68 文化交流会2日目~癒しの木~
「良かったですねッ、月さん」
「先生……ハイ! 素敵なお友達が、増えました♪」
「えぇえぇ、いいですねぇ~青春ですねぇ~」
「あ、はははぁ~……ハィ」
(ラフィール先生、何だか嬉しそう)
そんな三日月も、嬉しくて心がポッカポカだ。表情は今までにないくらい“ゆるゆる”である。
(あれ? そういえば)
「ラフィール先生?」
「はい? なんでしょう」
「どうして……先生が、此処に?」
――これは、本日、最後の“謎”……である(たぶん)。
「さぁ、どうしてでしょうねぇ?」
すると先生は、不思議、不思議~! うふふふ~♪ と笑いながら三日月から目を逸らす。
(わたしは真面目に聞いているのに!!)
ぷくーっと頬を膨らました。
「はいはい、よしよ~し♪ ご機嫌直してねー。可愛いお顔が台無しですよん!」
「もぉ! せんせぇー!?」
もっと膨らんだ三日月の顔に満足したのか。ラフィールは笑いながら質問に答え始める。
「ふふ、はぁい! 分かりました。ではお話しましょう。まず、学園内の数ヶ所に設置されたこの小さな公園。なぜあるのかはご存知ですか?」
「えっと、過酷な授業や自主訓練の際に、人によっては力が続かず枯渇することがある。なので、そんな時に能力や魔力回復をすぐに出来るよう『癒しの木』を設置して……その場所があることで、生徒が安心して勉学に励めるように。そして、疲れた心身をゆっくりと休めるよう学園内数ヶ所に公園を造った……そう、聞いていますが」
「正解です、月さんは素晴らしい! なんとも分かりやすい、百点満点な回答ですネェ~」
「いや、そんなことは、まったく……」
(すみません、完全コピーです)
学園入学時の書類に書かれた説明文、そのままの答えになってしまっていた三日月の心は痛い。そしてちょっぴり……いや、だいぶ恥ずかしい。そんな彼女、実際には『癒しの木』を利用する機会がなく、まだその恩恵を受けれていない。そのため、自分が体感したことを言葉にすることが、出来なかったというのが一番の理由であった。
「でも、そのことと、先生がいたことに、どのような関係が……」
「それはですねぇ、この癒しの木。実は、私が皆の健康と幸せのために創り置いた――“創造樹”、なのですよ♪」
「そうぞう……――え、えぇ」
(なんですとぉーッ?!)
「うっふふふ! これはこれは、月さんの反応が素敵すぎて、お話のし甲斐がありますねぇ」
嬉し楽しそうに笑むラフィールは、次の言葉を続ける。
「ですので、此処にある癒しの木、そして公園全体には、私の【力】が宿り、また監視下にあります。万が一、何か問題が起これば遠隔での修正も行いますし、癒しの木だけで追いつかないほどに体力を消耗した方を感じれば、すぐに私がかけつけられるようにとの、魔法を施しています」
「す、すごい……です」
――さすが『癒しの神』と呼ばれる、ラフィール先生!
「簡単にご説明すると、このような感じでしょうか。月さん、他ご質問はございますか?」
「いえ、ないのであります! ありがとうございました」
そうですか? と、にっこり笑い、先生の驚きな話は終わる。
「と、いうことは……」
(今、ここで起こった出来事に問題があるとみなして、助けに来た?)
――『ラウルド家とは、関わらない方が』
(あの時に約束した警告……状況を避けられなかったとはいえ、先生に謝らないと)
「あの……ラフィール先生」
「はぁい、どうしたのかなぁ?」
(う゛っ)
三日月が真面目なことを言おうとすると、なぜかいつも先生はゆるふわお茶目キャラになってしまう。しかしここはきちんと言葉にして伝えなければと、彼女は声を出す。
「警告して下さっていたのに、いくら偶然とはいえ、アイリ様と……」
「あらあら! そんな事を気にされていたのですか?」
「えっ、でも」
「大丈夫です、心配いりません」
(先生……)
たった一言。
ラフィールが発する言葉だけで、三日月の心はいつも軽くなり、そして穏やかになる。
「さっ、行きましょう♪」
すっかりいつもの、明るく優しいラフィールに戻っている。
(さっきまで、アイリ様と言い合いしている時の先生とは、まるで別人みたいだぁ)
そんなことを考えていると、突然! 先生は立ち止まると三日月を見て、一言。
「ところで……月さんこそ。どうして、このような暗い裏道に?」
「あっ」
「ん?」
(しまったぁぁぁー、そうですよねぇ)
「じ、実は……」
三日月がこの裏道を通った、最大の理由。それを話す羽目になった彼女は、正直に説明。話を聞いたラフィールは、少し驚きながらも「月さんらしいですね」と笑い、流した。




