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奇妙な街に住んでいた  作者: ぽぴ


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9/9

仏師


住んでいる地域の雰囲気を「地域柄」と言う。


 私がかつて住んでいた地域はどんよりして、いつも曇り空のような雰囲気があった。空は快晴なのに、黒い雨水が垂れた壁が街の湿度を空へと逃さない。


 片足のゴールデンレトリバーに、墓に居座るシュナウザー。親が自殺してイジメを受ける同級生に、不良に「イジメないで」と手紙を書いた知的障害者。こちらを覗く大きなヒキガエルに、爆発したナメクジ。


 団地の1室には黒蠅のむれ

 藪からはヘビと変質者。

 ため池では毎夜、異音が。


 私が住んでいた地域では、こんな事がよくあった。違う地域に引っ越してから、それが普通ではないと知った。


 今回は、そんな街に住んでいる私の叔父についての話だ。





親戚に、木彫りの仏像を彫り続けている叔父がいる。


 仕事として彫っているわけではない。正月のような明るい日でも、薄暗い部屋に籠もって、ずっと仏像を彫り続けている。


 まったく喋らず、笑わない。

 とても不思議な叔父だ。



 初めて叔父を見たのは、幼少期のお正月だった。


 車に揺られて着いた場所は、静寂と陰湿な空気が漂う異様な家だった。敷地から伸び出ている枝は小刻みに揺れ、何かに枝を伸ばそうと足掻いているように見えた。


 大きな門をくぐると池が見えた。池を跨ぐように掛けられた石橋の下では、無数の鯉が泳いでいる。道路にはみ出していたあの枝は、庭の隅に植えられた、柳のように枝を垂らした大きな木のものだった。


 玄関の戸を開けると、廊下の先から明るい声が聞こえた。「明けましておめでとう!」と、廊下の突き当たりから、叔母が顔を出した。


 叔母はそのまま私に顔を向け、「叔父が二階にいるから、お年玉をもらってきなさい」と言った。


 それを聞いた両親は、「もらってきなさい」と私に言うと、靴を脱ぎ捨てて叔母のいる部屋へ向かっていった。


 玄関にぽつんと残された私は、見知らぬ叔父に1人で会いに行くことになった。


 2階に上がる階段を見上げると、そこは明かりがついておらず、ひどく暗かった。


 辺りを見回してスイッチを見つけたが、子供の私には手が届かなかった。諦めて、階段の1段目に足をかけると、とても冷たかった。暖かい灯りに包まれた玄関とは異なる世界のような、一種の拒絶を感じる冷たさだった。


私は手すりにしがみついて、1段ずつ、2階へと向かっていった。


 2階の廊下も真っ暗だった。階段の上の格子窓から差し込む光が、ぼんやりと廊下を浮き上がらせている。


「(暗くて嫌だな……)」


そんなことを思っていると、ふいに「コトッ……シャリシャリ」という音が聞こえた。一番奥の部屋からだ。


私は薄暗さに怯えながら、その部屋へと向かった。


 引き戸を開けると、部屋の中央に青い背中があった。


 叔父だ。


「明けましておめでとうございます」と言うと、叔父は顔を少し動かし、こちらを確認するかのように見たあと、何かを指さした。


 指さされた方向には、荒々しく作られた、ささくれだらけの机があり、お年玉袋が並べられていた。


私は自分の名前が書いてある袋を取ると、

お礼を言うために叔父の背中と向き合った。


 丸まった青い背中。

 叔父は私の方をまったく見ない。


 部屋を見回すと、木彫りの仏像が叔父を取り囲むように、たくさん並んでいた。


大きな仏像に、小さな仏像。


どの仏像も、叔父をじっと見つめていて、まるで『桃太郎』に出てくる、亀を取り囲んでいじめている悪い人たちのように見えた。


 叔父は青い背中で色褪せた緑の畳に座り、茶色い仏像たちが叔父を見つめている。


そして、それを見ている私。


みんな、同じ部屋にいるのに、

違う世界にいるみたいだった。


 私は叔父の背中に「お年玉ありがとうございました」と伝えた。叔父は何も言わず、手元の木を紙のような物で擦り続けていた。


 私は部屋を出た。


なんとなく、もう二度と会わない気がした。




 この叔父は祖父の兄にあたるのだが、祖母からは「気味が悪い」と言われている。いわゆる「視える人」でもある祖母は、叔父のまとっている雰囲気を不吉と感じているらしい。


 こうして思い返してみると、あの部屋には80体以上の仏像があった。部屋の隅から壁に沿って、何重にも叔父を取り囲んでいた。


 叔父は何をしようとしていたのだろう。趣味にしては、取り憑かれているように見える。


 あの日以来、叔父には一度も会っていない。


 亡くなったという話は聞かないから、今もあの部屋で、仏像を彫り続けているのだろう。



 何のためなのかは、分からない。


 



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