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奇妙な街に住んでいた  作者: ぽぴ


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6/9

片足のレトリバー


住んでいる地域の雰囲気を「地域柄」と言う。


 私がかつて住んでいた地域はどんよりして、いつも曇り空のような雰囲気があった。空は快晴なのに、黒い雨水が垂れた壁が街の湿度を空へと逃さない。


 片足のゴールデンレトリバーに、墓に居座るシュナウザー。親が自殺してイジメを受ける同級生に、不良に「イジメないで」と手紙を書いた知的障害者。こちらを覗く大きなヒキガエルに、爆発したナメクジ。


 団地の1室には黒蠅のむれ

 藪からはヘビと変質者。

 ため池では毎夜、異音が。


 私が住んでいた地域では、こんなことがよくあった。他の地域に引っ越してから、それが普通ではないと知った。


 今回は、そんな街にいた「片足のレトリバー」についての話だ。



 ある家にお邪魔したとき、植物まみれの中庭から、一匹のゴールデンレトリバーが出てきた。


 少しよたよたと歩いている。

 まぶたの垂れ具合から見るに、かなりの高齢犬のようだ。


 私はレトリバーに近づいた。


 レトリバーは近づく私を恨めしそうに見上げ、不意に「…ワンッ」と1回だけ鳴いた。

 

 高齢のためなのか。

 それとも、何か悲しいのか。

 

 張りのない声で鳴いたあと、レトリバーは真っ直ぐに私の顔を見つめてきた。垂れ下がった尻尾は毛並みが悪く、お世辞にも、綺麗な手入れをされているとは思えなかった。


 そんなレトリバーとは対照的に、レトリバーを囲む植物たちは、手入れが行き届いているように見えた。


 青々とした葉は、中庭に差し込む光を反射し、並大抵のことでは折れないような、力強い生命力を中庭で誇示していた。


一方、葉に光を遮られ、影にいるレトリバーは相変わらず、こちらを見上げていた。


 座ることも、鳴くこともなく。

 ただ、そこに立っていた。


 こちらを見つめるレトリバー。その顔を見つめている私。ふと、視界の端に映る奇妙な光景に心がパニックを起こした。


 そのレトリバーには足が3本しかないのだ。垂れ下がった尻尾が足のように見え、長い間気付かなかった。


 前足は2本ある。後ろ足は1本だけ。正面から見て、右の後ろ足が根本から無くなっていた。だからこの犬は、よたよたと歩いていたのだ。


 背後から、家主と両親の話し声が聞こえる。


 「ここら辺は住みやすいですか?」と質問をする両親。「ええ、小学校が近くにありますし、静かでいいですよ」と家主は答えた。


 当時、両親は引っ越しを計画していた。家で怪奇現象が続いていたからだ。


 家主は続けて、「(家が)坂にも面しているので、日光がよく当たって日当たりがいいですよ」と言った。


 確かに、中庭には光が差し込んでいた。だが、その家に入ったときから、暗い雰囲気の家だと私は感じていた。


 玄関には、緑と(さび)が混じった格子があり、そこには壊れたビニール傘が4本掛けられていた。傘に雨水が溜まっているのか、下に向けられた先端部分には、オレンジ色の水が溜まっていた。


 家の中の廊下は、かなりベタついていて、歩くたびに「ベタッ」と、床から足が離れる音が何度も響いていた。


 廊下に面した木製の(ふすま)には、緑色のビニール紐が三つ編みの状態で掛けられていて、……正直に言えば気味が悪かった。


 極めつけは、この片足のレトリバーだ。植物が生命力を誇示しているような、鬱蒼(うっそう)とした中庭で、光を奪われた影の中にじっと立っている。人間に恨みがあるのか、それとも何かの警告なのか。私をずっと見つめている。


 そんなことを考えていると、いきなり両親が「帰るぞ!」と私の尻を足で小突き、足早に玄関へ向かった。


 家主と両親が話している間、片足のレトリバーは1度も動かずに私をずっと見ていた。


 何か伝えたいことがあったのだろうか。





 結局、その家には住まなかった。当時、母が言っていたが「場所も悪いし、きんもん(?)が近い」そうだ。


 こうして振り返ってみると、母の言っていた「きんもん」ってなんなんだろうね。聞き間違えたのかな?


 もし、これを読んでいる読者の中に、「きんもん」という言葉を知っている人がいたら教えてください。






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