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星と月の願いごと  作者: 菜乃ひめ可
【学園編】第二・五章 文化交流会(魔法勝負後)
56/84

45 文化交流会2日目~ティアと太陽&月~



「「ぷっは~う!!」」


「おいしかったにゅー」

「次はおやつたべるん♪」


 美味しい食べ物を頂いた後の、メルルとティルはとってもご機嫌♪


「「ルンルン、はっやく行こうぉ~♪」」


 二人は、部屋の前に置いてある水晶猫の頭や耳をヨシヨシしながら待っていた。


「妖精様……本日は本当にありがとうございます。ラフィール先生にも、宜しくお伝え下さい!」


 そう言うと太陽は、深々とお辞儀をしていた。


(太陽君の言う()()()とは、バスティアートさんの事です、ハイ)


 綺麗に背筋を伸ばし、腰から頭にかけて一直線に腰を曲げ直角。その、あまりにも美しい最敬礼を見た三日月は、ぽやぁ~んと薄く微笑む。


――礼儀作法やマナーが、()()すぎる。


 三日月も一般の民間人だが、両親が王国任命である【守人】の役目を担っているせいか、上流階級と同じくらいの作法を学んでいる(そもそもある程度は出来ていないと、この学園には入れないのだ)。


(入学の為? いやいや、それを考慮したとしても太陽君はそのへんのお坊ちゃまよりも、しっかりしていて……)


「なんていうか、()()が良すぎるのだよ〜」

 少し首を傾げながらボソッと呟く。


 歳上だからだろうか? いや、歳を聞くまでは気にもならなかったし、多少は落ち着いていたが双子ちゃんとの追いかけっこや……それだけでもない感じでもないけれど。と、色々考えつくことをポンポンと頭に浮かべてみる。


(あっ、太陽君のご両親が厳格なのかも?)


 一年と少し、この学園で太陽と一緒に学んできた三日月が、今更ながら気になり始めたこと。


(そういえば、年齢もだったけれど、お互いの生まれ故郷とか、ご家族のこととか……太陽君と話した事なかったなぁ)


 そこで初めて三日月は思う。


――太陽君って、どういう人なんだろう?


 彼の素性に少し興味が湧いてきてしまった三日月。そんなことを考えていれば無意識に太陽の顔をじーっと見ていた。すると部屋を出て頭を上げた太陽と、バッチリ目が合ってしまう。


「んきゅ――ッ!」

「あ、『んキュ』って。何だそりゃ……どうした?」

「えっ、えーなにそれ。エヘッ!」

「おい、月。お前なんか怪しいが」

「えっへへ~……」


(隠し事してんな~的な視線でで睨まれてしまったぁー! あは)


「まぁいいけどよ。今日は不思議なことばっかだぜ」


 そう言いながらメルルとティルに笑いかける太陽。


 そんな彼が部屋を出る際に見せたいつもとは違った真剣な姿と表情、そして誠心誠意の言葉。それを聞いていたバスティアートは話さずに丁寧なお辞儀、笑顔だけで太陽のお礼に応えていた。


(それにしても……ちょっとだけ大変だったかも?)


 三日月がそう思うのにはちょっとした理由があり、それは彼の“精霊感知能力”のレベルが主に関係している。



 実は太陽――精霊の存在(光)は見えるが、話をすることが出来ない。バスティアートは妖精だが、ラフィールの持つ能力のおかげで人の姿を周囲が認識できるようにしてある。しかし残念なことに、今の太陽が持つレベルでは、妖精の声は聴くことが出来ない。


 太陽は今回初めて妖精との対面を果たしたが、そのことに気付かされることとなり、がっくりと肩を落としてしまったのだ。


 せっかくのお茶会。

 その様子を見かねた三日月が間に入り、太陽とバスティアートが会話をする時には通訳の役割を担う形となったが結果、皆で仲良く会話を楽しみ過ごすことが出来た。


(まぁ、終わりよければ♪)


 その後、太陽も入り口にある水晶猫を、メルル、ティルと一緒になり「可愛いなぁ~こりゃ水晶だろ。すげぇ……癒されるよなぁ」と惚れ惚れしたように言いながら撫でている。


(みなさ~ん、その水晶猫さんはバスティアートさんが光に戻った時のお家なんですよぉ♪)


