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奇妙な街に住んでいた  作者: ぽぴ


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5/9

タバコの女王



住んでいる地域の雰囲気を「地域柄」と言う。


 私がかつて住んでいた地域はどんよりして、いつも曇り空のような雰囲気があった。空は快晴なのに、黒い雨水が垂れた壁が街の湿度を空へと逃さない。


 片足のゴールデンレトリバーに、墓に居座るシュナウザー。親が自殺してイジメを受ける同級生に、不良に「イジメないで」と手紙を書いた知的障害者。こちらを覗く大きなヒキガエルに、爆発したナメクジ。


 団地の1室には黒蠅のむれ

 藪からはヘビと変質者。

 ため池では毎夜、異音が。


 私が住んでいた地域では、こんな事がよくあった。違う地域に引っ越してから、それが普通ではないと知った。


 今回は、そんな街で遭遇した、ある「女王」についての話だ。



 私は激烈なタバコ臭を放つ人に遭遇したことがある。巷でよく見る、ただ「タバコ臭い人」ではない。


近づくだけで、激しく咳き込むほどの強烈な臭いだ。


 私はタバコを吸わない。だから、タバコの臭いには敏感だ。タバコを吸ったばかりの人からは微かにタバコの臭いがするし、タバコをよく吸う人からは、もっと強い臭いがする。


 特別タバコの臭いが嫌いなわけではないが、タバコの臭いというのは、とても特徴的であり、その人の嗜好しこうを表す、一種の香水のようなものだと思っている。


 あの「女王」のにおいは強烈だった。



 ある日、私はスーパーで買い物を終え、買ったお菓子を袋に詰めていた。すると、急激に辺りの空気が重くなり、タバコのような、灰色の臭いがスーパーに充満した。


 私は、誰かがタバコを吸っていると思った。そのくらい臭いが強く、焼け散った灰のような粉っぽさを感じた。しかし、すぐに、「(スーパーの中でタバコを吸うなんておかしな話だな)」と気づき、周囲を見回した。


 店内が強いタバコの臭いに包まれる中で、とりわけ臭いがする方角を見てみる。すると、お酒のおつまみコーナーをまじまじと見ている、毛皮のコートを着たおばあさんが目に入った。と、同時に、私は激しく咳き込んだ。


 タバコの臭いがし始めてから、ずっと目がチリチリしていた。眼球に、小さな小さな石を何度もぶつけられているような違和感だ。その違和感に大きく気を取られた瞬間、私の喉に細かい粒のような異物が張り付いてきた。それが原因で、激しく咳こんでしまった。


 私は、そばにいた2人の店員さんから白い目を向けられているのに気づき、慌ててその場を後にした。が、どうしても毛皮のおばあさんが気になった。背後からは、さきほど私に白い目を向けた店員さんたちが咳き込んでいるのが聞こえた。


 おばあさんを探すか迷った私は、結局、スーパーの出口に向かっていた。おばあさんのことは気になったが、好奇心で人を探すのは良くない、と感じて探すことを諦めたからだ。が、出口に近づくほどに、新鮮な空気と強烈なタバコの臭いが、交互に鼻へ入ってくる。


 角を曲がると、そこには毛皮のおばあさんがいた。5mくらい離れていたが、近くで見たおばあさんはとてもゴージャスだった。


 鼈甲べっこうのサングラスに、黄色やオレンジの宝石がはめられた銀の指輪を4つ指に付け、金の腕輪を1つ。そして、薄いクリーム色の毛皮のコート。とても綺羅きらびやかな装いだった。


 おばあさんの近くを通った人は、「ゲホッ」といった咳をするが、おばあさんはそれに気を留める素振りもない。背筋を伸ばし、ゆっくりとフルーツの品定めをしていた。


 私はその様子を見て、「たばこの国の女王」みたいだと思った。強烈なたばこの臭いに、豪華な装飾、周囲の事を気に留めない堂々とした振る舞い。それらの特徴が合わさって、私には灰の国の女王に見えた。


 おばあさんはキウイフルーツを手に取り、レジへ向かった。おばあさんが角を曲がると、商品棚で姿が見えなくなった。だか、商品棚の向こうで誰かが咳き込む音が聞こえた。


 「存在感」とでもいうのだろうか。おばあさんの姿は見えなくなったが、おそらく商品棚の向こうには、灰の国の女王が確かにいるのだ。


 もし、周囲の臭いが強烈なタバコの臭いに変わり、その臭いの先に毛皮のコートを着た140cmくらいのおばあさんが居たら、私が見た「たばこの国の女王」で間違いない。


 でも、もし女王を見かけたときは、遠くから見守ってあげてほしい。おそらく、あの強烈な臭いは毛皮のコートから出ている。あの毛皮のコートは、強烈な臭いが染み付くほどの長い時間を、女王と共に過ごしてきたのだろう。


 理由は分からない。でも、きっと……大切な物なんだと思う。それが無ければ生きていけないほどに。





 

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