第2話 朝礼と指示は理不尽の極み
朝。
俺はいつものようにダンジョン管理局の詰所に出勤した。
といっても、普通のオフィスビルじゃない。崖に穴を開けて作った洞窟オフィスだ。
湿気で書類はすぐふやけるし、カビ臭い。コピー機も湿気で紙詰まりする。最悪だ。
「おはようございます……」
「おう、今日も元気ないな、宝箱係」
上司のガーランド課長がニヤニヤと俺を見ている。
こっちは毎日命がけで働いてんのに、課長は一度も現場に行ったことがない。
ダンジョンの中じゃなくて、椅子にしか座らないのに、腰痛ベルトだけは俺と同じものを巻いている。なんなんだそのアピール。
そして始まる朝礼。
今日の配置指示が読み上げられる。
「えー、まず第二層。スライムの部屋に銅貨10枚入りを3つ」
……あそこか。床がネバネバで台車が動かないんだよなぁ。
「次、第三層。炎の回廊に耐火仕様の宝箱をひとつ。中身はポーション」
ポーション!? 炎の回廊に!? 誰が置きに行くんだよ!!
「さらに第五層、崖の端っこ。そこに『伝説の剣』を収納した大型宝箱を」
崖の端っこ!? 俺に落ちろってか!?
課長は涼しい顔で書類を閉じると、こう言った。
「以上だ。よろしく頼んだぞ。我々の仕事は、冒険者たちの夢を支える大切な任務だ」
夢ねぇ……。
俺にとっては悪夢なんだけど。
同僚たちがぞろぞろと出ていく。ポーション補充係、松明点検係、罠メンテナンス係。
みんな命がけだけど、俺の仕事は荷物の重さ+設置の理不尽さという二重苦だ。
俺は今日の台車を引きずりながら、ため息をついた。
「はぁ……なんで俺、商人じゃなくてこの仕事に応募しちゃったんだろ……」