05 友達
――今日も、楽しく賑やかな一日になりそうです。
「「んーにゃあー♪♪」」
「うっわぁ! ビックリしたぁ」
「「にはぁ!」」
イタズラ大成功! と言わんばかりの顔で走り去っていくのは、三日月の幼馴染――メルルとティルの双子ちゃんである。
「もぉー、メル・ティルってば」
「んきゃーんッ」
「んきゅーんッ」
そんな二人には得意の術(?)がある。昔から、足音を立てずに近付けるのだ。おかげでこうして周囲の人をびっくりさせて、キャッキャと楽しんでいる。
(どうしようもない……けれど。どうしようもなく)
――可愛い! 可愛すぎるんだよ! お二人さん!!
そんな双子ちゃんと三日月は、幼い頃から同じ屋根の下で暮らし、いつも一緒に仲良く過ごしてきた。どんな時でも彼女の味方をし、理解してくれる友達。
そして――とても大切な“家族”でもある。
「おぉっと? ま~たお前らイタズラしとるなぁ」
三日月の他に、メルルとティルの日常的なイタズラの犠牲……もとい、遊び相手になっているのは、少し訛りのある口調で話す彼は、メルルとティルに負けないくらい元気いっぱいな仲良しクラスメイト。
彼女たちと同じ日に、この学園へ入学した――太陽である。
彼は赤毛の短い髪に赤色の瞳、ガッチリ筋肉体型な身体の持ち主。最近はその鍛え抜かれた上腕でメルルとティルを持ち上げ喜ばせるのが日課という、優しく面倒見の良いお兄ちゃんなのだ。
「「きゃー……ハイッ!」」
てってけてててー♪
(あ、もしや、これは)
その瞬間、三日月の耳には双子ちゃんの声がまるで「よーい……ドンッ!」に変換され聞こえてくる。
メルルとティルは笑いながら、楽しそうに逃げまわり、その後ろを力強い走りで懸命に追いかけていく太陽。
「おいおい、こらー! 待てーいッ」
「「きゃー逃げるんだにゃあ♪」」
「あははぁ……スゴイ」
(ハーイ、始まりましたぁ~。恒例の追いかけっこです)
背丈もだが、いつまでも子供なままの可愛いメルルとティル。
そんな双子ちゃんの相手なら永遠にと、いつも自信満々な太陽。
三人が全力で走り回っている姿は、遊びだけれど、いつだって本気モード全開だ。
が、しかし。
「待たんかぁーい!」
いくら体力があるとはいえ、メルルとティルのパワーが尽きることないという無尽蔵っぷりに、勝てる者はまだ見つかっていない。
しかしそれでも、どんな時も笑いながら双子ちゃんに接する太陽の表情は優しい。やはりお兄さんみたいな存在だなぁと、三日月は改めて思い、クスっと笑う。
今日も三人の追いかけっこを遠くからにこに!で見守る、そう……「温かい目で見守る」、つもりだったのだが……なんと今日は!珍しく、彼女も巻き込まれる。
「にゃー!!」「たすけてぇ♪」
どこからか、ひょいっと現れたメルルとティルは三日月の背中に飛びつく。
「あわわぁ~?!」
「「かっくれーんぼぉ~♪」」
「そこかっ! よーし、捕ま……」
ひょーいっ!!
(か、かわしたぁぁ?!)
素早い動きで、太陽の手から逃げる双子ちゃんは、またどこかへと走っていく。それを見て必死に笑いをこらえていると、三日月の肩にぽんっ! と太陽の手。
そして両手を合わせて「頼む」のポーズをする。
「なぁ、手伝ってくれッ」
(えぇー)
三日月は無言で……気持ちがそのまま顔に出てしまう。
「そんな顔するなや~。おぉっと、見つけたぞ! メル・ティルー! 今日こそ捕まえたるぞー!!」
(ふぅ~。危ない危ない)
たまにこうして、追いかけっこに参加させられそうな時がある。運動があまり得意ではない三日月は、無意識に拒否反応が出るのだ。
(なぜかって? 実はわたし……足が遅いのですよぉ)
「「はっははぁ~い、どっおぞぉー♪」」
「待てーいッ」
太陽の、絶対に捕まえるぞー! という決意のグーポーズ。
対するメルルとティルの余裕回答!!
そのやり取りが面白く、つい我慢できずに声を出して笑ってしまった。
「ウッフフ! やっぱりメル・ティルは、足はやぁ~い」
メルルとティルの特殊能力に勝てる人は、まずいないだろうなと思いつつ。ほんの少し、太陽の力にも期待する。
(諦めずに頑張っていれば、いつかは追いつくかもしれないよ!)
「がんばれぇー太陽くん」
と、応援してみたものの。
待て待てー!! んきゃーー♪♪
(いいなぁ、この和やかな光景)
三人が、楽しそうに追いかけっこしているのを見て、とても平和だなぁ~と。改めて思う。
そして、結局最後には。
「だはぁあ〜降参だ」
思っていた通り、今回もメルルとティルの勝利で終わった。そしてやっぱり「そうなっちゃうのね」と、みんなで大笑いするのだった。
キラリの森でもずっと、そして現在学園のスカイスクールに入ってからも、変わらず一緒にいるメルルとティル。そして今は太陽も加わり、こんなに賑やかな時間。友達と過ごせる時間も本当に楽しいと、彼女は思えるようになっていた。
『一人じゃない時間』も、素直に嬉しいなと思える。
――今日、この頃です。




