52 文化交流会2日目~衝撃~
「あっ、そういえば」
「どうした?」
「「どしたぁ??」」
「私……」
――太陽君のお誕生日、いつなのか知らない!
「あ、あのね? 太陽君のお誕生日は、いつなのかなぁと」
(お、もって……んっ?)
太陽は年齢を聞いた時と同じように座り込み、両手で顔を覆った。そして「た、誕生日なぁ」と、小さな声で呟く。しかし前回とは少し様子が違って、本当に神妙な面持ちであった。さっきまでの優しい穏やかな空気は一変し、いつもより険しい表情に変わっていったのだ。
「いやぁ、参ったな。今日言うつもりはなかったんだが。しかしまぁ、この話が出たのは、いい機会かもしれんな」
(この話? お誕生日のこと?)
「メルルとティルも聞いていてくれ」と、いつになく真剣な表情で声をかけた。
「実は、だな」
太陽が話を切り出そうとした、その時――。
どこからか聞こえる、話しかけてくる声がした。
「あ、あの! 突然すみません。えっと、太陽様!!」
声のする方へ振り返ってみると、女の子が一人。三日月たちの方を見て立っている。名前を呼ばれた太陽は少し固い表情のまま、その声に答える。
「んっ? 俺か?」
――うっわぁ~すごく可愛い子、誰だろう?
「あの実は、よろしければ……その」
頬を赤らめ、恥ずかしそうにしているお嬢様だ。
しかしその振る舞いは慎ましく、品がある。栗色のくるりんと巻いた髪は毛先が肩に触れるたび、ふわっふわっと揺れていた。その姿が可愛さを倍増させ、彼女が少し動いただけでも横を歩く人々が振り向くほどだ。そして人柄を思わせる鈴の音のような小さな声は、聞いた誰もがキュン! としてしまう美しさ。
だがそんなことお構いなしで、気にもならないのか? 太陽はその可愛い女の子に何のためらいもなく、普通に話しかける。
「君、どうした、何かあったのか?」
するとさらに頬を真っ赤にして、黙ってしまう彼女。
どうしようもないくらい、緊張した雰囲気がとても伝わってくる。一生懸命に話そうとして、言い出せないでいる姿に気付いた三日月たち四人は、気長に次の言葉を待っていた。
すると一分くらい考え込んだ彼女は「よしっ! 決めた!」という自信の表情に変わり、ようやく口を開いた。
「とっ、突然のお誘いを、お、お許しください! あのよろしければ、今夜のダンスパーティーで、私と一緒に踊っていただけませんか?!」
(エッ……?)
「「「「えぇぇーっ!!!!」」」」
この言葉を聞き、四人は驚くと一斉に顔を見合わせる。そして衝撃のお誘いに皆、言葉を失っていた。
全員無言の時間は三十秒程あっただろうか。
少し困った顔をしながら、太陽がその沈黙を破る。
「そうだな。えぇ~、お嬢さん? まず言っておくが、俺は他国から来た人間。舞踏会などで一緒に踊るのは、あまり良く思われないでしょうな。それに一般クラスときたら……上流階級クラスの方とは釣り合いませんよ! あっはは」
太陽は当たり障りのない言葉を選びながら丁寧に返事をした後、いつもの笑いで大人らしくサラッと話し終えた。
「えっ?」
(そうなの? 太陽君って他国から来てるの?)
知らなかったと驚いた三日月。自分の知らない太陽をこうして知ることとなったのだ。
するとお断りするような方向の話を聞いた彼女から、先程より少しだけ力強い声で(やはり小さい声なのだが)返事がきた。
「そのような……いいのです、構わないのです! 私は、その。昨日の大会で、太陽様のお姿を拝見して、私……あの」
しかし話の途中で彼女の勢いは続かず、鈴の音はフェードアウトしていく。
(きゃっは! やだキュンキュンしちゃう)
その純粋な気持ちを感じ取った三日月の心は、熱い気持ちが込み上げてきていた。理由は自分でもよく分からない。だが、彼女のことを応援したくなってしまった。
三日月は悲しい訳ではないが、眉を八の字に落とした表情のまま横にいた太陽を見つめる。すると、太陽は視線から何を言いたいのかを察し、ますます困った顔をした。そして、溜息交じりの小さな声で答えた。
「わーかった。断るのは、ご令嬢に失礼やな」
そう言うと太陽は、今まで見た事のないくらい丁寧で品格のある挨拶をする。その恰好に三日月は目を奪われてしまう。
(やっぱり。今日の太陽君は、何かが違う!)
「では、改めまして」
太陽は挨拶と、初めてお会いする上流クラスの方へ自己紹介を始めた。
「イレクトルム=太陽、と申します。この度は、舞踏会へお誘いいただき、大変光栄に存じます。喜んでお受け致します」
その言葉に彼女の顔は、ぱぁ~っと喜びに満ち溢れる。
「ほ、本当ですか!?」
そう言うと彼女は嬉しさのあまり、瞳はウルウルと涙を浮かべている。
(うわぁっ! 泣いている?)
「お、おいおい!」
どうした、どうしたぁと、慌てる太陽。
すると彼女は我に返り「あ、すみません!」と顔を隠しながらまた、話し始めた。
「私ったら急にお誘いしてしまって。ふとここで太陽様をお見掛けし焦ってしまい、気持ちばかりが先走ってしまいました。大変失礼致しました」
深々とお辞儀をし、彼女も自己紹介を始める。
「ご挨拶が遅れました。私の名は、【ルナガディア=雪兎名】でございます」
――んっ?
(いま、何と?)
――ルナガディアってぇ……?
「まさかぁぁー!!」
「おい、こりゃあ、大変なこった」
太陽は溜息一つ。
――また、何かが起こりそうだよぉ!
そんな予感が三日月の中を、過ぎったのでした。




