第1話 俺の仕事は宝箱を置くことだ
俺の名前は特に重要じゃない。
だって、俺の仕事は「宝箱を置くこと」だからだ。
そう、ただ置くだけ。運んで、設置して、帰る。
誰が開けるか? 知らん。
中に何が入ってるか? 俺も知らん。封印されてるから。
ただひとつ確かなのは、この仕事が異常に割に合わないということだ。
まず、現場がダンジョン。
冒険者にとっては夢とロマンに満ちた場所だろうが、俺にとってはただの職場。
暗いし、ジメジメしてるし、モンスターがうろついてる。
タイムカードを押して入る職場が「命がけ」ってどういうことだよ。
しかも俺は戦士でも魔法使いでもない。
ただの一般人だ。
せいぜい防具といえば腰痛ベルトくらい。
なのに俺は今日も、背中にでっかい宝箱を担いで歩いている。
これがまた重いんだ。木製だから湿気を吸ってカビ臭いし、金属の装飾が妙に鋭利で肩に食い込む。
それを担いでゴツゴツした岩場を歩く俺の姿は、外から見たら絶対に「冒険者を待ち伏せしてるミミック」だ。
……いや違うからな!?
俺はただの労働者なんだよ!!
さらに厄介なのは、配置指示がめちゃくちゃなことだ。
「崖っぷちに置け」とか「溶岩の真上」とか「スライム部屋に3つ並べろ」とか。
誰がどう考えても取りに行くやついないだろって場所ばっかり。
……それでも置くんだよ。
なぜなら、それが俺の仕事だから。
冒険者たちがキラキラした目で宝箱を開けて「やったー!」って叫んでる裏では、俺が汗だくでヒィヒィ言いながら設置してんの。
知ってたか? 知らねぇだろ?
だから俺の存在は、この世界で最も知られていない苦労人なんだ。
今日もまた、俺は台車に宝箱を積んでダンジョンへ向かう。
腰痛ベルトをギュッと締めて、ため息をひとつ。
「はぁ……もう辞めたい……」
けれど誰も代わりはいない。
そう、俺の苦悩は今日も続くのだ。
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