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星と月の願いごと  作者: 菜乃ひめ可
【学園編】第二・五章 文化交流会(魔法勝負後)
69/84

58 文化交流会2日目~ときめき~


「それで、ユキトナをお誘いして下さった方とは?」


(あぁついに太陽君が! どうしよう)


「あらっ? あなたは、もしかして」


(んっ? なんだか王妃様の様子が)


「はい、ご無沙汰しております。太陽です」


「やはり! あらあらぁ~大きくなって!」


「はは、王妃様。覚えていて下さり、大変光栄に存じます」


「皆様、お変わりありませんこと?」


「ええ、おかげさまで皆、変わりなく過ごしております」


「オホホホ、そう! よかったわ~」



「え、エ? んん?」

「なにのー?」

「どゆのー?」


(((これは、どういうことぉぉぉ?!)))




 ルナガディア王国王妃と楽しそうに会話をしている、一般クラス生徒である太陽。その様子を見て、驚かない者はまずいないであろう。それはまるで、以前から知っていたような話しぶりなのだから。そんな太陽の姿に三日月とメルル・ティル、三人の頭はちょっとしたパニックを起こしていた。


(初見のはずの王妃様と太陽君が……)


――親しそうに、おしゃべりしているーッ。



「「「にゃっ、なぜに!?」」」


 一体、何が起こっているのか? その場にいた誰もが、状況を飲み込めずにいた。



ꕤ ꕤ ꕤ



――【王妃様】と【太陽君】。ホント、どういうお知り合いなのでしょう?


(あれから五分程経ちましたが、お二人は、楽しそうに歓談なさっています)



 皆驚きで固まり、姿勢よく立ったまま、状況が変わるのを黙って待つ。誰も声をかけられずにいる中で、先頭を切って会話に入っていったのは、やはり。


「お母様……どういうことですの? こちらの赤毛の……コホッ!! えーっと、『タイヨウ』様? とは、一体どのようなお知り合いで? その方は、何者なのですか!?」


(ユイリア様、皆さまに代わり直球のご質問ありがとうございます。うみゅ、相変わらずスゴイ!)


 心の中でそう呟いた三日月と双子ちゃんが、感謝の眼差しを向ける中、ユイリアの発言に「あらあら、おしゃべりに夢中になっていたわ~オホホ」と、王妃はユイリアの質問に答え始めた。



「そうねぇ、もうあれから何年になるのかしら? えーっと……そうそう! ユキトナがミニスクールを修了する、少し前の旅行でしたわ。ねぇ~ユキトナ、覚えているかしら? 隣国――【イレクトルム王国】へ、お父様と三人で一緒に行ったでしょう?」


 太陽との思い出話に花を咲かせていた王妃様。ご機嫌な気分のまま、高揚した様子で、嬉しそうに微笑み、ユキトナを横目で見ながら話す。


「あ……は、はい! お母様。(わたくし)、もちろん覚えております」


 少しだけ恥ずかしそうにしながらも、まるで、頑張るポーズ! をするように、両手をギュッと胸のあたりで握っている。そして、ハキハキと、自信を持った口調で、ユキトナは答えた。


「旅行……それは、私が生まれる前のことですのね」


 ミニスクールを修了する頃ということは、ユキトナが七歳頃の話だろう。ユイリアは少し驚いた顔で、太陽に視線を移す。


(そうなのかぁ、そんなに前からのお知り合いだったなんて。でもどうしてそんな身分の……って)


――んっ?


