62 文化交流会2日目~変わらないもの~
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王妃は最近、ユイリアの『心の育成』について少し悩み、彼女の将来を心配していた。そして今回、ついにその予感は的中してしまったのだ。
太陽が【イレクトルム王国】の王子だという事実を知らずに、失礼な事を言ってしまったという、今回の出来事。いや、国同士が関わる事案……事件と言っても間違いではないだろう。
しかし、イレクトルムの王子である太陽は、自分は学生としてルナガディア王国に来て勉学に励んでいるという思いを強調し、ユイリアはその学生仲間であると、王妃へ暗に伝えていた。
このように今回は、太陽の寛大な計らいによって事なきを得たわけだが、普段からユイリア周囲へ取っている『行動』や『言葉』や『態度』に、少々問題がある……という懸念はますます膨らんだ。
そんな娘(王女)に『相手を敬う心と思いやり』を持ってほしいと願い、王妃自らユイリアの教育指導に力を入れており、今度さらに厳しくせねば……と頭を抱えているのであった。
◆◇
「では皆さん、また……ごきげんよう」
王妃は夜会(舞踏会)準備の為、強そうな王室直属の警護隊の方々に護られながら二人の王女を連れて、お屋敷へと戻る。
(そういえば王宮……じゃなくて、お屋敷なのですねぇ)
三日月は首を傾げて思う。
実はそのあたりの彼女が持つ知識レベルは相当低い。
今の学園に通うまではほとんど森から出たことがないためであった。その上、キラリの森にあるミドルスクールで学ぶルナガディア王国の歴史は、ほんのちょっと。
そのため月の都(街)から遠い森で暮らす人々は、上流階級の者たちに比べて『ルナガディアの歴史』や『現在の様子』、そして『他国との繋がりについて』など、あまり情報が届かず、乏しいのが現状である。
(えっ? じゃあ今まで一体何を学んでいたのかって?)
――ハイッ! お答えしましょう♪
◆
唐突ですが。笑
【三日月のお話コーナー】ぱちぱちぱち。
わたしはまず、キラリの森にあるスクールに通っていましたので、日常生活で必要なお勉強は学んできました。それプラス、わたしの場合は、元王国騎士である父(雷伊都)による、幼い頃からの厳しい訓練で、護身術や剣術、格闘・武術と、それはそれは毎日鍛えられ……そして、攻撃や戦術までも……(嫌というほど)全般的に教え込まれましたよぉ。
そして問題の、魔力については――。
上級魔法【鍵】による魔力制限あり、での話ですが。
母(望月)の愛と熱意ある指導によって、必要最低限の魔力で出来る魔法。また、理論的な座学や、今後魔法が応用できるように、イメージトレーニングをする日々。そうなのです! わたしはスクールや近くにいた子供たちよりも何倍もお勉強ばっかりで……(ぐすん)。
当時の私はもっと泣き虫だったので、わぁわぁ言いながら、頑張りましたよ、うんうん。
しかし、その努力の全ては――。
おそらく父も母も、将来「魔法科の学校へ行きたい」と言うのでは? と、先を見据えて“厳しい指導”をしてくれていたのだと、今なら思えます。
と、まぁこのように。わたしの幼少期~森での生活は、ほぼ『武術』と『魔法』ばかりを学ぶことが多かったのです。
ルナガディア王国のこととか、歴史? とかは、よく解らないのです。
父も母も、なぜかその辺にはまったく触れませんでした。どうしてだろう……まぁでも、そのおかげでわたしは心身ともにとても強く! 魔法に関しては、実戦応用できる力と行動力を身につけられたのだと思います!
【おしまい♪】ちゃんちゃん。
◆
初めて会う人ばかりで、慣れない環境にいたせいだろう。
「はぁ~……今日はなんだかんだ言って」
三日月はすっかり、疲れ切ってしまっていた。
そして、せっかくの『バースディアイスクリーム♪』の喜びが、今の一件で薄れてきてしまっている気がしてならない。
「はぁう、アイス……」
「ん、どうした月、大丈夫か?」
――あっ、いつもの太陽お兄ちゃまに戻っている。
「いやいや! 何でもないの。それよりもねぇ、太陽君がまさか……王子様だったなんて」
彼女は思ったことがつい口から出てしまう。
「おいおい! なんだ、その話か」
太陽が珍しく頬を赤く染め、恥ずかしそうだ。
それを見たメルルとティルが面白い顔みっけたーと言わんばかりにおちょくり攻撃開始!
「びっくりネェー!」
「おどろきネェー!」
「だねぇー」
そこへこれ見よがしに三日月も、ちょっぴり揶揄い口調で参加してみる。
「「「エッヘヘヘ~♪」」」
(いつものお返しだぁ~い)
三人は、太陽が他国から来たというだけでも「そうなの?」と思い、加えて民間人ではなく、まさかの王子様だったという事実に、ただただ驚いていた。
すると太陽は、いつもの声と表情、訛りのある口調で話し始める。
「こらっ! そんな目で見ちゃいかん!」
「「ひゃっひゃーい♪」」
可愛い双子ちゃんはいたずら顔で、楽しそうに太陽に飛びつく。
その二人をいつもと変わらず軽く受け止め持ち上げると、ニカっと白い歯を見せ太陽は笑った。
「たいよーたっかぁい!」「たいよーんにゃーん♪」
「はいよー、高い高いなぁ、はっは~」
(相変わらずのメル・ティル、太陽君の、平和な日常……かぁ)
そんな三人の姿をぼーっと見つめる三日月に気付いた太陽が、一言。
「なぁ、月よぉ。俺は出身が、ちと違うってだけだぜ。この国では皆と同じ、一般クラスで魔法や技術を学びともに成長を喜び合う生徒なんだ。だからよ、な~んにも今までとは変わらん!」
なっ、そうだろ? と、彼は優しく笑いかけた。
(一瞬、太陽君が寂しそうに見えたけれど、気のせい?)
「そう、だね……そうだよね」
三日月もまた、笑顔でそう答える。
――国とか身分とか。仲間なんだもん、関係ないよ。
(太陽君は、たいようくん! なんだよねっ)
「そっ! だから、あんま気にすんなや」
「気にすんなぁー」
「気にしにゃーい」
「こらー、真似すんなぁー」
あっははは!!
笑い合う、仲良し四人。
三日月は心の底から願う。
これから先もずっと、みんなで一緒にいたい、と……。
☆
しかし。
わたしはまだ、気付いていなかった。
この噴水広場で、ユキトナ様がわたしたちの前にいらっしゃる前。
――『いい機会だ』と、すごく真面目な顔で、いつになく真剣な表情で。
何か大事なことを話そうとしていた、太陽君の決意に。
――『実は、だな……』
あの言葉の続きを、この時わたしは考えもしなかったのだ。
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