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星と月の願いごと  作者: 菜乃ひめ可
【学園編】第二・五章 文化交流会(魔法勝負後)
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61 文化交流会2日目~王妃様の想い~


「それから、ユキトナ!」


 ビク――ッ!


 王妃の視線。

 ユキトナは、母が言わんとする言葉を察する。そしてこれまでとは違い、ハキハキとした口調で自分から話し始めた。


「お母様。(わたくし)もユイリア同様、身に危険が及ぶ可能性があり、用心するようにと言われておりましたのに、誰にも言わず屋敷を出てきてしまいました。(めい)に背き、申し訳ありません」


「えぇ、そうですわね」


 やはり姉だからか? 王妃はユイリアを叱る時より、表情や言葉の厳しさが増しているように感じられる。


 それから王妃は、一度目を閉じ沈黙した。


 数十秒間。


 とても長く感じられるほどの緊張感。ユキトナと周りの者たちも皆、冷や冷やしながら次の言葉を待つ。


 しばらくして、ゆっくり目を開けると何かを決心したかのように、ユキトナに目を合わせた。


 そして、ある事を告げる。


「ユキトナ王女、よくお聞きなさい。今回許可なく外出をした件ですが。国王様には……」


(あぁ、やっぱり。そのままという訳にはいかないのですね)


 ユキトナは涙をグッとこらえ、王妃の声に耳を傾けながら真剣に聞いていた。


 そんな二人の姿を見つめていた三日月。様々な考えが頭を()ぎってしまい、胸が苦しくなっていく。


 しかし王妃の考えは、その場にいる皆の予想とは違っていた。


「国王様には……ご報告()()()()()


「「「!!!」」」


「エッ、でも。お、かあさま、それって……」


 すると、ユキトナにとって嬉しい(と、思われる)言葉が伝えられる。


「今夜開かれる文化交流会での舞踏会ですが。ユキトナ……あなたの参加を特別に認めましょう」


「お母様!!」


 ユキトナの瞳は輝き、見る見るうちに明るい表情になった。


 クールなままの王妃へ、ユキトナは満面の笑みで丁寧なお辞儀をする。それは心底喜んでいるのが誰が見ても分かるほどに。


「ありがとうございます!」


「で、でもお母様! ユキお姉様は」


 すかさず、姉の事を案じたユイリアが口を開く。その顔は、皆の知らない何か理由があるのだろうと思わせた。


 しかし、王妃は。


()いのです。今回だけは……何故なら舞踏会でのお相手が――太陽さんだ、と聞けば認めない訳にはいきませんわよねぇ~♪ オホホほほほぉー」



(((あぁ~……そういうこと)))



「お母様……ハイ。はぁぁ~」

 ユキトナは恥ずかしそうに笑みを浮かべ、ホッとしているようだ。



 皆の視線を浴び、一瞬で話題の人物となった太陽は表情ひとつ変えず、黙って話に耳を傾けている。


 三日月はというと、太陽の身がどうなるのだろうとハラハラしていたが、ひとまず安堵の表情を浮かべていた。



 それから王妃の切り替えは驚くほど早い。


 威厳ある形相は、すっかり柔和で美しい表情に戻り、ウフッと嬉しそうな笑顔。



 それからすぐ、一度屋敷へ戻る事を“許しの条件”とされた王女二人は、王妃と共に帰ることとなった。


「では皆さん。今日はお会い出来て良かったわ。ありがとう」


 王妃の言葉に、周囲は慌ててお辞儀をしながら、丁寧に挨拶をする。


 そうして歩き始めた王妃……であったが、突然また振り返り「大変だわ!」と、ユイリアに話し始めた。


「そう、戻る前に。ユイリア!!」


「は、はいーっ!」


「太陽さんに、きちんと貴女の言葉で『お詫び』と、改めて『ご挨拶』なさい!」


 母である王妃に再度強い口調で名を呼ばれ、ユイリアの身は引き締まる。理由は言わなくても解っているでしょう? と、また王妃から厳しい表情で言われた。


 ユイリアは恥ずかしそうに、モゴモゴと小さな声で呟いている。


「太陽様……知らずとはいえ……いえ、その失礼な態度でお話して。も、も、申し訳、ありませんでした。それに、えっとえっと、それから……」



 すると太陽は、優しく穏やかな声で「ハイ」と、低く手を挙げる。


 そして「そんなに頑張らなくても大丈夫です、御嬢様」と小さく囁きながら、太陽はにっこり笑顔でユイリアに何かを手渡した。


「えっ? うさぎ……」


「可愛いでしょう? これ先程のアイスクリームの店で見つけまして、なんと“チョコレート”なんですよ」


「か、可愛い……」


「はは、喜んで頂けたようで何より。さぁて、ユイリア王女様。謝って下さってありがとうございます。さぁ、どうぞ! 召し上がれ」


(いつの間に準備していたのぉ!?)


