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星と月の願いごと  作者: 菜乃ひめ可
【学園編】第二・五章 文化交流会(魔法勝負後)
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57 文化交流会2日目~感情~


「恐れながら、王妃様……」


 すると黙って見ていたメイリがぽつりと口を開く。その緊張感は、まるで時間が止まってしまうかのようにピン――と張り詰めている。そして、少しだけ震えた声でユイリアの母、王妃にメイリは話し始めた。


「私のような者の発言を、どうかお許しください。私が付いていながら、いつもこのような状況になってしまい……王妃様が、大切なユイリア様のお世話役を、信頼して一任して下さっているというのに。私はきちんと責任を果たせず、本当に申し訳ありません」


 メイリは今にも零れそうな涙を必死でこらえ、深く頭を下げる。


 突然の謝罪を聞いた王妃はとても驚いた様子でメイリを見つめた。そして、ほんの少し口元を緩め優しい声と表情に変化し、声をかける。


「何を言うのですか、メイリ。あなたがいてくれるから、うちのわがまま王女のユイリアを、安心してこの学園に通わせることが出来るのです。この子は自由奔放で、良くも悪くも天真爛漫さゆえに、周りは大変苦労が多いわ」


 王妃は問題の娘ユイリアをチラリと横目で見ると、フゥ~と溜息をつく。


「う゛……」

(解っていますわ。でもぉ、なんだかいっつも舞い上がっちゃうんですもの。それに、お母様ぁ~そんな皆様のいる前でぇ……でも、でも)


 ユイリアは正直なところ、毎回毎回メイリに面倒をかけていることを心から反省している。小さな声で「すみません」とシュン。恥ずかしそうに顔を隠す。


「でもね、王女である前に、(わたくし)の命よりも大事な娘であることには変わりありませんの。その子を任せる意味、それはあなたへの信頼だけでは説明できませんわ。このような振る舞いをするユイリアが学園で皆に愛され、慕われているようですし。その全てはメイリ、あなたのおかげと――私は心から思っていますのよ」


 王妃の表情や言葉は心奪われるようであった。話し終えた王妃は、母親の顔で「いつも感謝しているわ」とメイリを抱きしめ、不思議な魔法を唱えた。


「心より感謝を――【ありがとう(ー愛ー)】」


 “キラッ――ぽぅ……”


(王妃様からの魔法なんて、私にはもったいないです……でも)

『温かい……』


 メイリは心の中でそう呟くと、静かに目をつぶり、王妃からの愛を感じる。



――それは尊く、見たことのない輝き。



 その光と共に、愛は溢れゆく。

 王妃の腕の中、その発せられた(まばゆ)い魔法の光によってメイリの心は落ち着きを取り戻していった。


 そして、周囲にいる者たちにも『慈愛』の波動が広がる。

 三日月はもちろん、王妃の周りにいる者たちは皆、その深い愛情と温もりに包まれ、だんだん穏やかな気持ちで心満たされてゆく。


「す……すごい。光が生きてるみたいに」

「あぁ、そうだな。さすが、ルナガディア王国を率いる王妃様の力だ」

「「きっれーいだぴゅおー!!」」


 太陽やメルルとティルも瞳を輝かせる。その他、周囲にいた者たちの中では、王妃の存在に気付き挨拶をしていた者のみ、その影響を受けていた。



――【ありがとう(ー愛ー)の魔法】

(素敵! こんなに美しい魔法、聞いたことない!)



 王妃が使ったそれは、おそらく特別な魔法なのだろう。


(でも、感動……とは、またちょっと違う感覚だなぁ)


 三日月は普段、自分の好きなこと以外にはあまり興味を示さない。しかし今、目の前で起こっている神秘的な光魔法に、表現できない気持ちと好奇心が、彼女の身体中を駆け巡る。


 それは生まれて初めて感じた――“感情”。

 経験したことのない胸の高鳴りに、戸惑う程だ。



 と、それぞれが幸せに浸る中で一人、ハッ! と我に返ったのは――。


「お、王妃様。そんな! (わたくし)にはもった……」


 そう。全身で王妃の素敵な魔法を受けている本人――メイリである。

 自分の身分を重々わきまえている彼女は、根っからの真面目さからか、自身が愛の魔法をもらっていることに、すぐ気付いた。


 が、しかし。


 王妃は言いかけた彼女の声をスッと遮ると「甘えていいのよ」と諭し、まるで大切な花を()でるように優しく彼女の頭を撫で、こっそり囁く。



「今回も色々とあったのでしょう、こんなに疲れきってしまって……頑張ってくれたのねぇ。(わたくし)の中では、あなたも可愛い大切な“こども”なのですから。もっと、お話してちょうだいね」



――昔のように。無邪気に走り回っていたあの光のように、笑っていいのよ。



 そう、優しく語りかけていた。





 メイリの周りにはいつも、数粒の守護精霊の光が浮かんでいる。警戒心がとても強い彼女は、付け入る隙がないほどにいつも気を張り巡らせている。


 その真面目な性格と堅実さ、冷静な判断が出来ることから、周囲の信頼はかなり厚い。そしていつの間にかその期待という名の重圧を背負う覚悟が、メイリに難しい顔をさせているのだった。


 だが今の、王妃の愛を受けるその表情は――信じられないほどに柔らかく和らぎ、まるで小さな子供のように、母に抱かれる赤子のように。


(そんなメイリがルナガディア王国王妃から、ここまでの信頼を得て王女ユイリアのお世話役になったのには、複雑な事情、そして理由があるのだった)





 ともあれ、彼女にとって。

 王妃の腕の中は、心から安心できるたったひとつの居場所なのだ。




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― 新着の感想 ―
「心から安心できるたったひとつの居場所」 素敵です!!
ありがとうの魔法だなんて本当になのなのって素敵で優しい魔法を作るよなあ(*´艸`)°・*:.。.☆ めちゃくちゃ可愛い((o(。・ω・。)o))
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