ウルトラクイズぽい婚約解消
「またこの季節がやってきたなあ」
友達の言葉に、俺はうなずきながら言った。
「今年は6組かー、もうちょっと多いほうが盛り上がるんだけどなあ」
王立競技場の中央には、婚約解消を願う6組のカップルが並んでいる。
今年は王太子が参加するとのことで、観客席も満員御礼の大賑わいだ。
俺は下位貴族でまだ婚約者もいないので、学園の友達と気楽に観戦に来ている。
隣にいた令嬢たちがオペラグラスを見ながら騒ぎ出した。
「本当だ! 王太子殿下がいる! 10年も婚約してたセルフィア様と解消するって噂は本当だったのね!」
「あのピンク頭が殿下の浮気相手でしょ? わざとらしく震えながら関係者応援席にいる!」
「これに優勝したら無条件で婚約解消できる権利が得られるんだもの、そりゃ有責者は参加するよねえ」
そう、このゲームの優勝者は、国王の勅命での婚約解消が認められる。
どれだけ不実な行いをしてようが瑕疵があろうが、一切の責任を負わずに解消を認められるのだ。
慰謝料や違約金を払いたくない人間にとっては絶好のチャンスである。
カップルはそれぞれ、1~6の番号のついたゼッケンをつけられる。
婚約解消を希望する側が競技に参加するので、動きやすい服装をしているかどうかで、どちらの希望かが一目瞭然だ。
開始時間だ。宰相がステージに立ち、魔導マイクで開催を告げる。
《国民の皆様、お待たせしました! ただいまより、『王室公認・婚約解消大会』を開催いたします!》
うおおおおお! 観客席が湧く。
《まずは出場者のご案内を申し上げます。ゼッケン1番はこの国の第一王子であるアルフレッド・ローゼンブルク殿下と、婚約者セルフィア・オルデンブルク公爵令嬢!》
騎士服に身を包んだ殿下が片手を挙げて微笑んで見せ、ドレス姿のセルフィア嬢が美しくカーテシーをする。
「きれい!」
「普通に王族の謁見にしか見えない!」
「あんなにお似合いなのにねえ」
俺もそう思うのだが、ゼッケンが全てだいなしにしている。
《続いてゼッケン2番はテオ・ヘイワード伯爵令息と…》
入場口で渡された『参加者紹介』を見ながら、出場者やゼッケンを確認する。
テオ・ヘイワード伯爵令息は……『真実の愛をみつけたから解消したい』のか。
王太子殿下と一緒のクソだな。最近こんなのばっか。
《続いてはゼッケン3番……》
出場者の紹介が終わると、いよいよ第一競技の始まりだ。
《以上が出場者の皆さんです! みんなー! 婚約解消したいかー!》
「「「おー!」」」
「……」
《罰ゲームは、怖くないかー!》
「「「おーー!」」」
「……」
婚約解消したいほうは、必死な顔で握りこぶしを挙げてアピールするが、したくないほうは不機嫌な顔で黙ってる。
そりゃそうだ。有責のくせに無罪放免を狙いに来てるんだもんな。むかつくに決まってる。
それぞれの表情の対比がすでに面白くて笑ってしまった。
《それでは最初のステージは忍耐力勝負です。挑戦者のみなさん、あちらをご覧ください》
司会者が指さす先には、鉄棒が並べてある。
《あちらにある棒につかまって、ぶらさがっていただきます。落ちずに長くつかまっていられた4組が勝ち残りとなります。なお、婚約者のかたには、くすぐり棒が渡されるので、柵の外から思う存分くすぐって邪魔をして下さい》
そう、この大会では、ペアとなっている婚約者が、競技の妨害をすることができるのだ。
婚約解消を望む挑戦者と、望んでない婚約者とのせめぎあいも、大きな見どころなのである。
係員の合図で、足元の台が取り除かれる。スタートだ!
《実況の第一王女です。現在全員が順調な滑り出し、騎士団に所属しているゼッケン5番のフェリックス・ライデン子爵令息が有利か?》
フェリックス・ライデン……、参加者紹介によると、同じ騎士団にいる女性騎士を侍らせ『彼女は男友達みたいなものだから』と寝言を言って婚約者をないがしろにした男。慰謝料を払うのが嫌で参加したようだ。最低だなあ。婚約者がんばれー!
