51 文化交流会2日目~アイスクリーム~
「あ、あれっ、買おうとしてるの?」
(たいへんだーッ!)
ちょっとカッコいめぇ~な店員が、にこにこと笑顔で注文を受けているのが見える。
「これこれ……よぉお疲れ、すまんが濃厚ミルクいちご……で、頼む」
「かしこまりました、ありがとうございます~」
驚いた三日月は「待ってー」と走り、止めに入った。
「太陽君!? アイス、自分で買えるよぉ!」
すると「いやいや、気にすんな」と言いながらまた頭を、ポンっ。優しくトントンする太陽はもっと、驚きの言葉をくれた。
――「いや、これな。俺からの『バースディプレゼント』ってことで」
「えっ、そう……」
(そうだったの?)
「いいよなっ!」
そう言うと太陽は白い歯を見せてニカッと笑い、いつものように力強くグッドポーズをした。
「……あ、ありがとぉ」
(覚えていてくれた? 入学して間もない頃ちょっと話したことなのに)
「いやいや、しかし安いもんですまんな」
「そ、そんな――」
(安くなんてないよ、すごい嬉しい)
「月は、食べるの好きだから、いいだろうと思ってな」
「えぇ? 何それ~、まぁそうだけど。えへへ」
(気持ちが、すっごく嬉しいよ)
「みかじゅき~も買ってもらったのぉ?」
「どれどれどれみにゃ~? どれぇ~?」
「え、えっとねぇ」
「「にゃっはぁ! キャキャ~ん♪♪」」
メルルとティル、いつものように新しいものが大好き!
キャッキャと喜びおめめキラキラ~興味津々♪ で見る。
三日月自身も「こんな珍しい高級アイスクリームが食べられるなんて」と、ドキドキわくわくしながら待っていた。
「へ~いっ、お待ちど~さん!」
「えっ……これって……す、すごい」
――せぇ~のっ!!
「「「三日月、お誕生日おめでとう!」」」
メルルとティル、そして太陽から突然の『おめでとう』の言葉。
三日月は感激と同時に、置かれたアイスクリームを見て驚く。その豪華さと美しさ、三人からの愛情に心が熱くなっていった。
「嬉し……すぎて、声……ならな……」
そして嬉しくて、嬉しすぎて。涙がいっぱい溢れていく。
「おーぅい! 泣かすために買ったんじゃないぞ」
「「つきたんはいつまでも泣き虫ちゃんちゃん♪」」
「ホント、グスン、泣き虫。ごめんごめん」
そう言いながら三日月は、頬を伝う嬉し涙を拭い笑う。
「「可愛いつっきぃーちゅっ」」
メルルとティルは三日月の頭をヨシヨシ。それからすぐにテンションが上がって、いつものように大はしゃぎだ。まるで、三日月の喜びを受け継いだかのように、やっほぉ~と言いながら走り回っている。
「もぉ、メル・ティルってば。あっはは」
そして四人で、大笑いしたのだった。
(だって……だってネ。こんなに素敵なプレゼントもらっちゃったら。絶対泣いちゃうよ)
プレゼントされたアイスクリームはとても美味しそうで、素敵な仕上がり。メニュー表のイラストとは少し違い『金色の氷の粒』がミルクアイスの上に降り注ぎ、まるで踊っているかのようにキラキラと流れていた。
なんと言っても三日月の胸を高鳴らせたのは『ハートの苺』。そして――『三日月おめでとう』と書かれたチョコプレートが真ん中に、乗せられていることであった。
(こんなサプライズは、生まれて初めてだったから)
「ゴメンネ、すぐ泣いちゃうから。えへっ。ビックリして感動した。太陽君、このアイスって。デコレーションが――」
「おぉ~よしよし、いい出来だな! ありがとよぉ」
太陽はアイスクリーム屋の店員に手を挙げ、お礼を言っている。
「いえいえ。お誕生日とお聞きしましたので、オリジナルでデコレーションさせていただきました。太陽様のお役に立てて光栄でございます」
そう返事をした店員は近くまで来ると、三日月に話しかけた。
