無関心と興味
退屈な授業から解放されたクラスメイトたちが騒いでいる中、おれは席を立つことこともなく、ぼぉーっと窓の外の景色を眺めていた。
「………………」
ふと、隣の席から強い視線を感じた。
毎日というわけではないが、たまにこうして隣の席から監視されているような気分になることがあるのだ。
ちらりと隣の席に目をやると、そこには、むっとした表情の女の子がいた。端正な顔立ちをしているだけあって、妙な迫力のようなものを感じる。
「何か用か?」
とくに何かをした記憶はないんだが……。一度も話したことないしな。
「うん……。前からちょっとね、きみに聞きたいことがあったんだよ」
彼女は少しためらいがちに口を開いた。普段ははっきりとものを言うタイプだと思っていただけに、その反応は少し意外だった。
「学校に来て、楽しいのかなって思って」
「別に楽しい楽しくないの問題じゃないだろ、学校は勉強をするところだ。楽しさはとくに求めてないさ」
どんなことを聞かれるかと若干、身構えてしまっていたのだが、なんだそんなことか。
朝早くに登校し、将来大して役にも立たないことを勉強する日々のどこに楽しさを見いだせというのだろう。おれにはよくわからなかったが――
「お前は学校、楽しいのか?」
気が付けばそう口にしていた。
なぜ言葉を返してしまったのだろう。一度も話したことのない相手なのに。
「もちろん! わたしは毎日が楽しいよ。勉強は楽しいし、友達とおしゃべりするのも楽しいよ。教室にいるだけで、なんだかうきうきしてくるの」
とてもいい笑顔で言い切りやがった。学校が楽しくないと言ったおれが悪者みたいに感じるくらい、心の底から学校が楽しいと思っている笑顔。
(よくわからん女だ……)
心の中でそう戸惑っていたおれに向けて、彼女は急に、
「そんな楽しい学校生活を満喫しているわたしですが、ひとつだけ気になっていることがあります。さあ、なんでしょう?」
「はあ?そんなこと、わかるわけないだろう。今日初めて話す相手のことだぞ」
まるで理解が追いつかない。女はみんなこいつのようにポンポンと思ったことを口にする生き物なのか?
「そっか、わからないかぁ……。まあ自覚してないのかな」
ボソリと誰に向けたわけでもなく、つぶやいた。
「結局、何が言いたいんだ。クイズがしたいのなら他を当たってくれないか。今日は眠いから早く帰って爆睡する予定が……」
「きみのことなのっ!」
こちらの言葉を遮るような大声。何事かと、残っていたクラスメイトがこちらをチラチラと様子をうかがっている。
「とりあえず落ち着け、おれのことなのはわかったが、クラスの連中が気にしてる」
「あっ、ごめん。つい……ね」
我に返ったのか、少し恥ずかしそうに頬を赤く染めながらはにかんだ。
「こほん。わたしが気になっているのは、きみがいつもつまらなさそうに窓の外を見ていることなの」
彼女は可愛らしく咳払いをし、場を仕切り直す。
「クラスのみんなが楽しそうに笑っている中、ひとりだけつまらなそうにしているのがすごく気になってね。どうしてあの人は笑わないんだろう、どうすれば笑ってくれるのかな、って」
「え、そんなことを気にしていたのか?」
想像の遥か上をいく回答が返ってきたので、思わず言葉に詰まってしまった。
「うん。一度気になり始めたらもう止まらなくて。前からさりげなく観察していたの」
「なるほど……」
たまに視線を感じたのはそういう理由からだったのか。
それにしてもさりげなく観察、ね。
あれだけじっと見ていればさりげないというレベルじゃないだろうが、あえて気がつかないフリをした。
「ねえ、学校が楽しくないのなら、楽しくなるようなことを見つけようよ」
「見つけるって言っても、どうやって見つけるんだ?」
「――わたしが一緒に探してあげる!」
弾けるような笑顔。何がそこまで彼女を笑顔にさせるのだろうか。
ただ、その笑顔を見ていると、これからの学校生活が楽しいものになるんじゃないかと不思議と予感させられ、いつの間にかおれは少しだけ頬が緩むのを感じていた。
初投稿です。文章の練習がてらに何も考えずにさらっと書きました。