観客も完全に、ないがしろにされていた婚約者の味方だ。
(しかしこれ、たとえ優勝して慰謝料を免れたとしても、社会的に抹殺されそうだなあ)
と思ったが、
(それがわからないバカだから婚約解消になるのか)
と納得した。
「2番の妨害すごくないか?」
友達に言われて2番を見ると、まるで生き物のようにくすぐり棒を動かす令嬢の姿があった。
俺は思わず悲鳴を上げた。
「ぎゃっ、なんだあの猛攻! あんなのに耐えられるのか!?」
他もそれなりに妨害していたが、1番と4番はあまり積極的にくすぐってはいないように見えた。
《辛そうな表情なのはゼッケン4番のシャルロット・ベルンハルト男爵令嬢です! 彼女が婚約を解消したい理由はただひとつ、身分が低いせいで彼女の側からは訴えられないからです! 婚約者のジュリアン・フォークト伯爵令息は、身分を笠に着てわがまま放題、彼女を冷遇し続けてきた男! ここはぜひとも婚約解消を勝ち取ってもらいたい!》
がぜん観客が4番の令嬢を応援する。しかし淑女として育てられた令嬢が、自分の体重を細腕だけで支え続けるのは至難の業。一番最初に脱落しそうだと思って見ていたが、なんとこれが、粘る粘る。歯を食いしばって鉄棒を持ち続ける彼女に、婚約者へのブーイングも激しくなる。
「棄権します! もうやめてくれシャルロット!」
4番の婚約者、ジュリアン・フォークト伯爵令息が叫んだ。
「俺が悪かった! 婚約は解消しよう! もうがんばらなくていい!」
令嬢の手が鉄棒から離れ、緩衝材の上にどさりと落ちると、救護班が向かう。
救護班とともに走り寄る令息。実況の王女もマイクを持ってあとを追う。
「ごめん。本気でそんなに嫌がられてたなんて知らなかった。ずっとずっと君が好きだったんだ。君の困った顔が見たかっただけだったんだ。もう二度と君が嫌がることはしない」
と泣きながら謝っていた。
「ジュリアン様……」
担架に乗せられて運ばれる令嬢と、それを追いかけながら謝り続ける令息。新たな展開を見せそうな二人に観客も興味津々だ。二人の会話をばっちりマイクで拾う王女もすごいが、この大会は、こういうドラマがあるから面白い。でも『困った顔が見たかった』はないだろ。子供か。
第一競技では、棄権した4番と、2番の『真実の愛その2』が脱落し、終了となった。
《続いて第二競技は、〇×泥水クイズです!》
歓声が上がった。
〇と×が描かれた2つの扉が競技場に準備される。
挑戦者は、クイズを聞いて、〇か×かの扉を破って走り抜けることになっている。扉の向こうにはマットか泥水が用意され、正解ならば柔らかいマットの上に着地するが、不正解なら泥水に突っ込むことになる。
泥水まみれになる挑戦者の姿が痛快な、観客に大人気のクイズだ。
《婚約者に関するクイズに挑戦してもらいます。答えは〇か×か! 婚約者は、嘘を教えてもいいですが、裏をかいて本当のことを教えるのもありです! 決勝に残れるのは2組なので、2組が脱落するまで何度でも挑戦してもらいます!》
婚約者に関するクイズか。婚約者のことをよく知っていて別れたいのか、興味がないから別れたいのかで正解率が変わりそうだな。挑戦者が婚約者の言うことを信じるかどうかも見どころだ。
《1番への問題! セルフィア・オルデンブルク公爵令嬢の好きな色は、アルフレッド・ローゼンブルク殿下の瞳の色である青である! 〇か×か!》
「え」
殿下がとまどう。すかさず実況王女がセルフィア嬢にマイクを向ける。
「〇ですわ」
セルフィア嬢が答える。
常に冷静で表情を崩さないセルフィア嬢が、自分の瞳の色を好きだと? なんだそれは、まさか今更、自分を好きだったとかいうわけないよな? これは嘘なんだよな? でももしかして裏の裏をかいて…
殿下が迷ってるのがわかる。でも迷っている時間はない!
《さあ〇か×か! 殿下はどっちに行くのか! ×へ行ったーーー!》
勢いよく×の扉に突っ込む殿下! びちゃーん! 泥水ダイブ!
