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闘い

図らずも、闘いが始まってしまう…



「わたしたちは、怪しい者ではありません。

 今この世界に着いたばかりで、無一物無一文で真っ暗闇の中、困窮して彷徨っていた者たちです。一縷の希みを懸けて物音のする方へ駆け寄りましたが、どのような方たちかわからないので、隠れて様子を見ていて次第です。決して悪しき意図があって隠れていたわけではありません」


 ハナコだった。ハナ、凄い。勇気あるな。僕がなさ過ぎか?


 いや、それにしても、うまい。理路整然で、その上、嘘がない。

 しかも、堂々としている。

 不思議なもので、人間って、おどおど語ると真実も嘘に聞こえるし、嘘も堂々語ると真実に聞こえる。毅然堂々が肝要だ。

 何事も最悪を想定して慎重に言動することが必要とは言え、大いに自信を待って堂々することも大事なんだな。うむうむ。


 偉いよ、ハナ。僕はますます負けている。雨、冷たいな。



 しかし、相手の反応は……沈黙、だった。

 ランプに照らされて、動かない。

 一人の黒騎士が一人の黒いコートの男に小さな声で訊いた。

「いかがいたしましょう」

「殺せ」

 そう冷厳に言った黒いコートの男、カンテラの反射で、実際の顔を見た。彼が呪詛人形の眼の男だった。

「しかし、猊下」

「この異様な光景は記憶に焼きつくであろう。それを偶然、どこかで語ればわかる者にはわかる。

 このことは誰にも知られてはならないのだ」

 黒い重装機甲の騎士たちが一斉に剣を抜く。鞘の内部で重たそうな金属がしゃりっと擦れる音が響く。


 ヨシコとナヲコがハナコの前に飛び出し、ナヲコが叫ぶ、

「待て、卑怯者、武装した戦士が丸腰の、非武装の素人にそのような無体なことをするとは。悪辣だ、赦されざりしこと、悪党どもめ」


 ヨシコも、

「そうだ、卑怯者、武人の風上にも置けないよ」


 二人ともいつの間にかどこから手に入れたのか、棒、と言うか握るにちょうどよい太さの硬そうな木の枝を持って構えている。棒の長さは一メートルと少し。


 個人的には正気の沙汰とは思えない。さすがナヲ/ヨシ・コンビだ。


 ちなみに、この世界に来てから彼女らを燈火の下で見るのは初めてだった。今までは暗闇か、洞窟の中での弱い光だけだったから。


 改めて見ると、二人とも異様な姿になっている。人間であることに変わらないが、薄着ながらもツノのない小鬼のようだ。天童のようでも、稚児のようでもあった。


 そして、彼女らの闘気はリアル世界にいたときの何倍も激しくなっているように感じる。異世界ならでは、か。

 炎が燃えるかのようだ。本人たちもそう感じて、抑え切れないのかもしれない。


 四十騎の騎士たちは少し意外だったような空気感を醸すも、百戦錬磨の猛者たちなのであろう、動ずる気配は一向になく、ただ、

「ふ」

 と鼻先で嘲るのみ。 

 あるいは、

「バカな、なんの冗談だ」


「ち、舐めんな」

 ヨシコがナヲコに目配せし、ナヲコもうなずき、二人が今にも騎士たちへ襲い掛かろうとするとき、アキラが、

「待て、いくら何でもその木の棒じゃ、無理だ。少し待って、できるかもしれない」

 と言って眼を瞑り、何やら、むにゃむにゃ。できるって、何が?


 すると、どうだ、ナヲコとヨシコの持つ棒が螺旋状に小さな靁光をまとい、棒自体も光を放つ。

 ヨシコが眼を丸くし、

「何、何なの、これ」

 アキラ自身も驚いたようで、

「ああ、本当にできた、できるような気がしたんだけど、本当にできた」

 ナヲコが、

「何をしたの」

真咒(マントラ)だ、叡智の光を附与した、何となく、それが有効のような気がしたんだ」

「叡智!」

 ハナコがその言葉に反応した。ハナコも貧相な薄いチュニックだが、何となくエルフのようでもある。髪色はプラチナ。


「何だ、お前ら、偽りを言ったな。魔法使いのようだな。やはり追手か、刺客か」

 ……逆効果、余計に誤解が深まっている。

「なるほど、確かに生かした返すべきではない。只者ではないな、貴様らは……」

 最後まで言わせず、ヨシコが飛び上がり、激しく打ち据え、

「黙れ、窮鼠猫を噛む、さ」

 騎士は落馬し、昏倒する。

 憤った騎士たちがヨシコとナヲコに殺到し、剣を振りかぶる。そのときだ。


 ハナコが両手を広げ、

「真実よ、真理、叡智は金剛石(ダイヤモンド)のように輝き燦めく、強靭に、神様」

 そう訴えた。

 透明な光の(シールド)があらわれ、半球体のようにシャボン玉のような虹色に色彩を移ろわせながら、五人を蔽った。


「ぅわっ」

 勢いよく飛び上がり襲いかかった三騎が弾き返され、後続の五騎とぶつかる。その五騎は勢いで吹き飛ばされ、続いて殺到していた十騎は薙ぎ倒され、それらの後続の二十騎は退く。

 静観していた二騎は眼を丸くしていた。騎士隊の上官と見られる。


「今だ」

 ナヲコとヨシコが突っ込む。二人の暴れ方は現実世界にいたときの比ではない。

 二人で十五人ずつ、あっという間に叩きのめし、剣や楯を奪って、徹底的に打ちのめす。鬼神の振る舞いだ。動くうちに二人は光輝を帯びて来る。

 全員から剣や槍や楯を奪い、

「さあ、降参か」

 黒いコートの男を睨んでナヲコとヨシコとがそう言う。



 あれ? 僕だけ何もしてない?


 

 







……みんな何でこんなに能力が、自分にだけ何もない。とほほ。

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