 キョロキョロと会話の様子を見ていた中で、ふと三日月の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。


(ちょっと待って。今『イレクトルム王国』って)


『いれくとるむ、イレクトルム……(ぼそぼそ)』


 どこかで聞いたような名前だと独り言。それはまさかのまさか、この瞬間にようやく三日月はあることに気付いた。



「ねぇ、太陽君……」


「おぅ、どうした?」


「いやいや『おぅ』っじゃあないよッ!」


「あっはは、そんなに怒るなや」


 笑いつつも彼女が何を言いたいかを察した太陽は、そっぽを向く。三日月はその視界に入るよう、前に回って再度質問をする。


「あのぉ~、お兄さん? その『イレクトルム王国』って、太陽君の」


「あーおぉ! そういえば……だな! はっはぁー」


「だーよーねー」


 太陽が困った時の癖、首の後ろに手を置くポーズ。そして、いつものまいったなぁの姿勢で彼はニカッと笑い、白い歯を見せていた。国の名を持つということは、余程のことだ。それは太陽が隣国、イレクトルムの王族関係、もしくは何かしら偉い人の関係者なのだという証明であった。


 三日月は、ここはもう一言! と意気込んでいた矢先に、再び王妃が話し始めたため中断。


 皆は向き直り、王妃の話に耳を傾ける。


「そうそう、数日滞在したんだけれど。何日目だったかしらねぇ……あの日は、雨が降っていて。傘をさしながら、イレクトルムの街をお散歩していたのよ。そしたらこの子、ユキトナが、いつの間にかいなくなっていて。それはもう大変な騒ぎになりましたの!! 全員総出で探し回って」


 あの時は本当に困っちゃったのよねぇ~と言いながら、右肘を左手のひらに乗せ、右手のひらは頬に当てて「はぁ~」と思い出し、深い溜息をつく。


「お、お母様! そのお話は、恥ずかしいです……ぅ」


 ユキトナは真っ赤になった頬に両手を添え、小さな顔を隠した。


 王妃は、恥ずかしがり屋な愛娘の姿を見てクスクスと笑いながら、その後もとても懐かしそうに語る。そして次の話で――太陽の“本当の姿”が、明確に判る。



「皆で探し回って、二時間後くらいだったかしら? (わたくし)はもう心配で心配で。心が削れる思いで、肩を落としておりましたの。するとある男の子が、泣きじゃくっている女の子の手を引いて、歩いてきて……私たちの視界に入ってきたのよ!」


(あぁー! それって)


「その男の子はねぇ。自分は雨でびしょ濡れになりながらも、女の子を濡らさないようにと、体に合わない大きな傘を頑張ってさしてくれていて。でも、上手にエスコートしていてねぇ。あの光景、とても子供とは思えなかったわ~うっふふ」


 うんうんと思い出す王妃がなぜか頬を赤らめ、興奮気味に話す。



――その男の子と女の子が誰なのか?

 聞いていた者たちは、話の流れからすぐに予測がついた。



「恐縮です。しかし、当然のことと心得ております」


 そう深々と太陽はお辞儀をする。


「まぁまぁ、お顔を上げてくださいませ。お礼申し上げるのはこちらの方ですのよ。貴方がいなかったら、ユキトナはどうなっていたか分かりませんから」


「しかし、そうでしたか。では貴女が、あの時のうさぎちゃん……いえ、【雪兎名(ユキトナ)】様でしたか」


 太陽は少し嬉しそうな表情でユキトナに話しかけた。


「…………ハイ」

 小鳥のような声で返事をした王女の顔は、さらにりんごのように真っ赤っかだ。



 それから十五分程――『イレクトルム王国の素敵な男の子』の話は続き……。



「今でも忘れぬ、あの可愛らしくも男らしい姿。とても勇敢で本当に勇ましく堂々としていて。まさしく凛々しいとはこの子の為にある言葉だと、私はもぉ~感動したものですのよ」


(すごーい。褒め褒めぇー)


 その称讃たっぷりな雰囲気の中でも、太陽は冷静に、そして落ち着いた表情で笑み、姿勢良くしっかりと聞いている。


「――そうです。そしてその男の子こそが! こちらにいらっしゃる太陽様で」


(ハイ、王妃様。先程そのお話ありました。たぶんここにいる皆さまは流れで、もうすでに気付いています)


 心の中で思わずツッコんでしまう三日月は、フッと笑ってしまった。



 だが、その笑いも消える事実を、これから三日月は知ることとなる。




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― 新着の感想 ―
ユキトナ様も登場しましたが。 会話する太陽くんでしたが。 続きも楽しみです( ˇωˇ )
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