M340707 修正版
前話のM340707を一部分読みやすいように変更したものになります。
内容としてはほぼ同じとなります、ご了承ください。
ドゴンッ
>>第三型 事故回避人工知能搭載トラック HL-86 精度実験記録 試行 第二十八回
使用モデル:実験用奴隷F340707
結果:センサーの不具合により失敗、F340707の死亡を確認
提案:センサーの感知範囲を再度計測し、設定する必要有り
担当:アルト=クルーシュ
星歴1958年 17月8日>>
文明が発達し、人類は宇宙に進出した。しかし進出したは良いものの人口の増加や戦争の発生は抑えられず、ある程度まで文明が進歩しても争いにより退化し戻ってしまう。
世界大戦は幾度となく発生した。
人口の増加も留まるところを知らず、資源の枯渇を招いた。
宇宙の星々に手を伸ばしても一時凌ぎにしかならない。
そんな中世界は奴隷制度を復活させた。
人口の増加もうまく制御できる上、これにより資源の利用を抑えた。
奴隷となった人は一定の食事や運動は保障されるものの、その生命活動に関しては所有者が管理する。個人での所有は基本不可能で主に大企業などが利用するシステムである。
1番初めの奴隷は敗戦国の民衆で、その子供は等しく奴隷となり教育内容が制限された。稀に事故などで孤児になった場合や、貧しい親が企業に売りに行くことなどがあるが、基本的にそれは非人道的な行為として見られた。
かくいう僕は親がいなくなってしまい孤児となり、そのまま奴隷になった身である。だから完全な奴隷よりは奴隷に対するある程度の知識がある。親がいなくなった原因は簡単で、旅行中に事故に遭いそのまま亡くなったのだ。
世間にはそんな感じの物語があったが、いざ実際自分の身に起きてみるとその衝撃は大きかった。ただ一つ僕の心が折れなかった原因は幼馴染であるアリスの存在にある。
家族ぐるみの付き合いで、生まれた日も一緒。小さい頃からずっと一緒にいたベルの親も、うちの親の事故の時一緒にいてそのまま一緒に亡くなってしまった。
だから2人でどうするか考えて、孤児院に入ることにした。しかしその孤児院があまり良いところではなく、半ば人身売買のような形で奴隷として売り飛ばされてしまった。
初めは僕だけが売られそうになったところを、ベルが言って一緒にくることになった。僕としては嬉しくもあり申し訳なくもある。しばらく変な感情が自分の中を駆け巡っていた。
ただ売られた先はそんなに悪いところではなかった。自動車シェアが世界トップクラスのハロー・ハロー社で、そこで働くために買われた。
「一緒に頑張ろうね」
工場に向かう車の中でそう言ったベルに、僕は内に渦巻く自責の念を飲み込んで笑って
「そうだね」
とだけ返した。親が事故で亡くなったのは僕のせいで無いのはわかっているけど、お互い不安な中でベルを引っ張ってあの孤児院に言ってしまったことがどうしても許せない。ベルに言えばきっとそんなの気にしてないよ、って返してくれるんだろうけど、やっぱりやるせない。
「ッチ…ガキが…」
僕たち以外の工場に向かう車に乗っていた奴隷のうちの1人がそう言ったから僕らは萎縮して到着まで静かにしていた。
ハロー・ハロー社の業務は様々あり、基本全て奴隷が行なっている。一般の労働者に比べて食事や寝床さえ用意すれば辞めることもなく働くので費用対効果が良いのだ。食事に関しては科学の発展で超低コストで十分な栄養を取れるメニューが開発されており、これが奴隷制度を後押しした要因の一つでもある。
中には車の耐久試験の実験体になる場合もあるが、そう言うのに選ばれた際は報酬として食事内容がちょっと豪華になったりする。資源が貴重な分、マネキンなんかを使い捨てるより奴隷を使ったほうがずっと安く済む。
「嫌だ!ベルと一緒が良い!」
そう叫ぶ僕の声が壁に反射するが、ハロー・ハロー社の社員の耳には届かない。
男女の差で業務内容が変わるのは考えてみれば当然だが、ずっと一緒に居れると思ってた分奴隷になることが決まったその時よりもずっと泣きじゃくって喚いた。
そんなことしたって意味はなく、ベルと僕は引き剥がされた。
ハロー・ハロー社の奴隷はそれぞれ一定のルールを元に番号を振られる。振り方はわからないが僕の場合はM340707。奴隷は基本的に名前をもたないので、社内ではこの番号で呼ばれる。
僕に初めて与えられた業務は部品の運搬だった。ボルトとか僕の知ってるようなものから、何に使うのかわからないものまで色々と運んだ。
時が経つにつれてちょっと昇格したりして、業務内容もだんだん変わって来た。
