47 文化交流会2日目~カフェの主催者~
「ぅぅあ……えと」
スイーツをたくさんお皿にのせていて恥ずかしいやら、さらに初対面の人に話しかけられての緊張もありで、三日月の顔は真っ赤になる。しかし答えなければ失礼になる。と、やっとの思いで返事をした。
「あっと、は、はい。こんなにたくさん食べて、い、良いのかなぁ~って思いますが……とても美味しく楽しいです」
実は三日月、お昼時にちょうど大会に出ていたため昼食を食べていなかった。ラフィールの部屋でもさすがに少ししか食べれずにいたのだ。そのせいか? 大好きな甘いスイーツがビックリするほどお腹に入る。もちろん! とても美味しいからというのは、言うまでもない。
店の主催者は、その反応を見ると笑いながら答えた。
「たくさん食べて頂けるのは、嬉しい限りですよ」
ビクッ。
――何だろう……何かちょっと怖いくらいに。
(その笑顔に、冷たい雰囲気が漂ってる気が)
少し気になる思いを引きずりつつ、慣れない会話と緊張で三日月は少し引きつった笑顔になっていると、突然!
「三日月様……ですよね?」
「は、ハイ」
「実は私も、先程の魔法アーチェリー大会に、参加しておりまして」
「え? そうだったのですね」
「えぇ! そうなんですよ!! いや~まさか、三日月様に私の主催するカフェでお会い出来るとは。その上こうしてお話することが出来るだなんて……はぁ〜なんと光栄でしょうか!」
「う、はぁ、ありがとうござ――」
先程までの爽やかな雰囲気はどこへやら。主催者生徒はどこかスイッチが入ったように勢いよく話し始めた。うぅ、と引いてしまう三日月……しかし『光栄』と言われお礼の言葉を言っている途中でも、主催者はそれを遮るぐらいに興奮気味なご様子で、次第に声を張り堰をきったように思いが溢れ出す。
「あぁ~忘れられないあの瞬間! いやぁ素晴らしい魔法で惚れ惚れして……それはもう大変感動いたしました。的への攻撃はもちろんですが、最後のユイリア様をお護りした時の素早い反応速度と的確な判断力。被害が出ないように何重にもかけられた数々の魔法と言ったら、もう本当に美しく――」
主催者は別人かという紅潮した顔で一人の世界に入り込み、言葉を発するたびにだんだん距離を詰めてくる。そんな風に自分のことを熱く語られるという慣れないシチュエーションに、三日月は持っていたスイーツを皿にポトリ、たじたじになっていった。
すると太陽が三日月の限界を感じ話を中断。
間に入り、それ以上近づけないよう椅子の横に立って話し始めた。
「やぁ~すまんがな、爽やかイケメン君。そろそろ……」
「――が、ハッ! あなたは……確か……(ボソボソ)」
「こいつのクラスメイト、友人だ。その大会後でよ、月はちーと疲れてんだ。今はゆっくり休憩させてやってくれんか?」
――いつもと違う、大人なトーンと口調。
この時だけでなく、いつも太陽は三日月やメルル・ティルを、側で見守っている。クラスメイトにもそうだが、周囲がピンチだと感じれば必ず気付き駆けつけ皆を助ける。
(やっぱり太陽君はお兄さんだぁ)
太陽に圧倒されたのか、少し冷や汗をかくような表情になった主催者生徒はササっと離れ、最初の“にこやか爽やか”な主催者に戻っていった。
「あぁ! そうですよねぇ、私としたことが!」
「いや、憧れるんは自由やし、想いを伝えるのも構わんが。ちょっと今は、な?」
(うーん? 太陽君、怒ってはいないけど……警戒心が半端ない)
「アフタヌーンティーのお邪魔をしてしまいましたね。お客様ですのに配慮が足りず、すみませんでした」
深く頭を下げ、笑顔で謝罪。三日月は慌てて、いえいえーと両手を振った。
そして主催者はチラッと太陽を見据え、目を合わせる。
(んにゃー!? 主催者さんも鋭い目つきで、今までにない緊張感がぁ!)
