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日高のゴルフ戦記第1章「最悪のデビュー戦」  作者: こうた


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第1話「モテない男の現実」

日高は、自分がモテない理由をずっと“顔”のせいにしていた。


 だが、その日――


「日高くんさ、痩せたら普通にカッコいいと思うよ?」


 会社の庶務、森元にそう言われた瞬間、すべてが崩れた。


「……え?」


 思考が止まる。


 パソコンの画面に映る自分の顔が、やけに丸く見えた。


「いや、その……今も別にダメってわけじゃないけど」


 森元は少し笑いながら、書類を揃える。


「でも今のままだと、もったいないかなって」


 軽い口調だった。


 だがその一言は、日高の心に深く刺さった。


(……もったいない?)


 つまり裏を返せば――


今はカッコよくない


 ということだ。


 日高はゆっくりと椅子にもたれた。


 腹の肉が、ベルトの上に乗る。


(……これか)


 現実を、初めて直視した瞬間だった。


 昼休み。


 日高は食堂で、いつものカツカレー大盛りを前にしていた。


 スプーンを持つ手が止まる。


(これを食ってるからか……?)


 いや、違う。


 いや、違わない。


 いや、でも――


「お、珍しいな。手止まってんじゃん」


 声をかけてきたのは、同じ部署の先輩、平だった。


 日高と同じく、見事な体型をしている。


「いや、ちょっと……」


「ダイエットか?」


「……考えてます」


「やめとけやめとけ。続かんぞ」


 即答だった。


「人間な、楽な方に流れる生き物なんだよ」


「説得力すごいですね……」


「だろ?」


 平は笑いながら、唐揚げを口に放り込む。


 その姿を見て、日高は少し安心した。


(俺だけじゃない……)


 だが同時に、思う。


(……このままでいいのか?)


 その日の帰り。


 エレベーターの鏡に映る自分を、日高はじっと見ていた。


 丸い顔。たるんだ顎。重そうな身体。


 スーツも、どこか似合っていない。


(痩せたら……変わるのか?)


 森元の言葉が、頭の中で繰り返される。


「痩せたらカッコいい」


 その言葉は、希望でもあり、現実でもあった。


「おい」


 突然、背後から声がした。


 振り返ると、そこにいたのは――


 見たことのない老人だった。


 ぼさぼさの白髪。ヨレた服。明らかに会社の人間ではない。


「……誰ですか?」


「伊坂だ」


「いや知らないです」


「明日暇か」


「話聞いてください」


「ゴルフやるぞ」


「急すぎません!?」


 伊坂は日高の反応など気にせず、じっと顔を見た。


 そして一言。


「お前、飛ばせる体してるな」


「……え?」


「その体は武器だ。捨てるな」


 日高は固まった。


 初めてだった。


 この体型を、否定ではなく“肯定”されたのは。


「……いや、でも俺、ゴルフとか全然」


「いいから来い」


「いや予定が」


「ねぇだろ」


「なんで分かるんですか!?」


「顔に書いてある」


「ひどい!!」


 だが、なぜか――


 嫌ではなかった。


 その夜。


 日高はベッドの上で、天井を見つめていた。


(ゴルフ、か……)


 正直、興味はなかった。


 金がかかるイメージしかない。


 おじさんのスポーツ。


 自分とは無縁の世界。


 だが――


「飛ばせる体」


 その言葉が、頭から離れなかった。


(俺でも……何かできるのか?)


 スマホを手に取る。


 検索欄に入力する。


「ゴルフ 初心者」


 画面には、芝生と青空、そして気持ちよさそうにスイングする人たち。


 日高は、少しだけ想像した。


 自分がそこに立っている姿を。


(……ちょっとだけ、やってみるか)


 この決断が、


 日高の人生を大きく変えることになるとは――


 まだ、誰も知らなかった。

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