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奇妙な街に住んでいた  作者: ぽぴ


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4/9

怪魚 


 住んでいる地域の雰囲気を「地域柄」と言う。


 私がかつて住んでいた地域はどんよりして、いつも曇り空のような雰囲気があった。空は快晴なのに、黒い雨水が垂れた壁が街の湿度を空へと逃さない。


 片足のゴールデンレトリバーに、墓に居座るシュナウザー。親が自殺してイジメを受ける同級生に、不良に「イジメないで」と手紙を書いた知的障害者。こちらを覗く大きなヒキガエルに、爆発したナメクジ。


 団地の1室には黒蠅のむれ

 藪からはヘビと変質者。

 ため池では毎夜、異音が。


 私が住んでいた地域では、こんな事がよくあった。違う地域に引っ越してから、それが普通ではないと知った。


 今回は、そんな街で遭遇した、ある「怪魚」についての話だ。


 私は子供のころに、怪魚を見たことがある。父に連れて行かれた貯水湖で、1mはある巨大な魚を目撃した。


 貯水湖の岸に降り立ち、父が釣り竿のメンテナンスを始めたとき、背後から「ゴボッ」という音がした。


 振り返ると、浅瀬に鈍い緑色を放つ巨大な影があった。泥を巻き上げ、蛇のようにくねりながら動いている。


 私は「でかいブラックバスがいる!!」と叫んだ。


 身重110cmの自分と変わらないくらいのサイズの魚を見るのは初めての経験だったから、とても怖かった。このまま、私に飛びついてきて水の中に引きずり込まれるんじゃないかと、ひどく不安になった。


 正確なサイズは分からないが、110cmの自分よりほんの少しだけ小さいように見えたから、1mはあったと思う。横幅は30 cmくらいだろうか、料理に使うまな板くらいの幅があった。


 そして、そのブラックバスが特異なのは、サイズだけではなかった。


 普通、魚はアーモンドのような、ツルッとしたオデコをしている。しかし、そのブラックバスはオデコがコブのように膨らみ、その膨らみは尾の方まで続いていた。


 まるで、ゲンコツで殴られてオデコにできたコブが、そのまま頭頂部に向かって伸びていき、首から背骨を通って大きな盛り上がりを作ったかのような、歪な姿だった。


 父は「あー?なんてー?」と言いながら、釣り針にエサを付け終え、タオルで顔を拭いた。私は「でかい魚!!!ブラックバス!」ともう1度叫んだ。


 父は振り返るのが遅かった。父がこちらに顔を向けたとき、浅瀬にいたはずの怪魚は貯水湖の水底に向かってゆうゆうと泳いでいった。離れた位置でしゃがみ込んでいた父には見えなかったようだ。


 近づいてきた父は、「この馬鹿たれが!水に近づくなと言っただろうが!」と、私の頭を叩いた。


 結局、父の頑張りも虚しく、その日は何の魚も釣れなかった。しいていうなら、黄色いビニールテープが巻かれた枝を釣ったくらい。


 貯水湖から車に戻る帰り道、夕日に照らされた水面が眩しくて、なんだか寂しい気持ちになった。ほっぺたがきゅーっとなって、痛痒いような不思議な感覚が顔に走った。


 父は魚が釣れなかった場所に2度と訪れない。だから、私が怪魚を探すことはもうない。大人になったいまでは、貯水湖の場所すら忘れてしまった。


 あの日の夕日と怪魚を私は一生忘れない。とても貴重な経験だったと思う。




 こうして振り返ってみると、自分しか見ていない怪魚の存在を未だに探している自分がいる。


 私が見た怪魚は本当にいたのだろうか?

 あのコブはなんだったのだろう?


 昔見ていた未確認生物を追う番組で「私は宇宙人を見たことがある」と真剣に語る人が、なぜ証明できないものに人生を費やすのか、今ならその気持ちが分かる気がする。


 「自分自身も本当に宇宙人を見た確証がない。」だから、それを証明するために生涯を費やすのだと思う。


 宇宙人を見た日から、止まってしまった人生を取り戻すために。


 私もあの怪魚を見た日から、あの「コブ」の事が異様に気になってる。


 病気なのか?

 それとも、異常に発達した筋肉なのか?


 今となっては分からない。おそらく、長い月日の間に、怪魚は死んでしまっただろうから。

 




【あとがき】


 評価ありがとうございます。著者はいま文章の方向性を模索している途中で、この連載で扱う、「奇妙な話」というのも需要があるのかわからないまま書いているので、初めて反応がもらえて嬉しいです。


このまま奇妙な話を書いていこうと思います。


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