「いや、いいんだが。他のテーブルへ挨拶もあるだろうと思ってな」
「えぇ、仰る通りで。お気遣いありがとうございます」
主催者生徒は他のテーブルへと向かう。
その去り際、三日月の後ろをわざわざ通ると、囁くような声で一言。
『――この“お礼”は、改めて』
「ぇ……」
(今、何か言って……?)
ふいに驚き、振り返った三日月。
その爽やかイケメン主催者は蜜柑色の髪をなびかせ隠れた横顔で、ニコリと笑んだように見えた。
「どうした? 月」
「ふぇ? んーん、何でもない……」
「そう、か」
――さっき『お礼』って聞こえた気が。
(わたし、感謝されるようなこと、何もしてないのだけど)
大会で一緒だったとしても、三日月はユイリア以外の参加者とは話していない。思い当たるとすれば、心の声を精霊たちに運んでもらったりはしたが。今が初対面だった相手に、お礼を言われるほどのことだろうか? 一体どういう意味なのだろうと少し靄がかかった気分に違和感を感じる。
(ま、いっか!)
「さぁ、食べよぉー♫」
「「おぉー!!」」
視えない一抹の不安。
疑問にも似た思いを抱えつつ、気にしすぎは自分の悪い癖だと、何もないのだと自分に言い聞かせながらスイーツを一口。うん、美味しいと気分を変えると、助けてくれた太陽に話しかけた。
「太陽君、ありがと」
「ん? あぁ、うん」
「どうか、したの?」
「いや、何もないぞ~気にすんな!」
そう言うといつも通りの太陽に戻り、ニカッと白い歯を見せて笑う。
(うーん、なんだか変だ)
不思議に思う気分を上乗せ、残りの素敵なお菓子を食べ始める。そうしているうちに結局、三日月の心はお菓子の世界へと誘われ、モグモグと幸せそうに全部食べてしまった。
「はぁう~幸せだぁ」
――色々と気になることもあったけど。
(『三日月ちゃんは美味しいスイーツを心ゆくまで堪能しました』とさ!)
「うっふふ♪」
「どちたのぉーつっきぃ?」
「どったのぉーちゅきぃ?」
「ん~? なぁんでもない!」
(物語風に、気持ちを表現してみました! 美味しいおやつを食べて、ご機嫌なわたしですよ)
甘いものをあまり食べない太陽は、三日月たちがキャッキャッとはしゃいでいる側で、嫌な顔ひとつせずに付き合い、優しく穏やかに見守っている。
ゆっくりとデザートを楽しみ「このお店に入って良かったね」と、スイーツビュッフェの店を出た。それはそれは結構な量の、たくさんのスイーツを食べた双子ちゃん。しかしその二人がこの後、驚きの言葉を口にする。
「あぁ~っ♪」「いぃ~っ♪」
(んっ、新作のお歌でしょうか?)
「「あい、あい、アイスックリーム~♪」」
(えっ、えー? まさかッ)
「ま、まだ、食べるのぉー?!」
メルルとティルの食欲はいつもスゴイ。
「ちょっとお二人さん、もう食べれないです」と、そういった場面は、しばしば。
しかも今、目の前にある出店のほとんどはメルルとティルの大好物、あま~いスイーツの店ばかりが並ぶ。
甘いものは美味しくて、止まらなくなる。
(それは、分かるのだけれどぉ……)
あれだけ食べたのに、すごいネェ。と他人事のような三日月だが、しかし。
その誘惑に……。
(確かに。アイスも食べたいかもぉ~)
さすがの太陽も、驚いた様子。
「おいおいメル・ティル。さすがにそりゃ食べ過ぎやろう?! お腹壊すぞ」
「だいじょぶだもーん!」
「だいじょぶももーん!」
「ほぉ……腹痛いって言っても俺は知らんぞ~?」
「「あっかんべー!!」」
「おーっとお二人さん? 『べー!』とか、していいのかー」
「「にゃっはーきゃっはー♪ 逃げろぉ」」
(あれれ、お決まりの〜始まったぁ?)
この三人を見ていると、本当にいつも楽しくて笑い、仲良くわいわいと騒いでいる。そんないつもの日常風景。
――こんな平和な日々が、ずーっと続くといいのになぁ。
そんな何気ないことを考えながら三人の追いかけっこを、三日月は笑い見ていたのだった。




