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第17話:ジャージ登校


「くあ」


 寝不足という言葉は俺とは縁がないが、欠伸をするのも人間らしくていい。


「は、ハロー。ネバダくん。奇遇ですね……」


 俺が今日玄関から出ると、偶然を装ってアキラが合流してきた。俺の家を把握するのも当然で。なんというか。不法侵入してこないのは単に鍵が無いというだけのような。


「何でジャージなんですか?」


「制服はクリーニング中」


 血まみれになってしまったので、クリーニングに出すことになった。もちろんワイシャツは放棄。あそこまで血に塗れると、むしろ買った方が早い。


 で、もちろん俺は須藤さんに頸動脈を刺されたわけだが。それをアキラに申告する気はさらさらなくて。別に言ったところでな。そもそも大事にする気が俺には無いというか。一応須藤さんの様子も見ているが、彼女は一晩中胃液を吐き続けた。かなりのプレッシャーだったのだろう。何で俺が知っているかと言われると、それは黙秘で。


「じゃ、いくか」


「そうですね。ラブラブ登校をしましょう」


「お前。自分が月影の女神だって自覚あるか?」


「可愛いですよね?」


「まぁ可愛いな」


「全部ネバダくんのモノですからね? この顔も。唇も。おっぱいも。あそこも。全部ネバダくんに捧げるので好きに蹂躙してください♡」


 だから危ういんだって。アキラは。マジで惚れこんだ男には土地の権利書まで捧げかねない。俺は詐欺を行うつもりはないから、その時点では安全なのだが、下手な男に引っかかるとアキラの性格上地獄へまっしぐら。


「ネバダくんはジャージ姿でもカッコいいですね」


「ありがと」


 クシャクシャと月影の女神の頭を撫でる。


「えへー。大好きですよぅ」


「俺はそんなでもないかな」


「スマホ見せてください」


「絶対イヤ」


「ちょっと他の女子と会話しているか見るだけですから」


「こんな陰キャが女子とメッセージしてるわけないだろ」


「でもネバダくんは世界一カッコいいじゃないですか」


 色眼鏡が過ぎる。


「俺と一緒にいてもあんまり幸せになれんぞ」


「ネバダくんと一緒にいないと私は幸せになれないんです♡」


「じゃあ俺の御機嫌を取れ」


「あ、キスします?」


「それはノーセンキュー」


 もちろん俺が制服を台無しにして、ジャージ姿で登校したことも話題を呼んだが、実際の声は他のことを言っていた。つまり伏見ネバダと月影の女神が腕を組んでラブラブで登校してきた、と。


「噂されていますね?」


「これが目的か」


「付き合いましょうよ。私たち。そしたら私抱き放題ですよ?」


「とは言われてもな」


 今のところ須藤さんは家で参っている。今日は登校しないのか。あるいは無理くりでも来るのか。来たところでコンディションは最悪だろう。多分保健室行き。


「…………」←クラスメイト


 いきなり転校してきて、月影の女神とイチャイチャしだしたら、それは八百長の三つや四つは疑うだろう。俺としてもどうしてこうなったとはテーゼに成りえて。とはいえ、あのままアキラを自殺させるわけにもいかないのは事実で。とするとどうしてもアキラに惚れられるのは決定事項で、須藤さんに刺されるのも決定事項。


「嫌な因果だな」


「何が?」


 で、毎度は毎度で毎度のごとく。俺の隣にはアルビノ美少女……砂漠谷エリがおり、今日もまた俺以外のクラスメイトから無視されている。黒子迷彩も因果なものだ。


「で、今日はスク水か」


「スクール水着見つけちゃって。ちょっと良くない?」


「良くはあるんだが……」


 名前欄に「えり」と書かれており、その文字が爆乳のサイズによって捻じ曲がっている。ここまでのおっぱいの暴力を見たのは初めてかもしれない。ほら、非モテの陰キャだし。


「そんなにおっぱい見られると照れちゃうよ」


「すまんが。男のサガだ」


「えへへ。でもそのためにスク水を着てきたまであるからね」


 それはありがたいことだ。エリの爆乳を拝めるなら裏オプすら払う覚悟が俺にはある。というか俺以外には見えてないんだよな。勿体ないというか安心するというか。


「よーし。じゃあ席付け。出欠はタブレットになー」


 ポンと出欠を定義させる。そうして俺はスク水を着て授業に臨んでいるエリの隣で、普通に授業に臨んだ。


「この時のABはだな……」


 数学なんて意味不明な気もするが、何故だか理解はしてしまう。タブレットで説明を聞いて、そのまま数式を解く。そうして数学が終わり現代文、英語、物理と続き、そのあと昼休み。


「ネバダ。一緒にご飯食べよ?」


 相も変わらずスク水のままで、ボヨヨンとおっぱいを揺らしながらエリが言ってくる。拒否する理由も無いので許諾すると、今度はアキラが声をかけてくる。


「ネバダくーん! 御飯に行きましょう!」


 普通に大きな声で教室に響かせる。ちっとは遠慮してくださるとありがたいのだが、そういうわけにもいかんのだろう。


「ちなみに」


 須藤さんは保健室でグロッキーだ。俺を殺したことを未だにプレッシャーに感じているらしく、食事に行こうとする気概もないらしい。せり上がる胃液を喉元で抑えるのが精いっぱい。さて、とすると、そろそろ俺が生きているとネタ晴らしした方がいいのか。


「ん~…………?」


 で、そこで思考をいったん打ち切って、俺はスク水姿のエリとラブラブしながら教室の外のアキラと合流する。その俺を見てアキラは首をかしげる。


「何か?」


「いや、なんだかわかりませんけど……今のネバダくんを見ていると無性にイライラするというか」


 エリに腕組みされて肘がおっぱいで幸せなのだ。そりゃ認知できないとはいえ俺推しのアキラには不快感だろう。知ったこっちゃないけど。


「女の子とコンタクト取っていませんよね?」


「一人いるがな」


「恋堕の天使?」


「アレは例外」


 そういう問題でもないのだが。


「ネバダ。ネバダ」


「どうした? エリ」


「チュッ♡」


 で、こっちの許可も無くキスしたエリはそれだけで嬉しそう


「なんでしょう? この脳破壊にも似た悪の意識は……」


 困惑するアキラは俺の隣にいるエリを見ていない。けれど無意識の底の底で、目の前で俺がエリとキスしていることを認めていないわけではないのだ。そりゃ脳破壊にもなる。


「大好きだよ。ネバダ。アキラよりも須藤カーマさんよりも。いっぱいいっぱい大好きだよ」


「なんでネバダくんは何もしてないのに、こんなに脳破壊が……」


 なぁ。互いに脳破壊を行使するのは止めないか?


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