《正解は〇!『青が好き』でしたー! 残念!》
殿下は外したから、ここでゲームオーバーか……と思いきや、続く3組もすべて泥水に入ったため、決勝に進む2組を選ぶため、2周目に突入することになった。
しかしここで、婚約者側から手が上がった。王女がマイクを持って走っていく。
「3番、棄権します」
3番は、婿養子に入る予定のくせに、『幼馴染が病気なんだ』と言っては婚約者との約束を反故にして、幼馴染に会いに行っていた伯爵令息だ。病気の幼馴染というのは実際は仮病で、令息も承知の上で婚約者令嬢を冷遇していたので、婚約解消を言い渡されたらしい。
「もともと、うちへの婿の話がなくなったら平民になるんだし、慰謝料は免除してあげるつもりだったんです。でも今まで、私を軽んじていたことに腹が立っていたので、この大会に出て恥をかけばいいと思っていました」
マイクを向けられた婚約者令嬢が、会場に向かって自分の気持ちを吐露する。
「でも、ここで観客の皆様に罵倒され、泥まみれになった姿を見たら気が済みました。こんな人でも、私の好きだった人です。これ以上みっともない姿を見たくないので、ここで棄権させてください」
「ロザリー……」
3番の挑戦者が令嬢を見る。
今の言葉で、少しは反省したのだろうか。目が赤くなっている。でも泥水が入ったせいかもしれない。
3番の二人が退場していく中、今度は1番のセルフィア嬢が手をあげた。
「では1番も棄権しますわ。私も慰謝料をいただく気はありませんでしたし」
それを聞いた殿下が声を上げる。
「えっ! じゃあなんでこの大会に出ろって言ったの!?」
「出たら自分のしでかしたことを少しは自覚するかと思ったからよ」
「なにそれ!?」
セルフィア嬢があきれた顔で言う。
「まわりの忠告も聞かず男爵令嬢に入れあげて『真実の愛』とか言う人間が、世間からどんな目で見られるかを、知るべきだと思ったの」
「私たちを非難の目で見るのは、真実の愛を知らないからだ! 君だって、真実の愛を知ればきっと……」
「わかったわ」
殿下が怪訝そうな顔になる。
「ほんとにわかったのか? 真実の愛とは……」
「あなたには何を言っても無駄だってことがわかった」
「なんだと」
「どっちにしろあなたは廃嫡が決まっているし、どこか遠くの領地で真実の愛の相手と幸せになってちょうだい」
「な」
「私はもう、あなたと関わりたくないの。ここで失礼するわ」
「ちょ!」
《おおっと! 1番カップルは仲間割れか! 廃嫡が決まってるのは本当ですが、アルフレッド兄さまは聞かされていなかったようです! 大笑いです!》
王女のあおりに、殿下が興奮してつかみかかろうとしたので、警備が止めてそのまま退場させていた。
「王太子、廃嫡なのかー。だからセルフィア嬢はこの大会にやる気がなかったんだな」
「うんうん、ぶらさがり耐久の時も、全然妨害してなかったもんな」
「それに比べて、2番のくすぐり棒、凄かったよな……」
俺と友達は、第一競技での妨害のえげつなさを思い出して震えた。そして
「女にうらまれるような行動は慎もうな」
「だな」
と心に誓い合った。
《えー、2組の棄権により、自動的に5番と6番の決勝となります!》
5番と6番ってあれか。『男友達みたいな女』と浮気してた奴と、政略の婚約者に『おまえを愛することはない』と言って愛人と暮らそうとしてた奴か。どっちもクソだし、どうでもいいな~~。
決勝戦は早押しクイズで、とくに何の盛り上がりもなく、5番の騎士団の奴が優勝した。
優勝した男は泣いて喜んでいたが、これから先、騎士の仕事はもらえないだろうし、どうするつもりなんだろう。そう思っていると友達が教えてくれた。
「ここで顔を売ったことで、逆に商売で有利になったり、劇団にスカウトされたりするらしいぞ」
「えっ、そうなの!?」
「婚約がなくなった令嬢も、ここで新しい出会いがあったりな」
「そうか、それはいいことだな」
(でもあの猛攻くすぐりの令嬢は……出会いがなくなりそうな気がする……)
「まあとにかく、体をはって俺たち民衆の娯楽になってくれてるので、ありがたいよな」
「はははそうだな」
「あー終わった終わった。また来年を楽しみにしような~」
と笑いながら、俺は友達と別れて帰途についた。
そして翌年の大会に、俺はまた同じ友達と来ていた。
「おまえ3番? 俺7番なんだ、よろしくな」
「おう、お互いがんばろうな」
「スポーツマンぽい婚約破棄」を書いた時に、感想欄で
「こうなったら応援団と婚約破棄体育祭も投入しましょう」
と書いてくださったかたがいたので、思いついた話です。
いつもありがとうございます!
10月17日 [日間]コメディー〔文芸〕 - すべて
で2位になってました~~~! ありがとうございます! わあい。




