第5話:とりあえず学校に慣れる
「おっはよー。ネバダくん」
で、そそくさと学校に登校してクラスメイトに挨拶。いまだに知り合いと呼べる人間が一人しかいないのは俺にとって敗北なのか何なのか。今日の砂漠谷さんの格好は、とあるエロゲーの学生服だった。カラフルな色合いで、リボンも多用。学校指定にするにはツッコミどころが多すぎる制服だが、紙芝居系ギャルゲーの学校制服はトンチキなデザインも多い。今回の砂漠谷さんの制服もその一種。
「で、月影の女神とはどうなったの?」
「さあ?」
「なんかヤンデレっぽいよねー。ボクとしてはオススメしないかなー」
とはいえ、あそこで助けないって選択肢はなかったしな。
「今日は早めに家を出て、待ち伏せされないように注意を払った」
「にしては遅めの登場だね?」
「駅で本を読んで時間潰していたからな。学校とはまた違う醍醐味だぞ」
「駅で本読むインテリ男子?」
「中二病っぽくて青春だろ?」
「にはー。確かに」
「で、砂漠谷さん的にはアキラは危険だと?」
「…………むー」
そこで不機嫌そうにされても俺の側にはフォローの準備は無いんだが。
「月影の女神はアキラって呼んでるのに、なんで私は砂漠谷さん?」
「エリとでも呼べばいいのか?」
「分かってるじゃーん。ネバダくん。もういっそ付き合っちゃう? 教室で授業中にキスしても誰もツッコまないよ?」
「多分セクロスしても生徒指導の対象にならないだろうな」
「じゃあやっちゃおう」
「却下で」
「ナゼェ……」
「俺の子供が生まれるとか、転生してきた魂に申し訳が無い」
「あ、家族が出来たらDVとかするタイプ?」
「いや、大事にはするんだが、一身上の都合があって」
「都合?」
「それはまぁいいだろ」
別段話すような内容でもない。
「それより、お前をどうにかして呪いを解く方向に持っていかないと」
「え? なんで?」
それガチで言ってんのか?
「いいじゃん。別に。ボク的にはネバダくんに認知されていればそれでいいし」
「脳卒中で死んでも誰も救急車呼ばないんだぞ?」
「その時は死ぬよ」
あっさり言うな~。しかし。では。だからこそ。その様にエリの無謀さをいさめようとしていると。
「ネバダくん!」
会話と会話の一瞬の間。そこにつけ込んだアキラの言葉が教室に刺さった。ザワリ、と教室が騒めく。俺もちょっと何と言っていいのか。そこには特進クラスに所属しているはずの女子生徒がいた。常闇アキラ。月影の女神と呼ばれる美少女だ。もちろん俺を俺と認識するのも、俺がエリと会話していないタイミング。だがその空白が圧倒的に引き延ばされていた。
「月影の女神だ……」
「……月影の女神」
「え? ネバダくんって……」
教室の全員が俺を見る。いや、見られても何も返せるものはないぞ?
「ネバダくん! 大好き!」
で、全く空気を読むということをせず。月影の女神こと常闇アキラは俺を抱きしめていた。デレデレの愛らしい顔で、学年で一番可愛いと言われるのも納得の顔で。俺を抱きしめた。
「「「「「はあ? ……はあぁ? ……はああああぁぁぁ!?」」」」」
もちろんクラスメイトには意味不明だろう。転校してから三日しか経っていない、どこにでもいるモブ野郎が月影の女神の寵愛を受けているのだ。俺でも不条理に思う……というか思っている。
「ちょっと。離れろ。アキラ」
「嫌でーす。ネバダくんが先に登校したのが悪いんですから。ネバダニウムを補給しないと」
「ネバダくん? どういうこと?」
で、ちょっとゴゴゴゴとか効果音がつきそうな、スタンドに仁王像を背負ってエリが聞いてくる。
「惚れられた」
エリとの会話は、他には漏れないのでどうでもいいが。
「ネバダく~ん。今日の放課後はどうします? 転校生らしいですね。部活動見学とかします?」
「いや、ちょっと離れろアキラ」
「そんなこと言って。ネバダくんは恥ずかしがり屋さんですね」
そもそも部活動はどうしようか悩んでいたのだ。
「俺はだな。んぅぐ!」
そして言葉を紡ごうとして、唇を防がれた。ソレを全員が見ていたが、認知しているのは俺だけだった。キスされたのだ。俺は。エリに。砂漠谷エリに。
「ちょ。お前。ここで燃料投下するか普通?」
「いいじゃんキスくらい。どうせ誰も見知ってないよ」
たしかに。エリとのキスは無かったことになっている。そもそもアキラよりも七馬身差つけて可愛い絶世の美少女エリを誰も認知していないというのが世界にとっては損失だ。そのエリを見れるのは却下ン視を持っている俺だけで。だから彼女は俺を想っている。
「だからってキスしていいとはならんだろ」
「ネバダが常闇さんにデレデレしているのが悪い」
「さいですかー」
「ネバダもボクにキスしていいんだよ」
「時も場所もわきまえず。か?」
「いつでもウェルカムだから」
で、寝取られているとは気づかないまま、アキラは俺を抱きしめる。
「ねえ。ネバダくん。イチャイチャしましょう」
「もうしている」
「もっとしましょう。私が誰の所有物なのか周囲に分からせましょう」
「理解が追いついていないんじゃないか」
月影の女神が俺にデレデレしている。そのことに不満を持たないことがそもそも難しくて。
「で、ネバダは常闇さんと付き合うの?」
「コイツが地雷ってのは芯の髄まで知ってるから」
はっきり言って冗談じゃない。
「ネバダくん。キスとかします?」
「しません」
「あ、お弁当作ってきたんですよ。一緒に食べましょうね」
「だから付き合ってもいないのに彼女面するな」
俺がそう言うと。ミシィ! メキィ! ベキィ! とペンの折れる音がした。アキラに抱き着かれて、ソレを嬉しがるどころか「彼女面するな」とか言ってしまう俺の傲慢さに怒りを覚えて握っているペンを折ってしまったらしい。気持ちはわかるが、こんな地雷女を彼女にする気は俺には無いぞ。
「もちろんお弁当は二人で食べましょう。あ、放課後は部活動見学のデートですね。私が案内してあげますので」
そんなわけでそんなことになった。その間にエリが何回キスをしたのかは黙秘で。




