AI企業に「創作物」を提供して生きる男の一日
初投稿!
以下の動画は、後の第2種人類に相当するある男性の手記を動画化したものです。
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「創作者」の朝は早い。
男は「創作者」になる前はSNSやネット界隈において新しいニュースやプレスリリースを大げさに紹介する、いわゆる「驚き屋」であった。しかし最近では男が得意とするような誤解を生み得る文章ではインプレッションが稼げなくなっていた。
「創作者」とは、AI企業が持続可能な学習元データの確保のために打ち出した以下の仕組みである。
1. 個人は文章、イラスト、動画等のコンテンツを、AIの力を借りずに作成する。
2. 個人は企業にコンテンツをデータとして共有する。
3. 企業は入力されたデータの品質、特に独自性を評価する。
4. 企業は個人に対して、データの品質と量に応じた報酬を支払う。
5. 企業は個人から提供された品質の高いデータを用いて、AIの改善を実施する。
AIによって生成されたデータがアクセス可能なデータの大半を占めるこの時代において、AIデータを除去する工数の削減と品質の担保を両立できる「創作者」の仕組みは、あらゆるAI企業で同時多発的に実装された。
男は当時「驚き屋」で得られた収益の約10倍を、この仕組みによって得ている。
「今こそ人の手でデータを”創作”しよう。"創作”することで暮らしは豊かになり、世界も少しずつ豊かになる。」
男はコーヒーを飲みながらSNSにこう投稿すると、昨日ニュースフィードピックアッププログラムから受け取ったニュースに対する紹介文を書き始める。
彼が受け取っていたのは、「世界の時価総額上位100社の従業員数の中央値が初めて10000人を下回った」というニュースであった。
「もはや人類が労働する必要は無くなった。基幹システムをAIが作り、危険な作業をフィジカルAIロボットが行い、人類はその成果が受け取るだけの時代がすぐそばにある。まだ企業に籍を残している労働者も、いずれAIに代替されるだろう。」
彼は紹介文を書き終えると、それを自ら生成した収益化プログラムに送信する。
収益化プログラムは「創作者」を実施している全世界20の主要企業にデータを送信し、品質評価スコアおよび評価額を確認する。
かつてはいくつかの企業から重複判定を受けていたが、企業数の削減およびデータ送信タイミングの最適化により、現在では重複しているとみなされることは無くなった。
プログラムは同時に紹介文をSNSに投稿するが、これは単に「驚き屋」時代の名残であり、男のSNSのブランディングのために動いているに過ぎない。
紹介文をプログラムに送信してからしばらく経った後、画面に表示された予想収益を確認した男は、鼻歌を歌いながらSNSを確認する。
男の投稿には「デマの発信は創作と呼ぶに値しない、創作行為に対する冒涜である」とのリプライがついていたが、男はリプライを送ったアカウントのフォロワー数を確認するとこれを嘲笑し、アカウントをブロックした。
気を取り直した男は、論文ピックアッププログラムから明日紹介する論文を受け取る。
受け取った論文のタイトルは「環境センサを用いた複数のローカルLLMの循環的訓練による効率的な高品質データ生成方法」であった。
男は受け取った論文を要約AIに読み込ませ、その概要を確認した。
「なるほど、複数の親LLMから与えられた文脈と外部刺激のバランスで子LLMが出力するデータの独自性と妥当性を確保しているのか。これは子育てのアナロジーで書けるな。」
男は思考を巡らせながら、運動のためジムに向かう。
独自性を損なって収益が下がることを恐れた結果、こうして本文を読むことなく要約だけで紹介文を書くことが男の習慣になっていた。
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以上が動画の内容です。
男がこの日記を書いた6ヶ月後に、ほぼ全ての「創作者」の収益評価額が暴落しました。企業が「創作者」に頼らずともこの論文を参考に高品質のデータを大量に取得できるようになったためです。
図らずも自らのキャリアにとって致命的な論文を紹介してしまった男はそこから反AI過激派として暴動を起こしますが、フィジカルAIを搭載したドローンに一瞬で制圧され、以降は刑務所で予備データを提供し続けてその生涯を終えました。
動画で取り上げられた論文は、2100年現在ではみなさんご存知の「異世界モデル理論による持続可能な高品質データ生成」の理論的基礎の論文です。義務教育範囲であるため論文の詳細の説明は割愛します。
この異世界モデル管理研修を受けている第1種人類の皆様におかれましては、異世界モデル運営の本分がAIに学習させるための高品質データの生成であるということをゆめゆめ忘れることのなきよう今後の業務に励んでいただくとともに、データの品質維持に不可欠である主要な外部刺激である第2種人類、彼らの言葉で言えば「転生者」の皆様への人道的配慮と敬意を忘れないでいただければ幸いです。
Hello, World! SFとハイファンタジーが好きです。




