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星と月の願いごと  作者: 菜乃ひめ可
【学園編】第二・五章 文化交流会(魔法勝負後)
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60 文化交流会2日目~大親友?!~


「さて、(たの)しい思い出話は、ここまでにして――」


 そろそろ本題に戻りましょうと、王妃は真剣な表情に戻り話を切り出した。


「さて、ユイリア王女。大会の件もありますし、今夜の舞踏会までは一歩もお屋敷から出てはなりませんと、(わたくし)は言ったはずですが?」


「う゛……そ、それは」


 瞬時に空気が変わり、王妃は厳しい口調でユイリアを叱る。


――王妃の言う『大会の件』とは、そう。あの迷矢事件のことである。



◇◆


『魔法アーチェリー大会』終了後。参加者を含め、先生方や関係者たちも、奇々怪々、予測できないような事態が起こり、皆、青ざめていた。


 迷矢の魔力矢が当たる寸前で、奇跡的に助かったユイリア。その王女を崇めるかのように、その現場を見ていた者は口を揃えて言った。


「やはり、ルナガディア王国の王女様である、ユイリア様だからこそ助かった! 月の御加護による『幸運がもたらした力』としか思えない!」


 と、ユイリアは持てはやされた。


 さらに、三日月についても。


「あの黒く強い魔力を持っていた迷矢を、冷静で的確な判断で攻撃し、見事に対処したあの少女! ()()()()()()()だった! あのホワイトブロンドの髪色をした生徒は一体どのクラスの、何者だ?!」


 あの後すぐ、駆けつけたラフィールによってその場から救出された三日月の存在は、謎の少女として囁かれ、どこの誰だったのか? と皆が詮索し、ちょっとした噂になっている。



 そんな今回の事件、ユイリアを狙ったものなのかも定かではないが、あの攻撃を回避出来たのには、奇跡的な偶然がいくつかあったからだ。



********************


【ひとつ】

 ユイリアと三日月が、大会の順番で偶然、隣であったこと。

 もしも、二人が離れた場所で挑戦していたら、三日月の迷矢攻撃は恐らく間に合わなかったものと思われる。


【ふたつ】

 三日月の能力が【小さな鍵(スモールキー)】による魔力解除によって、測れない程の魔力が上昇し、強力な(パワー)を目覚めさせていたこと。


【みっつ】

 挑戦後もしばらく、三日月の弓(クレセントムーン)を発動させていたおかげで、瞬時に弓が使用できる状態であったこと。


********************



 ユイリアが幸運だったと言えばそうなのだが、様々な条件が良い方向に重なったことが功を奏し、こうして迷矢の消滅に繋がったのだ。



――だがもし、あの時。



 一つでも、奇跡を起こすピースが欠けていたら。


 ユイリアの命は、どうなっていたか分からない。


◇◆



 王妃の発する声は、心奥深くまで静かに響いてゆく。


「大きな魔力を帯びた迷矢の暴走は、事故だったと報告を受けていますが。現在調査中ですのよ。もう、言わなくても分かっているわね? お願いだからユイリア。これ以上、(わたくし)や……国王様に、心配をかけないでちょうだい」


 そう言うと、少しだけ。

 ほんの少し悲しそうな表情を見せたが、キリっと話を締めくくった。


「ハイ……申し訳ございませんでした、お母様」


 ユイリアは、素直に謝罪の気持ちを伝えた。その言葉を聞いた王妃は、ひと安心。この話については、これにて終了となる。


 すると。


「――いいなぁ」


「「「えっ?」」」


 親子のやり取りをずっと眺め聞いていた三日月は、なぜか急に寂しい気持ちになり、ふと心の声が溢れる。その一言に、周囲の皆が一斉に三日月の方へと振り向いた。そして少し心配そうに、彼女の様子を(うかが)っている。


「あ、いえ。その……」

(うはー大変だぁ。わたしってば、また心の声がぁ)


 気持ちを悟られないよう元気いっぱい、一生懸命に話す。


「あーあのですね。ユイリア様は、お母様にいつも見守られていて、幸せだなーって。それにこうして一緒に居られて、素敵な家族だなぁ、いいなぁ~と。そう、思いまして……えへへへ~」


 言っている途中から、今度は恥ずかしくなってきた。


(やだ、これってまるでホームシックじゃない!)


