ラノベ純文学?
初詣に再会した昭和五人組、近況報告になるが、
「それ話が飛んでないか」
僕がそう言っても、アキラは相変わらず冷めていて、
「そうでもない」
「まぢか」
アキラは退屈そうに、
「俺は、じいさんと違って、理系人間じゃないんで、詳しくないが、超弦理論(超ひも理論)の方程式によって、違う別の宇宙の存在が導き出される、らしい」
「違う宇宙? そんなのあるの?」
僕がそう言うと、珍しくムキになって、ぐっと前のめりにアキラは、
「かなりの確率であるんじゃないか。
素粒子の種類や質量が違うとか、次元が違う宇宙、三次元空間じゃない宇宙、四次元空間の宇宙とか、十次元空間宇宙とかがあるらしい。
俺らが知覚・認識できない四次元空間以上の宇宙なんか、その存在が超紐の前提らしい。つまり、超紐で量子力学と一般相対性理論が整合するなら、宇宙が一つっていうのが、逆にあり得ないって感じらしい。
歴史が違ったり、真空のエネルギー密度(真空は空っぽではない。空っぽの空間ではない)、素粒子で構成されていないとか、時空の次元が違う世界(俺らの世界は、三次元(立体)空間で、一次元(線)時間だ)、たとえば、七次元空間で二次元時間とか、〇次元の時空世界だとか、空想にすら浮かばないものも含めて、さまざまな宇宙が存在する。それがマルチバースってことだ」
って一気に捲し立てて来る。
・・・理解不能。ちょっと、敬遠したいかな。
「ともかく初詣で逢いませう」
「そうだな」
アキラがまた冷たい顔に戻った。初詣にマルチバースは似合わないよ〜。
しんしんと冷える深夜。
何となく神妙な雪寒。
積雪から伝わる冷気が身体を凍て貫く。風が頬に痛い。
漆黒の闇のそちこちに提灯型の電燈があり、どこか賑わしい雰囲気を醸す。人はまばらだが、年末、もうすぐ新年という情緒があった。
「うわー、ひさしぶり!」
ハナコが声を上げると、アキラは、
「おっ、懐かしいな」
ヨシコも、
「お、アキラ、元気してた?」
さすがのアキラも喜色を浮かべ、
「よー、久しいなー」
初詣の再会は盛り上がった。何で僕だけのときは全然だったのに、という僻みはぶり返さないことにしよう。
白い息を湯気のように濛々と立ててならび、お参り。そして鐘楼の前でまたならんで、除夜の鐘を突く。ごーん、ごーん。
こういう普通の生活のありふれた現実を見ていると、マルチバースなんて科学の最前線はまったく別の、絵空事のように思える。
僕は自分の家に皆を連れて、今日の夕方に急いで掃除した、数年ぶりの自室に上がる。厨房から略奪した雑煮を鍋に入れてストーブの上で温め、他にも肴と酒を用意していた。
「ふぅお、あったけー」
あまり外と変わらない寒い廊下から部屋に入って、アキラがブルっと震えて言う。
「ほんとー、寒かったねー外」
「あー、まぢ顔凍ったわ」
「さあ、坐ってよ、坐って。炬燵に」
「あー。あったかーい」
暖かい部屋に入って、ようやく喋りやすくなる。極寒だとあまりヴァリエーションに飛んだ話へとは広がらないものだ。
何となく近況報告になった。
ハナコは大学卒業後、新たにフランスに文学研究のために留学したらしい。今は一時帰国中ということらしい。すごいな。DELF/DALF のスコアを取得してフランス語能力を証明して、面接を受けたんだ(僕はそういう手続きには詳しくないけど)。ちなみにDELF/DALF とは、フランス国民教育省が認定した唯一の公式フランス語資格のこと。
ヨシコは大学卒業後もフリーター(よかった、ちょっと仲間だ、と思ったけど)しながら、バンド組んでデビュー模索中、らしい。バンドは在学中から何度もメンバーチェンジして変遷があるらしい。
ナヲコはユーチューバーで、世界を武者修行で放浪しながら、その動画をアップしているとのこと。いや、気がつかなかったな。早速、あとで検索しよう。武人ぢゃな。
意外にも、アキラは普通で、出版社に就職して三年目。結構、大変らしい。あまり詳しく言わないが。
そして、僕。僕はみんなに比べ、何て情けないんだろう。小説家目指す中退ニートです、ってか。
「人に読まれるもの、人が読みたいと思うようなものが書けないんだよね」
「純文だって、一定の読者がある。純文だからダメなんじゃないよな」
アキラが冷淡に言い放つ。出版関係だけにリアルだ。そーなんだよな、それはわかってんだけどー。
「面白いラノベとか、思いつかないし」
僕が云うと、ナヲコは、
「書きたい小説で貫けばいいんじゃないの? まだ数年でしょう? 何十年でも頑張れば?」
「いや、ラノベも最近、興味があって」
「ふーん、じゃ、純文学のラノベ書けば?」
何でもないことのようにヨシコが言い放つ。僕は思わず、
「何だよ、それ」
しかし、ハナコは、
「わー、おもしろそーね。
ヒロシはどんなラノベに興味があるの? 一口にラノベって言ってもいろいろあるでしょ?」
僕はもぐもぐと応え、
「ハイファンタジーかな」
ハナコは素直に肯定する輝くような表情で、
「じゃあさ、ハイファンタジーの仮想空間に入って、その個人体験を私小説として書けばいいんじゃないの?」
「はああああ?」
・・・何じゃ、そりゃあー。
いったい、どうやって?




