていく。

「嘘です。私は貴方に会いたくて来たんです。なのに、こんな別れ方なんて嫌です。起きて下さい。私は貴方に話したいことがたくさんあるんです。だから、起きて下さい」

 あいつは彼女を揺さるが、彼女は返事をすることはなかった。

「冗談ですよね?冗談だって言ってください!!私は認められません。認めたくないです。お願いですから、起きて下さい!!」

 こいつはそう叫ぶが、誰もこいつの願いを叶えてくれることはない。

 彼女はいつ起き出してもおかしくないようなそんな表情を浮かべていた。それでも、彼女は動くことはなかった。

感想、誤字・脱字などがありましたら、お願いします。


次回投稿予定は6月16日となってます。

次回がこの話の最終話となります。もう少しお付き合い宜しくお願いします。

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