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星と月の願いごと  作者: 菜乃ひめ可
【学園編】第二・五章 文化交流会(魔法勝負後)
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72 文化交流会2日目~扉の向こう~


 三日月の言う通り、屋上扉は最高上級魔法によって厳重に施錠されている。しかし、なんと! その扉を、彼はいとも簡単に開けてしまったのである。


 彼女は念願の屋上へ出られる『喜び』の気持ちと、学校に内緒(?)で開錠した場所へ勝手に出ても大丈夫なのだろうか? という『不安』な気持ち。そして目の前で起こったセルクの魔法に『驚き』の気持ちと。


 様々な『気持ち』が折り重なり、とても複雑な心境になっていた。



「あのぉ、星様?」

 三日月は、その気持ちを胸に彼へと話しをかける。


「ん、なんでしょう、月姫様?」

 セルクは、珍しく可愛らしい笑顔で答えてくる。


(うぅ、また爽やかなお顔で……月姫ってぇ)

 それでも彼女は負けじと、彼へと疑問を投げかけた。


「えーっとですね。屋上へ出たい気持ちは、山々なのですが……魔法施錠されていた場所へ侵入するのは、怒られるのではないかと」


 すると。


「おぉ!」


 まるで今気付いた! と言わんばかりに目を丸くし、三日月の顔を見つめ返す。


(うぅぅーん? 星様の表情が、全く驚いているようには見えないのですが)


「ほーしーさーまぁ?」


「え? ふふ、そうだね! 大変だ。怒られちゃうかもしれない」


「えー!! ど、どうしよぅ」


 オロオロする三日月。

 どうしようか? と、彼から聞こえてくる声はとても真剣に話しているように思えるが、しかし。


 その表情に目をやると。


「……ッ」

 今にも吹き出しそうな顔で笑っている。


「ごめん、あまりにも月が素直で」


「んにゃっふ!?」


(そんな君が可愛すぎて……なんて口には出して言えないが)


 彼の心の声は当然聴こえていない、変わらず困り顔の彼女。


 心の奥では、屋上はどんな風になっているのか、そこからどんな景色が見えるのだろうと、いつも色々な想像を膨らませていた。


 そんな重い、扉の向こう――。


「うぅ……(行きたいけれど)」


「はは、ごめんよ。では改めて、月姫様。行きますか?」


「つきひ……は、はい。 もちろん、行きたいです!!」


 どんなに警戒していても、セルクの言うことは信じられる。


(どうしてかな?)


 結局、わくわく好奇心で元気いっぱいの返事をした三日月。その言葉を聞いた彼は手のひらを上にし、「こちらへ」と屋上扉を指す仕草を見せた。


「――――っ」


「“安心して”……月。本当に大丈夫だから――」


――ふわぁ。


(なんで? 不安が消えてくみたい。すごく不思議な気分)


 彼の声は、三日月の心奥へとその“言葉”を響かせ、伝える。


(星様の言葉、そして声。この感覚って……誰かに似てる?)


 セルクは少し大きめの声で「ねっ♪」と楽しそうに言い、ニコニコ。その姿を見ていると、彼女まで嬉しくなってくる。困り顔のままで視線が合った瞬間、一緒に声を出して笑いあった。


 二人笑顔の中で、いつの間にか彼女の抱いた複雑な『気持ち』は、消えてゆく。


「星様。出てもいいのですか?」


 セルクは「月は本当に心配性だね」と微笑みながら、屋上扉の入口にしなやかな所作で手を伸ばす。


 笑いながら確認の言葉を発した三日月は、改めて気付く。自分が彼に対してすっかり信頼を寄せていること。そして、この笑顔にいつも癒され助けられ、たくさんの勇気と元気をもらっていることに。


(今日はなんだか、自分の心にある言葉が、頭の中でたくさん溢れてきちゃう)


――なんだか、星様って。


(普段はとてもクールな印象なのに、ちょっとだけ揶揄い口調でクスクス笑う所とか、とても楽しそうにお話をしてくれたりする時とか……誰かに似ているような)


 先を行く彼の背中を見上げ、首を傾げる。



(一緒にいると、ほやぁってして。いつも幸せな時間だなぁなんて思っ――)


『って……ぇ?』


(えぇぇ? いーやいや! 何考えてるのわたしー。その『幸せ』といっても、楽しいなぁとか、そういうことだし。そんなに深い意味はないのです!)


 もちろん彼には聞こえない。自分の心の中だけで、ひとりツッコミをしていた。



 ガチャ……。



『開いたよ』

 ひそひそ声で少し笑いながら、彼が言う。


『は、はぃ』

 なぜか彼女まで、小さな声で返事をする。


 その、いつもとは違う彼の“表情”に。

(星様、なんだかイタズラっ子みたい。一瞬だったけれど、お茶目な感じ)


 いつもとのギャップ。

 三日月の目にはとても可愛いらしく映る。それがまるで幼い子供のような無邪気さを感じてしまった。

 

「さぁ、どうぞ」

 扉を開けたセルクは、丁寧に彼女を案内する。


「……おじゃま……します」


 三日月は、自身が見つけたお気に入りの場所である屋上前、六階の階段。


 そして。


 ずっと行ってみたかった、もう一つの場所。その先にある七階――屋上へ。


――『いつかは……と、そんな叶わぬ願い』


 微かな希望を夢見ていた時間が、現実になる。

 緊張で痛いくらいのドキドキが止まらない。


 そんな心地よい胸の高鳴りを“ぎゅっ”と両手のこぶしで抑えながら、セルクの案内で屋上扉の向こう側――“未知の世界”へ。一歩一歩、ゆっくりと歩みを進めた。




 ◆☆◆


――――そういえば、星様の表情がとても豊かになって、今日みたいに(ほころ)ばせて笑う日が増えた。そんな柔らかいお顔を見られるようになったのは、ここ最近のような気がする。


 出逢った頃の彼は、瞳の奥に何だか違う世界があって。

 同じ景色を見ていても、そこにある別の何かを見ているようで……うまく表現出来ないけれど。彼の心は、閉ざされている。それこそ、鍵でもかかっているように……そんな印象だった。


 それでも、いつだって会話は楽しくて過ごす時間は温かくて。人見知りなわたしが、初めから自然体でいられたのは、紛れもない事実なのだ。


 なので、心許せる存在だという思いに変わりはない――――。


 ◆☆◆



(星様も、そう思ってくれているといいなぁ)


 ふと三日月の心には、そんな想いが廻っていた。




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