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奇妙な街に住んでいた  作者: ぽぴ


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8/9

マジックをみせてあげる


住んでいる地域の雰囲気を「地域柄」と言う。


 私がかつて住んでいた地域はどんよりして、いつも曇り空のような雰囲気があった。空は快晴なのに、黒い雨水が垂れた壁が街の湿度を空へと逃さない。


 片足のゴールデンレトリバーに、墓に居座るシュナウザー。親が自殺してイジメを受ける同級生に、不良に「イジメないで」と手紙を書いた知的障害者。こちらを覗く大きなヒキガエルに、爆発したナメクジ。


 団地の1室には黒蠅のむれ

 藪からはヘビと変質者。

 ため池では毎夜、異音が。


 私が住んでいた地域では、こんな事がよくあった。違う地域に引っ越してから、それが普通ではないと知った。


 今回は、そんな街で遭遇した、不思議な男性についての話だ。





 小学生のとき、友達のAと2人で学校の校庭で遊んでいた。私とAの2人きりの日曜日だった。


 私とAは生き物が好きで、学校中のあちこちで土を掘り返し、雑草が生い茂る場所を見つけては飛び込んでいた。そして、「何もいないよー!」と叫んでは、興奮した様子で校庭を走り回った。


 砂利を蹴りながら走っていると、裏門の近くの段差に、大人が座っているのが見えた。


 その人は私たちの存在に気がつくと、こちらに顔を向け、手招きを繰り返した。黒い帽子を被った男だった。


 私は、見たこともない、知らない大人が、学校の裏門にいることに違和感を覚えた。Aも同じことを思っていたようで、「……え、どうする?」と小声で呟いた。


「えー……まあ、大丈夫じゃね?」


なにかあれば、走って逃げればいいと思ったからだ。


 私とAは男に近づいた。近づいてみると、その男は、白髪が針のように帽子からはみ出しており、高齢にも見えるが、若くも見える。そんな不思議な「張り」を感じさせる雰囲気があった。



 近づいてきた私たちに男は、「マジックを見せてあげる」と言って、右の手のひらを広げた。


 普通の手のひらだった。


 さらに男は、「ここを見てて」と言った。そして、親指の付け根当たりの、ぷっくりとした部分を指さした。


 私とAは、その人が不審な人間であることをすっかり忘れていた。こめかみに汗が垂れるほど暑い日だったのに、男が長袖の上着を着ていたことすら、不思議に思わなかった。


 男は上着のポケットから、木のような物を取り出した。大人の爪くらいのサイズだ。男はそのまま、それを右の手のひらに乗せ、もう一度、「見てて」と言った。


 そして、左手で拳を作り、親指を伸ばすと、右の手のひらに乗せた木を力強く押し始めた。


 10秒ほどたっただろうか。


 男は親指を離した。


 すると、そこにあったはずの木は消えていた。木が押し付けられていた場所には、それとまったく同じ形をした「膨らみ」ができていた。まるで皮膚の下に、木が潜り込んでしまったかのような膨らみだった。


 私は「えー!? 気持ちわるい!」と叫んだ。Aは顔を傾け、その手のひらの膨らみを真剣に観察していた。


 男はカラカラと笑い、足を組み替えた。驚く私たちに満足したようだった。その笑い方は、どこかいたずらっ気のある仙人のようにも見えた。


 男がからからと笑うたびに、帽子からはみ出た針のような白髪が揺れた。


 不思議な体験だった。




 大人になった今も、あれが何だったのかは分からない。あの日以降、何十回と思い出しているけど、あのマジックの仕組みが分からない。


 学校の裏には山があった。

 人の入らない大きな山が。


 もしかすると、あれは本当に仙人だったのかもしれない。


 そう思わせるほどに、不思議な雰囲気の男性だった。





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