56 文化交流会2日目~王女様Part2~
(今日はビックリする出来事があり過ぎるよぉ)
「お、お母様!」
「また、あなたは! 皆様にご迷惑をお掛けしていたのではありませんの?!」
「そんな、今日はしていませんわ! そんなことより、お母様」
(きょ、今日は……)
いつも何かしら問題を起こしているような感じのユイリアだが、正直過ぎる答えに、あはは~と小さく笑う三日月。
(あぁ~でもまぁ確かに。今回のわたしへの魔法勝負も、問題と言えば……そうでしたけれど)
「ん? えっと今、おかあさまって?」
数秒遅れでこれまた驚き、大変だぁ! と、耳を疑う。いろんな情報が渋滞して「もぉ無理」と、身体の力がフーッと抜けていくようであった。
「おっ、王妃様!!」
すると声で気付いた噴水広場に集まる全員が、皆一斉に、ご挨拶の姿勢をとる。
「あぁ~皆様、いいのですよ! お忍びですわ。オホホ……ですから、そんなにかしこまらないで。私のことは気になさらないで、日常をお過ごしになって。文化交流会をた~くさん楽しんでくださいませ」
その王妃の一声で、周りにいた全ての人々が、ホッと胸を撫でおろし伝えられた言葉通り、日常に戻る。
それは王妃の『気になさらないで』は『プライベートである』ということだと皆、知っており分かっていたからであった。
(思っていたよりも? ざっくばらんで親近感の持てるお方なのかなぁ……なんちゃって)
――いくら心の中とはいえ、わたしってば王妃様になんて失礼なことを!
「思うだけなら……いや。良くないよね」
小さく独り言のように呟いている三日月は『王妃様、すみません』と両手で顔を隠す。
「はぁ……それで? どういうことかしら、ユイリア」
「それが、その」
「ちょーっとお待ちなさい! そこにいるのは、まさか雪兎名ですの!? なぜ、あなたまで……どうして此処にいるのですっ?!」
「あっ……あの」
学園内にいるはずのないユキトナが、なぜ此処に居るのかと、王妃はさらに語気を強め怒っていた。
(これは内輪もめ? ……なのでしょうかぁ)
「やれやれ、だな」
太陽が笑いながら一言。
「もぉ、太陽君!」
とはいえ、三日月たちは黙って、姿勢良く見守るしかないのだ。
――王妃様の放つオーラは見たことないほど、とても眩しくて……。
王妃の姿を目にしたのはこの日が初めてだった三日月。
立ち姿は花のように美しく高貴さが溢れ、切れ長の目は見惚れるほど印象的。そして誰もが憧れるであろう、長身美人。
(お話には聞いていたけれど……オーラがすごい!)
三日月は感じたことのない感情と美しさを目にし、思わず息をのむ。
しかしその美しい顔からは想像もできないほど強く厳しい口調で、王妃は大激怒している。それはもう見ている者が震え引いてしまうくらいにものすごく響き渡る声と、迫力であった。
「姉妹揃って、これは一体、どういうことです? 説明なさい!」
頭を抱え半ば呆れた表情で問い詰め、二人の王女は母(王妃)の怒りに顔は強張り、「うぅ~」と泣きそうになりながらすっかり委縮する。
(でもどうして? 文化交流会に、ユキトナ様は来てはいけないのかな)
「何か、訳があるのかもだけど……」
三日月がそう、呟く。
そんなことを考えていると、突然! 王妃に負けず劣らずな強い声が響き渡った。
「聞いて下さいお母様! お姉様がお外にお出になられたことなんて! “そんなことよりも”、ずーっと大変なのです!」
周囲のことなどお構い無し! 自己中心的なユイリアは「もっと大切なお話があります!」と勢いよく話し始めた。
(さすが、ユイリア様だぁ。すぐに切り替えスゴイです~)
「この赤毛の方が身分もわきまえずに、ユキお姉様を声をおかけになったというのです! こんなことが許されるはずないですわ!」
まるで告げ口するかのようなユイリアの発言を聞いた太陽は小さな声量でコソッと、三日月に笑顔で一言。
『(赤毛の方って)俺の事か? ははっ!』
『太陽君! 笑いごとじゃないよ』
(なんで? どうしてそんなに、笑っていられるの?)
三日月は「私はこんなにも心配しているのに!」と、太陽のその余裕の態度がどうにも理解出来ず、厳しい視線を向ける。
そんなやり取りを二人で続けているとすぐ近くで静かにヒヤッとする空気が突然、ス~っと漂い始めたのに気が付く。
(エッ? な、なに?)
三日月は恐る恐るそのヒヤッとの正体を、ゆっくりと目で辿る。
「……ユイリア」
そう、それは王妃のとてつもない負のオーラ。周囲が凍り付くような冷たい顔で第三王女、ユイリアの名を呼んでいた。
「んあひっ……は、ひぃ。お母さまぁ……?」
ユイリア様は「やってしまった」とお顔真っ青で、目をつぶる。
すると深く大きな溜息と、娘に言って聞かせる重く静かな“母”の声が聞こえ始めた。
「あなた、ユキトナがここにいる事実について、『そんなことよりも』とは何です? それからいつも言っているでしょう? 身分など関係ありません。皆、このルナガディア王国を一緒に支える仲間です。いい加減に、その考えを改めなさい!」
噴水広場に響き渡る王妃の美しき声……しかし容赦のない徹底的な躾。
――あれ? この感覚、どこかで。
王妃の発する優しさの中にも厳しさを併せ持つ、その飾らない雰囲気に三日月は、急に胸が熱くなり懐かしさを覚えた。
「うぅぅ。カイリィ~!」
仲直りしたばかりの愛する婚約者に泣きつくユイリアを「はいはい、よしよーし」と、カイリは優しく受け止め慰めている。
(あぁ~本当に仲良く戻られて良かったですねぇ。あーあはーあははー)
再度、気が抜けてしまった三日月の表情は、不自然な笑顔に近い。




