46 文化交流会2日目~スイーツ~
出店が並ぶメイン広場へ戻ってきた仲良し四人。
昨日から今日にかけ色々あったが、不安だった魔法勝負の大会も無事に終わり、やっと楽しめそうだと微笑む三日月。だがさすがに今日は体力使ったなと、歩く速度は普段よりも遅くなる。
そんな疲れた身体に甘いものが欲しいという気分に思わず「お菓子食べたいなぁ〜」呟く。
するとウキウキ浮かれた声が、彼女の耳に入ってきた。
「「にゃっはぁーんッ」」
「わぁ~!」
たくさんのスイーツが並ぶエリアを目の前に、メルルとティルは大はしゃぎ。三日月も嬉しくなり満面の笑みで応える。
「「迷う迷うにゅー♪」」
「ほぉーんと、美味しそう……」
まだ三人とも一口も食べていないのに、見ているだけでも幸せいっぱいキラキラの瞳で店を見つめる。
「つっきぃっきードコ行く〜」
「ちゅっきぃーなにたべる〜」
「ねぇーどうしようかぁ……太陽くんどこがいーい?」
「ん? 今日は月が頑張った日だろ。お前が決めていいんやぞ」
「えーやったぁ♫ ありがとう」
高級フルーツを使用した、生クリームたっぷりのクレープに、気温が上がってきた今の時期にぴったりの、ひんやり冷たいジュレ。お部屋に飾っておきたいくらいに可愛いプチサイズのスイーツに、様々なデザインで作られた美しいデコレーションケーキ……などなど。
素敵なお菓子の数々になかなか決められず、すっかり目移りしてしまう。
それから数分後――。
「うん、ココにするっ!」
「おーいいじゃん、よっしゃ! 席も空いてるな、早速行こうぜ」
「「おぉーッ♪♪」」
三日月はいくつかあるスイーツ店の中から迷いに迷って、ようやく決定。
選んだのは一般クラス生徒主催『スイーツビュッフェ』のカフェで、そこでスイーツ時間を満喫することにした。
「「おいちぃーのくーだたいっ♪」」
「もうメル・ティルってば……でもわたしも。食べる前からすでにワクワクが止まらないー♪」
「あぁ、そうだな。良かったな……ふふっ」
(月は好きな食べ物となると、周りが笑顔になるくらい幸せな顔すんだよな)
三日月の心の声が聞けるのは、いつものことだが、もちろん太陽は心の声を漏らしたりはしない。ただ幸せそうな彼女の様子にクスッと笑ってしまうだけだ。
「いらっしゃいませ〜。さぁ、どうぞ。こちらでお好きなだけお取り頂き、お召し上がり下さい」
店員にそう言われ取り皿を手渡される。
一枚の白く大きなビュッフェプレート。それに大好きなスイーツを、取り並べていく。思う存分楽しめるように準備された豊富な種類のお菓子たちを、自分の好みで盛り付けられるのもこの店を選んだ決め手の一つだ。
三日月は、美しい薔薇の形をした和菓子がとても気に入り、まぁるいお皿に綺麗に並べる。思い通りに出来上がると「芸術だ!」と一人で満足して喜んだ。
自分の世界に集中していた彼女はふと、周囲にいた生徒が皆驚きざわついているのに気が付いた。
(みんな、どうしたのかな?)
視線の集まる先を辿ってみると――ッ!
「えぇぇー!?」
「メル・ティル……全部食べるの? だ、大丈夫?」
「んに? だーじょぶだーじょぶ」
「にゃ? でーじょぶでーじょぶ」
なんと双子ちゃんは、溢れんばかりのお菓子を絶妙なバランスでプレートに乗せご満悦。今にも落ちそうなお菓子をなぜか軽やかに運ぶ二人の姿を見ていた生徒たちは「それは取りすぎでしょ!」と、驚きはいつの間にか笑いに変わる。
(まぁ、全部食べたい気持ちは……)
「すごぉーく、分かるけどねぇ。ふふっ」
ここのカフェの魅力をメルルとティルはまるで紹介するかのように、チョコレートや焼き菓子、飲み物などなど、100種類以上のスウィーツをほぼすべて乗せてきていた。
「おー戻ってきたか。ずいぶん沢山……ってか、いぃっ!? ちょっちょっお二人さんよぉ、取り過ぎじゃあないですかい?」
「「ふつーふつー」」
「ぐは、すげぇな……食べれるのか?」
「「グッ! (キラーん)――まかしといてくれニャ!」」
「あ、そっすか」
(さては、盛れるだけ盛ってきたな……メルルちゃん、ティルちゃん)
片手に飲み物だけを持ち待っていた太陽は、双子ちゃんの底知れぬ食欲に苦笑しながら歩き出す。
思い思いのスイーツを取り終えた三日月と双子ちゃんは、太陽から「どこの席が良いか」と聞かれ、こんな素敵な場所で豪華なおやつを食べるなんて機会、そうそうない! とちょっぴり気取り、おしゃれなガラステーブルの置かれたテラス席を選んだ。
「はぁ~おいしそ」
「「いっただきまぁーちゅ」」
“カーン、カーン…………”
(あぁ、もう夕方か。早いな)
ちょうどその頃――午後四時を知らせる鐘の音が彼の耳に響き聞こえてきた。
「三人とも、あんまり食べ過ぎんなよ」
そう言いながら笑った太陽は、広い視野で自分たちの周囲を観察していると、ある一点で止まる。それは鐘を合図にお店の奥から出てきたこのカフェの主催者(生徒)に、少し違和感を感じたからである。
(あいつ、なーんか引っかかるな)
「スイーツって、見ているだけでも幸せ~♪」
「「んん~! おーいちぃ♪」」
横では鐘の音なんて聞いていない(聞こえていない)、お菓子に見惚れ自分の世界に浸っている三日月と、モグモグうまうま食べ続ける可愛い双子ちゃん。そんな三人を守るように、太陽は無意識に身構えてしまう。
テーブル挨拶を始めた主催者は、程なくして三日月たちのいる席にも回ってきた。
「いらっしゃいませ、当店のスイーツはお気に召しましたか?」
「――っ!」
「んにゃ?」「んにゅ?」
(おぉ、俺らのテーブルにも来たんか)
警戒する太陽は鋭い眼差しで相手の様子を窺う。そんな視線を知ってか知らずか、主催者はにこやかに、そして爽やかに三日月へと声をかけてきたのだった。