「三日月様、本日はお誕生日おめでとうございます。貴女様のご健康と、さらなる飛躍をお祈りし、そして素晴らしい一年になりますよう心より願っております」
――キャ、恥ずかしい! こんな丁寧にお祝いを言われたのも、初めてだ。
(あぁ~何だろう、この気持ち。くすぐったぁーい)
「えーっと。ありがとうございます、綺麗で素敵なアイスクリームで、とても嬉しいです♪」
お礼の言葉に笑顔で応える、アイスクリーム店員。
それから三日月は喜びと期待で頬をピンク色に染めながら、ドキドキしながら“未知のアイスクリーム”をすくい、頬張る。
「いただきまぁ~す」
あむっ……ほぉ♡
「食べたことない。こんな、こんなに! トロケル……溶ける? 何だろう、表現が難しいけれど! すっご~く、おいしぃ」
「そっかそっか、良かったなッ! はーっはっはぁ」
(うっふふ。なんだろう? 太陽君の笑い方が面白い)
「う、うん!」
――本当に素敵な、バースディプレゼント。
「「つき~のあいすッ、やったったぁ♪」」
「え~? メル・ティル、何にやったったぁなの?」
――メル・ティルって、本当に不思議な双子ちゃんだぁ。
あんなに葛藤して我慢しようとしていたアイスクリームだったが、食べて良かったと、三日月は満面の笑みで。
「はぁぅ、幸せだぁ……」
と、いつもの台詞を呟く。
そしてまた「あむ」っと食べながら、ふと目線だけ太陽にちらりと向けた。違和感、ではないが注文をする時、そして今も。いつもとは少し違う空気を感じたからである。
(なんだか、すごい話盛り上がってる?)
「あ~むっ……ん~ん♪」
アイスクリームを食べて幸せに浸っている間、太陽はアイスクリーム店員とすごく親し気に話す。その店員の言葉はなぜか? とても丁寧な……丁寧過ぎるくらいの、敬語を使っているように聞こえた。
(でも『王国内では滅多に食べられないアイス』って。ということは、他国のお店? だとすると、二人が知り合いというのは……)
「ないよねぇ。うんうん、あむっ……ほぉ」
(いつも気にもならないようなことが、このドームに入ってからは色々と気になって、いつもは視えない色とか光が、輝いて見えてるような気がする)
そして改めて、少し離れた場所から太陽を見てみると――。
「太陽君、背たかーい!」
(そっか。二十二歳って――“大人”……だよね)
太陽は一般クラスにいる、普通の民間人である。
(しかしそれにしては、高貴さが溢れ出ているような気が……)
そんな気がしてしまう三日月だったが、元々、彼は『魔法能力の向上』を目的としてこの学園へ来た。なのでその他は文句なしの頭脳明晰、運動神経抜群、体力勝負も申し分ない。
「身体もおっきいし、お父様よりがっちりしてるかも……」
(もしかしたら、学園に来る前、戦いに出たこともあるとか?)
厳しい上下関係のある環境の中に、もしいたのであれば、彼の他と違った雰囲気も納得か。
「はみゅっ……う~ふ、おいしい」
(店員さんは、その時の知り合いだったりと……いや、ないか)
「――あぁ、じゃあまた。ありがとな」
「ありがとうございました~」
そうこうしているうちに、話が終わったのか? 店前から太陽がこちらへ戻ってくる。
――わわ、大変!
「おぉ、月。どうだ、うめぇか?」
「うんっ! すーっごく美味しい!!」
「そうかそうか、そりゃ~良かった良かった」
「んふ! ん~ん♪」
(きっと、わたしと違って。これまでにいろんな経験積んでるんだろうなぁ)
「う~ん、何にでも前向きな太陽君。やっぱり尊敬しちゃう」
「ん? どうした」
「え、あ、なぁ~んでもないよぉ」
アイスクリーム店員と楽し気に話す太陽の姿に、勝手な想像を膨らましてしまった三日月。
それはいつもと違う、まるでもう一人の太陽を感じた瞬間があったからだ。




