序章
「ねぇ君。ちょっと此方来て話そうよ!」
目障りだった。
マタか、と思う。
もううんざりだ。
さっきから私に話しかけてくる青年が後をたたない。
「……どいて」
早く寮に帰って読みたい本があるのに中々帰してくれそうにない。
以前、いっそこの連中の言う通りにしてとっとと帰って切り抜けようとした事があった。
だが、やはり帰してくれなかった。私を犯そう、なんて話が耳に入った途端窓ガラスを割って逃げたから良かったもののあのまま気付かなかったら大変な目にあっていたかもしれない。
彼らが。
「おい!聞いてんのか!」
いけないいけない。
前の事を思い出していたらどうやら無視してると思ったみたいだ。
というか無視していたのだが。
だが一体どこの世界に目の前に立ったまま話を聞かない非常識な奴がいるというのか「おいおい嬢ちゃん。女だから殴られないなんて思ってんじゃねーよ。」
「最近の奴らはそういうのも好きだからな。ひひっ。」
………ゲスが
仕方ないな
「退け」
「は?おい、今なんつったよ?」
男共の顔が変わってくる。
だんだん激しい顔に
そして馬鹿げた面に
「もっぺん言ってみやがれ!ぁあっ!?」
「退け、と言ったんだクズ共が」
「このアマ…」
男(さっきから前にいて話しかけてくる奴)の手が私の胸元に伸びてくる。
反射的に脚でけりあげる。
「がっ!?」
「せい」
短く掛け声。
これがないと技が決まらない。
タイミングを取るのに最適だから。
男の腕を引っ張り背負い投げを食らわした。
「げふっ!」
男が吐血する。
他の男達にも動揺が広がる。
「悪かった。半端な投げ方してしまったね、クズ。頭から降ろして地面に突き刺さるようにするつもりだったけど………」
私の言葉を最後まで聞かずして男達は走って逃げ出した。
投げられた男を置いて。
まあ気絶してるみたいだからいいか。
「………雑魚の血が着いちゃった」
こうして私はようやく静かな帰路に着く事ができた。
一体いつからこんな日々を送るようになったのだろうか
それと私は別に周囲の雑魚を片っ端から殺したい訳じゃない。何もしないでくれるなら最初の口調で穏便にお断りするのだから。
それにしても最近の若人はやはり弱い。
昔はこの年頃の若者は武芸に携わっていた(らしい)。
その時代に生まれたかった。
ただ戦っているだけでいいなんて最高だ。いや、楽だ。
取り敢えず私は誰か強い相手と会いたい。
誰にも見えないこの背中の刃が不憫だから。