誠実に業務内容を遂行していた、と自負していた。たまにベルのことが気になるが、確かに工場の労働環境は悪くないし、同僚も複数いるがみんな健康にしている。特にどこの部署がひどいとか言う話も聞かないし、ハロー・ハロー社の業績も良くなっているから引き続き頑張ること、と奴隷管理担当の社員であるシャープさんも言っていた。
そんなある日社長が呼んでるぞ、とその時の同僚のM300819が言った。
何か悪いことをしてしまったかと色々考えるも思い当たる節がないまま社長室に向かった。道中で色々とお世話になっているシャープさんに礼法などを教えてもらった。
コンコン、とノックをする。
「構わない、入ってくれ」
と中から声がしたので、失礼します、といいドアを開ける。
そこにいたのは亡くなったはずの、ベルの父親の顔をした人だった。
僕が少し驚いていると
「M340707君、だったかな。ひとまずそこに腰をかけてくれ」
と言われたので、社長のお向かいにある椅子に座った。
「さて、君も私の顔におそらく見覚えがあるだろうが、私はアリスの父親のポラリス=バーチェだ。昔の事故でベルと君を残してしばらく姿を出せずにいた間にこんなことになってしまっていたことをまず謝罪しよう。」
「どう言うことですか?」
「君の両親と、私と妻が君たちを残して一緒に出かけた日、確かに私たちは事故に遭っていたのだが死んではいなかったのだ。私は元々ここの社員で、先代の社長が引退すると言うことで様々な資料に目を通していた際に君とベルの情報を見かけて呼んだ次第だ。」
話が急すぎて呼吸できているか怪しいくらいだが、状況が次第に分かってくるとなんで今の今まで音信不通だったのかと少し怒りが湧いて顔がこわばった。自分が早とちりして動いてしまったというのもあるかもしれないし、しばらく連絡を取れない状態にいたのも事実だろうし、両親を亡くしたベルのこともずっと心配しながら働いていたから今までちょっと忘れかけていた感情が沸々と出てくる。
その様子がポラリス氏に伝わったのか、
「君の思っていることは多少理解できる。まず、一つ謝罪としてその君の身分を解消しよう。ただ、制度的に簡単にすることはできないから、君にはある程度の試験を課させてもらう。孤児院に入ったのは君の判断だと聞くし、理解してくれ。試験をクリアできたらうちの娘のベルとの婚姻も視野に入れよう。君にはここでの労働の経験もあるし、行く行くは私の座を譲っても良いと考えている。どうかね。」
「試練の内容はなんですか」
「なに、簡単なことさ。今開発中の人工知能の開発を完遂してくれればいい。」
「HL-86でしょうか、私にはそこまでの知識はないのですが」
「テストの結果を記録して、研究チームに回すんだ。」
「なるほど、わかりました」
「ではM340707改めアルト=クルーシュ君。期待しているよ。」
そんな急展開で奴隷の身分が外れ、ハロー・ハロー社の一社員として開発に携わった。
それぞれの実験ではセンサーの不具合で死亡事故が発生したり、逆にブレーキがかかりすぎて内部に衝撃を与えることもあった。
>>HL-86 研究実験 使用奴隷
第一回 乗車 M320123:異常なし
障害物 M351203:センサーの不具合により死亡
…
第十二回 乗車 M300819:ブレーキの不具合により死亡
障害物 F350812:ブレーキの不具合により死亡
…
第二十八回 乗車 M351108:衝突の衝撃により負傷
障害物 F340707:センサーの不具合により死亡
第二十九回 乗車 M370931:異常なし
障害物 F370920:異常なし
>>
計28回の実験により人工知能の調節に成功、これを持ってHL-86搭載車両の販売計画を開始する。>>
実験はうまく行った。
社長のところに報告に行こう。
「29回、か。28回が完全数だから、そっちの方がキリが良かったな。まあ、残念だが君の試練は失敗だ。」
社長はそう言った。
僕がなにを失敗したのだろうか。
「キリのいい数字でしまいにさせるのが私の好みでな。だから君の誕生日である7月7日とか、そう言うのが嫌いなんだ。6の方が好ましい。そういえば誕生日といえばだが、アルト君、君はうちの会社の奴隷の番号の付け方のルールを知っているかな。」
ーーー男性はM、女性はF。そして生まれた年二桁に日付4桁。
君の場合は星暦1934年7月7日生まれだからM340707。まあ、あとはわかるだろう。
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