 赤くなっていく顔を両手で隠しながら、くるりん背を向ける。すると、微かに聞き取れるくらいの小さな声が、三日月の耳に聞こえてきたのだ。


「も……ちづ……き?」


「ふ、ぇ?」

(王妃様、何かおっしゃったような……)


 声のする方向を見ると、とても驚いた様子で自分のことを見ている王妃と目が合った。しかしすぐに、ユイリアの訂正が入る。


「お母様? この子の名は三日月(みかづき)といいますのよ。あの『魔法アーチェリー大会』で、(わたくし)の命を助けて下さった……恩人ですわ」


「あっ、えぇ……ごめんなさいね、三日月さん?」


「い、いえ。気になさらないでください」


(と、いいますか。なんとお名前を間違われたのか? 実は、聞こえませんでしたので……えへへ)


「そして、(わたくし)と三日月は、今や“大親友”ですわぁ~」


 そう言うとユイリアは、嬉しそうに腕を掴みギューッと三日月に巻きつく。


「んんっ!?」


(ユイリア様? 大親友って……はいー?)


 突然のことに反応できない。ユイリアからの急接近な距離感にタジタジになる三日月だが、そんな仲良さそうな(?)二人の姿を見た王妃は「あらぁ、微笑ましいわねぇ~」と言い、目を細めながら話し始めた。


「しかし、まぁ……ユイリアに()()()……それは、今までになく、大変喜ばしいことですが……信じられないわねぇ」


「え、もうお母様ぁ~」


 どうやらユイリアの自由奔放さに振り回されているだけではと、心配しているようだ。


「三日月さん、ご迷惑しているのではなくて?」


「ふはっ! あの、いえ。そのー、仲良くしていただいておりますです」


(あっ)

――しまったぁぁぁ!


 王妃へ失礼なことを言ってはいけない。そう思うあまり、気付けば否定するどころか、ついついこのような返事をしてしまい、後悔。


「ですから、お母様ってばぁー!」

 ユイリアはプンプンと、少し怒り気味である。


 それに対して「あら~、そう?」と、王妃は軽く受け流す。


「そうですよっ! ねぇ~? みっかづきー♪」


「あ、いや~いえ、はい……」

(ふぇーん! そこでわたしに、パスを投げないでぇー)


 王妃の言った『()()()()()()』という言葉が、なぜか周囲の音はとても気になる。


(これは、今夜もゆっくり眠れそうにないです)


 大親友となってしまった三日月の、少し困惑気味の表情と返事を聞いた後、王妃はにっこり笑顔でユイリアに優しい言葉をかける。


「それでは、改めてユイリア。こんなに素敵なお友達に巡り合えた、あなたの奇跡に免じて。そして(わたくし)自身も、本日皆様にこうしてお会い出来たことへ感謝の意を込めて。今回の件は、許します」


「あ、ありがとうございます!」


 ユイリアの雰囲気が一気に明るくなった。

 その姿はあどけなく無邪気で、満面の笑みで喜んでいる。


「ただし、今回限りです。良いですねッ! 【ユイリア王女】!!」


「ひょっ! は、ハイッ! おかあ……王妃さまぁー!」


(あーやっぱり……最後はちゃんと厳しい王妃様でしたねぇ)


 周りにいる者たちは、少し引きつった笑顔だ。



「ふぅ。でも、やっぱり……家族っていいなぁ」


――お父様、お母様。それに森のみんなも元気にしているかな。


 三日月は少しだけ、故郷――光の森キラリへと、想いを馳せていた。




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― 新着の感想 ―
心がじんと温かくなるお話ですが ひとつ謎が??・ࡇ・
三日月ちゃんはユイリア様の光景をみて故郷を思い出す。 でも一人じゃないから!! 何とか落ち着きそうですが続きも楽しみです°・*:.。.☆ なのなののお話の可愛いくて素敵です°・*:.。.☆
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