第5話 スライムの歓迎(?)
ガタガタガタ……ゴトン!
「ふぅ……やっと次の設置場所だ……」
腰をさすりながら台車を止める。
ここはダンジョンの中層、冒険者たちがよく来るポイントだ。
「ここに宝箱を置いときゃ、みんな喜ぶだろ」って場所なんだが……。
「……あ?」
目の前の通路。
――ずらり。
スライムの群れ。
青いの、緑の、黄色いの、時々やたら大きいのまで。
「なんで今日に限って、歓迎パーティーみたいに並んでんだよ……」
俺は一歩も進めず立ち尽くす。
スライムはぷるぷる震えてる。
普通なら「冒険者のえさ」なんだけど……今日は違う。
「……おっさん、今日も来たな」
「台車、重そうだな」
「まあ座れよ。俺らの体、柔らかいぜ?」
ぷるぷる震えるスライムたちの声が、頭に直接響いてくる。
――そう、俺にはスライムの声が聞こえるのだ。
(※職場のストレスで幻聴が始まった可能性あり)
「いや、座るか!ぬるぬるして風邪ひくわ!」
俺が叫ぶと、スライムの一匹が台車の下に潜り込んだ。
「おっ?台車運んでやるよ」
……スライムが、ヌルッと台車を押し始める。
おおおお……なんだこれ、めっちゃスムーズ!
車輪が滑るように動いてる!
「すげえ!スライム式スムース搬送システムだ!」
感動してると、後ろから別のスライムが飛びついた。
「俺も手伝うぜ!」
「よっしゃあ、俺らの出番だ!」
気づけば台車の下はスライムだらけ。
ゴロゴロ転がるスライムがキャスター代わりになって、超快適!
腰も痛くない!なんだこれ最高かよ!
――ただし。
「ヌルヌルして手が滑る!」
「宝箱ベトベト!」
「中身までしみ込んでねぇだろうな!?」
結局、宝箱はスライムの粘液まみれになった。
課長に見つかったら、確実に小言コースである。
「……ま、いっか。今日くらい楽してもバレねぇよな?」
俺は腰を伸ばし、スライムカーに揺られて次の設置場所へ向かった。
その後、粘液だらけの宝箱を開けた冒険者たちが「なんだこのヌメヌメ!」と大騒ぎするのは――また別の話である。