50 文化交流会2日目~お菓子の誘惑~
「んで? アイスはどうするよ?」
「えっ……あ~……」
(はぁう~どうしよう……)
こんな夢のように素敵な氷菓子の世界で、大好きなアイスの誘惑に負けてしまいそうな三日月。
(誘惑と言っても、アイスが悪いことをする訳ではないのですよ!)
「でも……」
「月、どうした?」
太陽が心配そうに声をかける。
「うにゅー」
(だって、だってぇ!)
その少しだけ、うるるっとした瞳で太陽を見る三日月に。
――ドキッ。
「な……ん?」と、いつもと違う表情に見えたことに、太陽が戸惑う。
そんな太陽の、少しだけときめいた(?)心にも気付かず。
三日月はついさっき食べたスイーツビュッフェのことで頭がいっぱいだった。あんなにたくさんカフェデザートを食べて満足していたというのに! なぜか、心の声が聞こえてくる。
(あのですね、お腹さんが『アイスですって?! ぽんぽん余裕余裕♪ まだまだ食べれますヨ~!』と、言っているのですが)
アイスクリームや甘いもの、自分の好きなモノは、入るところが違う。
そこでハッ! と気付いた。
(まさか、これが噂に聞く、あの!)
「別腹……というもの?」
ポツリと、呟いた。
そうだぁ、きっとそうなんだぁ! だから、食べれそうな気がするんだよぉ~! なるほど、なるほど~♪ 三日月は、うんうんと頷きながら一人納得。「いや、待って!」と、そこでまた我に返る。
「いーやっ! ダメダメッ」
パタパタしながら何やら悩んでいる三日月の姿に「一体、どうしたんだ?」と少し距離を取り遠目で、今度こそ不思議そうな顔で見ている太陽。その視線に気付き顔を上げると、ぱちりっ!! 二人は目が合った。
三日月の気持ち。
(あー、いけないイケナイ!! 食べたい気持ちが見つかっちゃう。ここは落ち着いて、冷静に考えないと!)に対して。
太陽の気持ちは。
(うん、なんだ? 今日は月の瞳キラキラしてんな。それに色が違う……髪のブロンドの輝きも光粒が舞ってるみたいだ)と、結局。見惚れてしまう。
そして三日月は、食べたい気持ちを隠し隠しでフフンッと答える。
「い、いくら何でも、食べ過ぎかなぁ~と思ってぇ」
なぜか得意気な表情で答えた三日月(自分でも何で得意気なのか? 意味不明)。
そして右手を前に出すと「もうやめときます!」の気持ちを(我慢とは言わず)猛アピール。
「へぇ、そうなのか~……」
すると太陽は「そうか、いらんのか~月にしちゃ珍しいこったなぁ……」と呟き、メルルとティルの所へ行く。そして「うまいかぁ? そうかそうか」ヨシヨシ~と頭を撫で、喜んでいる。
本当は食べたい気持ちが三日月の心に、渦巻く。
(でも! 我慢だよ、三日月ぃ……)
――これは、かなりの強敵ですよー!
頭の中で、いくつか現れた三日月の感情が『アイスクリーム』という素敵な食べ物を巡り「食べるか、食べないか」で争う。自分で自分にストップをかけ、心の中では相反する気持ちは戦いを続ける。
(うはぁ、この葛藤はツライよぉ)
「はぁぁ……」
思わず零れた、ふか~い溜息。
アイスクリームへの想いが溢れてしまった三日月。慌てて両手で口を押さえ、しまった! という表情。すると、それを見逃さなかった太陽は――。
「つ~き~、やっぱりお前って、ぶはっはは! おっもしろいよなぁ?」
と、大笑いをされる。
「うに~」
「あっはは、欲しいの顔に出てんぞ! 月ちゃんよぉ」
(で、でしょうねぇ……)
「だ、だって、だってね――」
「隠し事できねぇよなぁ、月はすぐ顔にでるからなっ」
お腹抱えて笑う太陽。つられてメルルとティルまで笑っている。
(もぉ! すっごい、笑われてるじゃん)
「む、昔からだもん。顔にでちゃうんだもんっ! しょうがないじゃん!!」
そして三日月は密かに、心の中で抗議していた。
顔は隠せない、思ったことがすぐに口から出てしまう。
(そう! これはお母様譲りの性格なんだ!)
プンプンな表情で太陽の方をチラッと、見る。すると「はいは~い」と優しく笑いながら頭をポンッ、宥められた。しかしまだ迷っている三日月の心に、太陽は甘ぁ~い言葉で最後の留目をさす。
「ほぉ~らほら、月ちゃん♪ 見てみろ、この店にあるアイスクリームはすごいんだぞ~」
「うぅ~……わぁ~はぁうっ♪」
(な、な、なんて美味しそうなのぉ!)
すると太陽は、店先のブラックボードに書いてあるメニュー表を見ながら、いくつか読み上げ始める。
「えーっとなになに? フムフム……契約農園で作られた特別な果物使用、んで~? こだわりのカカオで作ったチョコレート……おぉ!! 王国内では滅多に食べられない『高級アイス』だとよ~」
「えっ! ホント?」
(文化交流会だから、特別ってことなの!?)
「ぷっ……あっはは!」
「あっ、しまったぁーうぅ」
(また、気持ちが顔に出てしまったぁ)
「やっぱりお前は、隠し事できねぇな~」
可愛い奴だ! と頭をポンポンされながら、ボードの方を見る様に言われる。
「ぷん……」
少しだけぷいっとしながらも、言われるがまま。
そのアイスクリーム店のブラックボードを見つめる。するとそこに書いてある説明には、とても高級な材料を使用していること、本格的な味が楽しめること、などなど。興味をそそるキャッチコピーと可愛いイラストが描かれていた。
当然、三日月のキラキラ瞳は釘付けだ。
ずっと見ていくと、当店おすすめアイスクリームを見つける。
それが!
(にゃ、にゃんと! 濃厚ミルクいちごぉ~♪)
「い……ちごぉ」
その瞬間、三日月の瞳に映るイラストの濃厚ミルクいちごアイスクリームが輝いて見えた。
(んんーッもぉ!)
「た、太陽、くん……あの」
三日月の決意に満ち、紅潮した顔を確認した太陽は、にんまり。
「おぉ~よしよしっ! んじゃあ、これで決まりだな」
「うん! ……って、エッ!?」
気付いて振り返った時には、もう太陽は店の注文カウンター前にいた。




