ー華奢な英胡(ハナコ)ー
故郷の実家に帰り、待ち伏せ。まずは英胡に遭遇。
しんしんと降る。
また雪か。
北国は仕方ない。
十二月に入って以降、寒波が押し寄せる日々が続き、雪掻きも追いつかず、歩行や車道の必要最低限だけかろうじて確保しているが、それ以外はどこもかしこも降り積もっていた。
除雪もあまり行き届いていない旧街道。
古い古い道で、その始原は縄文まで遡るかもしれない。ここに限らず、道って、意外と昔から変わることなく、そのまま使い続けられているものらしい。
そこから逸れて石段を上がったところに茅葺きの山門があった。
山門の二階が天井の低い、小さなお堂になって、仏像とか羅漢像とかがある。ちょっと整えれば、小部屋として使えなくもない。
自分を見つめたいから、反省したいからと適当なことを言って、僕はそこに秘密基地を作り、監視している。
もともとライトアップの関係で、100V30Aの電気が通っているので、500Wの小さな電気ヒーターを背に、モバイル・パソコンで小説書きながら見張っていた。
お寺の方は家族総出でも足らず、檀家さんにも手伝ってもらい(例年どおりのことだけどね)、大忙しだというのに、僕はこれでいいのかと良心の呵責を感じつつも、もともと当てにもされていないし、現実問題として何の足しにもならない、戦力外、むしろ、邪魔かもしれない、という事実をわかっていることが罪悪感というか、心を咎める荊棘を緩和させていた。
しかし、上から眺めるって、気分のいいもんだ。相手から見られず、こっちが一方的に見る、というのも何だかワクワクする。
家族がいくつか、僕の足下を通り過ぎた。
墓参であろう。仏華を持っていた。
降り積もる白い雪。常緑林の葉も幹も、石灯籠も、青い傘も白い雪との対比で、黒にしか見えない。
白と黒しかない世界。何か詩情・・・・・・
「静か過ぎる、しんみりしちゃうなあ。・・・どーでもいいけど、傘差してると、人物わかり難過ぎるー。仕方ないかー、雪だもんなー」
「あ」
思わず小さく叫んじゃった。
聞き覚えのある声がしたからだ。懐かしいな、これは。たぶん。
急いで降りて追い駆けた。雪をザクザク踏むので、彼らは振り返った。そのうちの一人の女子に僕は声を掛けた。
「久しぶり、ハナ、僕だよ、覚えてる?」
「え、ヒロシ? びっくりした! 急に出て来て、いったい、どこにいたの?」
そうそう、僕はヒロシって言うんだ。
劉玄非鹵史。それが僕の名前。
「・・・あ、いや、そのー、境内を見廻ってて、いや、まあ、見廻りって言っても、ただ、見て廻ってるだけ、って言うのか、えっと、年末年始なんで、帰省って感じで、何て言うか、ちょっとお手伝い・・・的な」
さすがに待ち伏せとは言えない。バレないようにしようと焦って却ってめちゃくちゃ不自然になった。でも。
変わってないな、ハナ。何て言うか、可憐だ・・・・・・。
伊麁英胡。
眩しい感じの色白で、眼も眸もが大きくて、まつ毛が長くて、とても細くて、とても華奢な子。肩に柔らかくかかる黒髪の上に、白い毛糸の帽子をかぶっている。長靴のファーが可愛い。実は片想いだったんだよなー。仲良しゆえに告れなかった、というより単に告れなかった。情けねー。
「そっかー、ここ、ヒロシんちだもんね」
輝くような微笑。まっ白い頬に、寒さで赤みが差している。
「そーそー、僕んちだよ、今日はお墓参り?」
何だか、じぶん、変なこと言いそーで怖い。
ああ、燦々とした双眸、瞳の虹彩もあざやか。
「うん、そう。明日は初詣に来るよ」
「そりゃ好都合、じゃなくて、いや、まあ、って言うか、久しぶりに昔の仲間が集まれればいいね!」
「ほんと、会いたいね! 来てるんじゃないかな、去年は、ヨシコとかと会ったよー、ここで!」
「まぢ?」
「うん」
「で、初詣は何時くらいに来るの?」
「〇時前だよ、カウントダウンね」
・・・ああ。
まあ、カウントダウン的なことは、この寺はしないけど・・・・・・除夜の鐘だけね。
「わかった、他に誰かここで見たら声かけとくよ」
「あたしも連絡してみるねー」
いやー、孅そーで、ナイーブな感じがあって、ちょっと愛嬌あって、繊細で、どことなく儚くて、可愛い過ぎ。最高。さいこー!
あがってきたなー、やっぱ、帰って来てよかったー。笑
とりあえず、いったん別れて、再び山門の上の小部屋で、待ち伏せ態勢に戻ったが、このやり方、何となく消極的じゃないかな。
ハナと話していて、帰省する元クラスメートもいるらしいことがはっきりわかったし、連絡先はまだスマートフォンに残ってるはずだし、電話するっていうのも、手じゃないかな。
ハナに会えたから、っていうのは大きい。「ハナに会ったんだよ、だから、みんな久しぶりに会わないか」って、言いやすい。
電話した。誰も出ない。SNSも送った。既読にならない。
拒否? ブロック?
そんなはずはない。確かに僕は数年ぶりだけど、ハナは昔と同じく接してくれたし。
すると、背後から、雪を踏むザクザクという音が・・・
振り向くと、竹刀を持った髪の長い人物二人、編み込んだ派手髪と切り揃えた艶やかな黒髪、紺色の道着(道衣)に袴、よく見ると下駄を履いているが、あれって、もしかして鉄下駄か? 修行みたいだ。私的な寒稽古か? まるで、昭和の柔道漫画?
けど、彼らが境内の雪を蹴散らせて始めたのは、剣道であった。
「やーっ!」「たーっ!」「きえぇぇぇぇーーーっ!!!」
怪鳥のような奇声を上げている。
すげーな、よくやるよ。
こんなバカなことする奴らは決まってる。僕は近づいた。どうりで電話に出ないし、既読にもならないわけだ。
雪の中、素足に鉄下駄で剣道をしていた二人は・・・、




