48 文化交流会2日目~噴水広場~
「るーんるん、る~んるん♪」
「あっいすー、ア~イスッ♪」
短期戦となった仲良し三人の追いかけっこ大会。結局はお決まり、太陽の負けであえなく終了。
そして……。
「「買って買ってぇぇぇ!!」」
「仕方ねーなぁ」
約束していたわけではないが、メルルとティルのアイスクリームへの情熱に根負けしてしまい、しぶしぶ(?)太陽が買うこととなる。
だが彼の表情はなぜかとても嬉しそうで、双子ちゃんを優しく見つめながら、ほやっと幸せそうに笑っていた。
それを見ていた三日月は……。
「うっふふふ」
(うん! やっぱお兄ちゃんだねッ)
◇
カフェを出てから、五分程歩いた場所。
三日月たちは、今回の文化交流会で、氷菓店の多くが出店場所として使用している、噴水広場に来ていた。
此処では文化交流会二日目のみ、夜限定の素敵な催しが予定されている。中でも人気は、噴水周りのライトアップで、飾られた様々な色の電飾はリズムを取りながらキラキラと美しく……まるで星屑のように綺麗に煌めく。
◆
【噴水広場のお話】
『綺麗』の感じ方や表現は、それぞれに違う。
それでも見る者すべてを魅了するその“光”は、噴水から流れる“水”に溶け込み、まるで虹のような七色の輝きを放つ瞬間があると言われていた。その話題性もあり、ライトアップは毎年続けられている評判のイベントである。
そして、この噴水には神秘的な別話も語られていた。
――『虹色の光が星屑となる時、清らかで美しい【聖水】が湧き出るだろう』
これは王国に残る〔重要文化歴史書物〕に記された文面の一部だ。
噴水の流れは穏やかな時もあれば、激しく流れる時もある。不思議と変化を持つその場所の水は、まるで姿形を持つ“生きる泉”とも呼ばれていた。
歴史書では、噴水について他にこうも書かれている。
――『月の光が降り注ぐ、ある夜の奇跡。先の読めぬ水の流れと、その心に感じる事象の、安寧を願え。水面に浮かぶ、その月光の波紋は、いつしか未来を映し、それを叶えるであろう』
と、ルナガディア王国に伝わる伝説の場所にもなっているのだ。
“ずっと眺めていると分かる、この場所の噴水は同じ動きをしない”
その様は、精霊の力が関係しているのではないかとも噂され、またこの伝説については、ルナガディア国王直属の研究者たちによって長い年月をかけ調査されているが、しかし。結局詳しい事は解らないまま……未だに「ではないか?」という予測の域を抜けられず、真実の解明には至っていない。
◆
――――ザワザワ。ざわざわ~。
(知らない人がいっぱい。それに)
「いらっしゃいませ。許可証または、招待状のご提示をお願いします」
「あぁ、これでいいかい?」
「……確認しました、ありがとうございます。どうぞごゆっくりお楽しみ下さい」
(わぁ。許可証とかがいるんだ。それになんだか、すごいピリピリしてるよぅ)
周囲を見渡す、三日月。生徒記章を持っている彼女たちは呼び止められることなく、このような会話を横目に通り過ぎてゆく。
王国管理で有名なこの学園は普段、関係者以外は何人たりとも入ることは許されない。しかし毎年開催される文化交流会は、学園関係者や生徒以外でも参加できるという特別な日であり、そのため「このチャンスを逃すまい!」と、なんとルナガディア王国外からも多くの人が集まる(当然、生徒以外といっても事前に厳しい審査に通った許可証や、招待状を持つ者のみだ)。
理由の一つが此処、噴水広場にまつわるルナガディアの伝説。
これは王国のみならず、世界でも有名な話だが。
文化交流会の時期――噴水広場に現れるという【神秘の水精霊】の話。その精霊様に一度でいいからお目にかかりたいと、その奇跡を信じる同士が集まり、情報交換などで会話を弾ませる。しかし実際には、今まで誰一人として会えた事のない存在。それでもその一瞬だけを体験したく、わざわざ許可を取得し遠い地(王国外)からこの交流会へ来場するという者も、暗にいるという。
「「ふっっわはは~ん!! しゅごッ」」
噴水広場のある場所は、外から中が見えないよう広場全体に複雑な魔法がかけられていた。普通に見ているだけなら、輝く綺麗なドーム型テント。しかし、能力の高い者にならすぐに気付く程の強力な魔法が施されていた。
「ホント、すごぉい」
(さすがに……今日は……特に?)
その数少ない、“能力の高い者”の一人でもある三日月は、そこへ近付いただけで背筋ピーンッとなるほどの緊張感を肌で感じる。
「うん、厳重だぁ……」
そこには。
さすがの三日月でも解読不能な、最高上級魔法壁が、ドーム型のテント全体を覆い創られていた。
文化交流会の参加者であれば、誰でも自由に入れるとはいえ、外部の人間も多く立ち入る二日間。魔法壁を張っている理由は恐らく、王国で重要管理されている『噴水』の警備が一番の目的だろう。
とはいえ、表向きは来場者が楽しむための文化交流会。
学園側のおもてなしの心も、最高級である。
「わぁー、きれーい!」
ドームの入り口を飾るのは、青空と太陽の栄養をしっかり浴びた鮮やかな黄色で咲く、ひまわりの花。その大きなガーデンアーチは夏らしさと涼しさが演出されていた。それを見た瞬間に彼女の緊張はすぐに解け、期待に胸を弾ませながらガーデンアーチによるチェックをくぐり抜ける。
その先へ進むとすぐに、店がたくさん並ぶ場所へと出た。
(まるで夢の国に来たみたい)
ドーム内に作られた素敵な空間。そこには、なんとも幻想的な氷菓の世界が広がっていた。その雰囲気に、胸がときめいているのが自分でも分かる。三日月は珍しく嬉し楽しい感情が溢れ出し、キラッキラッに目を輝かせると、周りをキョロキョロと見渡す。
「ねぇねぇ、見て見てぇ! かき氷とかもあるよぉ!!」
メルルとティルのようにキャッキャと興奮気味にはしゃいだ彼女は思わず全力で太陽に飛びついた。しかしそれぐらいの衝撃で倒れはしない、ムキムキ腕のお兄ちゃん。
軽く肩を受け止めた優しい太陽は、いつも通りのにっこり笑顔で応える。
「おぉ、月……あぁ。そうだな、良かった、な」
(あれ? なんか、大人な感じ)
目が合うと一瞬、ドキッとした。
ドームの丸い形に偏光され当たっている、柔らかい光の反射のせいだろうか。
いつもなら深く濃い赤色の髪と瞳や力強い顔が、いつもより淡く、違うように見えたのだ。温かい、体温を感じるような穏やかな視線と感覚。それは何か言いたげな表情にも見えた。
(なんだろう? 少し、悲しそうにも見える)
初めて感じた空気に戸惑う三日月が瞬きを忘れるほどに考えていると、メルルとティルが「キャッキャー」と騒ぎ始め、その声でハッと我に返った。
「「アイスックリーム! シャーベット~♪」」
二人は今日一番の盛り上がり! ご機嫌で店のショーケースを眺めながら楽しそうに歌う。
「おぅおぅ、わ~かった」
「もぉ、二人ってば」
(あぁ~可愛い。ほんっと癒やしだぁ)
メルルとティルのおかげで、太陽の視線はすぐに双子ちゃんへと向いて通常通り。戸惑いを抱えた三日月の気持ちもまた、どこかへ飛んでいったのだった。




