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奇妙な街に住んでいた  作者: ぽぴ


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1/9

有刺鉄線の人形と地域柄


住んでいる地域の雰囲気を「地域柄」と言う。


 私がかつて住んでいた地域はどんよりして、いつも曇り空のような雰囲気があった。空は快晴なのに、黒い雨水が垂れた壁が街の湿度を空へと逃さない。


 片足のゴールデンレトリバーに、墓に居座るシュナウザー。親が自殺してイジメを受ける同級生に、不良に「イジメないで」と手紙を書いた知的障害者。こちらを覗く大きなヒキガエルに、爆発したナメクジ。


 団地の1室には黒蠅のむれ

 藪からはヘビと変質者。

 ため池では毎夜、異音が。


 私が住んでいた地域では、こんな事がよくあった。違う地域に引っ越してから、それが普通ではないと知った。


 奇妙。怪奇。そう言っても差し支えのない事柄はたくさんある。今回は、その中でも特に強い印象が残っている『有刺鉄線の人形ひとがた』の話をしようと思う。





誰が作ったのか分からない。


いつからそこにあるのかも分からない。


そして、どうやって置いたのかも分からない。


有刺鉄線で作られた大人サイズの人形ひとがた


そんな奇妙な物が僕の地元にはあった。


 初めてそれを見たとき、大粒の鳥肌が立った。首筋に触れるとさらに寒気が強くなり、急いでビルの軒下へ避難した。誰かがこちらを覗いているように思えたからだ。


私はそれが何なのか理解できなかった。


光沢があって、大きなサイズ。

街の闇を隠すように建てられたビルの影。

狭い路地にある廃屋の2階付近。


 軒下から、それがある方向を覗くと、やはりあった。暗くてはっきりと見えないが、そこそこ大きな()()が、T字ような型で廃屋の2階に付いていた。



知ってはいけない。


見てはいけない。


そんな声が頭に響いた。


でも、私は好奇心を抑えきれなかった。


 路地に踏み入ると街の明かりは届かず、青くて、暗い雰囲気を感じた。鼻には、湿気とカビのような、なんとも言い難い不快な空気が入る。


 路地を進むと、私はすぐに自分の過ちを理解した。それを見るべきではなかった。


知るべきではなかったのだ。


「(――有刺鉄線…?)」


 私が見たのは有刺鉄線で作られた人形ひとがた。ぐるぐると何重にも重ねられた有刺鉄線。


それが人の形をしていたのだ。


 あまりの不気味さに鼻がツンとして、涙が溢れそうになった。「(止めとけばよかった)」と強く後悔した。


 その人形は何重にも巻かれた有刺鉄線で作られていて、やはりT字のような体勢で廃屋の2階に()()()()られていた。


何かの恨みを、誰かへの恨みを表すように


 有刺鉄線で作られた大人サイズの人形を有刺鉄線の束で家の正面に張り付ける。


いったい、この家に何があったのだろう。


誰が、どんな意図で、これを作ったのだろう。


私の問いかけに廃屋は沈黙していた。


 廃屋を背にして街の方へと歩きだすと、突風が背中を押してきた。まるで、″ここにいてはいけない″と言うように。


視界に入ったロープが揺れている。

誰かが乗ってたブランコみたいに。


 私は明るい街の住人だ。この街にどんな暗い過去があったとして、いまは明るい。それで十分だ、と自分に強く言い聞かせ、私は足早に路地を出た。


 


 今もあの有刺鉄線の人形はあそこにいるのだろうか。だとすれば、人の形はまだ保たれているのだろうか。


あの人形の中には何があるのだろう?

本当に有刺鉄線だけで作られているのだろうか?


いや、考えるのは止めよう。

街を後にした私には、分かりようがないから。






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