 それは手のひらサイズのとても可愛いうさぎ形のチョコレート。プライドの高いユイリアにとって不慣れ(?)な“謝罪”は相当な気力を消耗したことだろう。


 しかし、頬をピンク色に染め、まるで子供のように微笑んでいる彼女も、まだまだお菓子をもらえば嬉しい年頃の女の子……なのだ。


「ありがとう、ございます」


 色々とあったけれど、これからは仲良くお友達になれそうだと、三日月は嬉しくなり、胸がドキドキした。


(ホント、良かったぁ)



「では、太陽さん。本日はユキトナの事、宜しくお願いしますね」


「はい、お任せください」



 王妃からの言葉は、先程までとは違う。それに応える太陽もまた、真剣な表情である。



――それは強く、そして重く感じられた。



「では、ユキトナ様。約束の時間にお迎えにあがります」


「あ……お迎え……はい」


 太陽は終始変わらず、何が起こっても全く動じることなく落ち着いて答えている。その姿には、皆が見惚れてしまうほどだ。


 当のユキトナはというと、その麗しき顔は彼に話しかけられ再び真っ赤っかである。


(もぉぉー可愛い! 『お姫様』みたい)


 周りの方が恥ずかしくなり胸がキュンキュンと幸せに包まれる。その空気の流れに乗って光の精霊が舞っていた。



「あの、太陽様。舞踏会は……えっと――」


「ユキトナ、どうしたのです? 一度屋敷へ帰りますわよ」


「は、はい……でも」


 王妃が呼んでいるにも関わらず、なかなか戻ろうとしないユキトナは何かを伝えたいようだが、なかなか言葉にならず、どうやらお困りのご様子。


(ユキトナ様、どうしたのかな?)


 そんな彼女に気付いた太陽は、聞かずとも訳を察し、優しく微笑んで声をかける。


「お声がけありがとうございます。そうですね、ユキトナ様。私は『カスミソウの花』が好きですよ。小さくとも美しい、白や桃色の上品さが気に入っています」


「あ…‥ハイ! (わたし)もす、好きです」


「いやいや、すみません。お気になさらず。では、お出かけまでゆっくりとなさって下さい。後ほどお迎えにあがります」


「はい! あの、ありがとうございました」


(太陽君の気遣いが、赤い瞳が、いつも以上に優しい……)


「『王子様』だ……って、んっ? そういえば、お花の話って。どういう意味なのかな……」


 うーーーーん。


(まっ! いっかぁ~)

 

「はぁ~♡ でも、ホントに」


(『お似合い』なのだぁ……)


――もし本当に、二人に恋の花が咲いたら。『異国のふたり』って、どうなるのかな?


 はっ!


(やっだぁ、わたしったら勝手に想像を膨らませて、先のことまで心配しちゃうなんて)



――この想像は……。

(わたしだけの『心の箱』に、大事にしまっておこう!)


 うんうん、と一人で頷いた三日月。


「あ、そういえば……」


(太陽君は、一般クラス生徒として学んできたのに。自分の身分を明かすことになってしまったんだ)


――今後、学生生活が変化するかもしれない。それでも、その覚悟で。



「守ったんだね、ユキトナ様を――」



 たとえ王女様じゃなくても、幼い頃に出会ったことを覚えていなくても。太陽はそういう人だと、改めて尊敬の思いで彼を見つめ、ふっと微笑んだ三日月は、そう小さな声で呟いたのだった。



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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。ユイリアが迷矢から助かった、三つの条件。奇跡的に揃って、本当に良かったです。 太陽がユイリアにうさぎ形チョコレートを渡すところや、ユキトナとのやりとりも惹きこまれまし…
太陽くん! 本当に素敵ですね♡(*^-^*)
太陽くんとユキトナ様を見て三日月ちゃんはいい雰囲気のふたりにうっとり。 君だって、作者様だって素敵だよ°・*:.。.☆ 続きも楽しみです(*´ω`*)
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