 と、三日月は自分だけが知る秘密のように、心の中で自慢気に呟きながらウフッと笑う。それからすぐ彼女も挨拶をして部屋を出ようと挨拶を始めた。



「バスティアートさん。大会前の優しい応援、本当にありがとうございました。朝に贈ってくれた優しい温かな癒しが、きっと最後の攻撃する力を助けてくれたのだと思います」


『身に余るお言葉、光栄に存じます』


 三日月からの感謝の気持ちを受け取ったバスティアートは瞳をキラキラさせて丁寧な口調で答えた。そんな堅めな挨拶に不慣れな三日月は、恥ずかしそうにする。


「そんな、かしこまらないでください」


『いえ、そういう訳には参りません。月様は、私共にとって大切なお方ですので』


――『大切』だなんて。


「ありがとうございます。何だか恥ずかしいのですが……あの、バスティアートさん。今日は何度もお邪魔してすみません。また会いに来ますね!」


『はいっ、お待ち申し上げております』


 部屋を出た三日月。だが実はもう一つ伝えたいことがあった。扉の前で振り返り、バスティアートと向かい合う。


「あの、もし良かったら」


『月様、どうなさいましたか?』


 変わらず笑顔で返事をしたバスティアートに、三日月はすぅ~はぁ~、と深呼吸。勇気を出して思いを伝えた。


「わたしと、お友達になってもらえませんか?」


 するとそれを聞いた彼女は、可愛いおめめをまぁるくして、三日月のことをしばらく見つめていた。淡いベビーピンクの長い髪がキラキラと金色の光を放ちながら、周りの精霊たちと舞い上がる。それは彼女なりの喜びの表れだった。


『なんと言えば良いのか……感激です』


「いえ、そんな大げさです」


『ありがとうございます。でも、とても嬉しかったので』


 ふにゃ~っとした表情で、嬉しそうにニッコリ笑うバスティアートの周りは眩い光で包まれてゆく。


(伝えて、良かった)

「わたしも! すごく嬉しいです」


 その思いはラフィールにお願いされたからではなく、彼女自身も心の底からこれからずっと仲良くしたいと思ったからだ。満面の笑みで「では、またぁ」と一礼した三日月を今度はバスティアートが小さな声で呼び止めた。


『あの、私のこと……月様さえよろしければ【ティア】とお呼び下さいませ』


「えっ、いいのですか?!」


『はい。ぜひ、月様にはラフィール様と同じように、私を愛称で呼んでいただきたい。そう思うのです』


 恥ずかしそうに、気持ちを伝えるバスティアートの頬は、桃のように可愛くピンク色に染まる。


(にゃあ~なんて可愛いのぉ!!)


「あ、えと。わたしのことも……よければ【月】って呼んでほしいです!」


『えっ! そのようなこと。私などが……お呼びしてよろしいのですか?』


「もちろんです! ぜひそう呼んでください」


 二人の間に癒しの空気が広がり、手を取り合うほんわかな二人はどこか似た感覚を持っているようにも感じる。そしてお互い頬を赤く染めながら「よろしくお願いします」と改めて伝えあった。


「ティア、また会いに、遊びに来ますね!」


『はい、月。お待ちしています』



 再びゆっくりと動き出した、七月七日。

 三日月の前には、変わらず明るい笑顔で待っていてくれたメルルとティル、そして太陽の姿がある。


「みんなぁ、お待たせ」


「まってないにょ~ん」「お話もーいいにょ?」


(『にょ~』なのね。毎回違う語尾に、笑っちゃうよぉ)


「もう、いいのか?」

 太陽も珍しく、真面目な顔で聞いていた。


「うん! 大丈夫」


「身体だよ。もう、動いていいんか」


(心配……してるのかな。そうだよね、倒れちゃったんだもん)


「うん、もう平気! 元気いーっぱいだよ♪」


 笑顔で答える三日月を、太陽は少しだけ眉を下げた笑みでクシャクシャと頭を撫でた。


「うーにゃー! もぉ」


 頬をぷくぅーっと膨らまして顔を上げると、悪戯な表情でニカッと白い歯を見せたいつもの太陽が彼女を見つめている。


(太陽くんは、本当に優しいなぁ)


「おっし、行くか」

「うんっ!」



 キャッキャと言い先に行く双子ちゃんを追いかける三日月を、兄のように見守る太陽はふとラフィールの部屋へと振り返った。


(妖精バスティアート様。いつかあなたと、自分の言葉と耳で話が出来るよう精進します)



『……♪ (笑顔)』

 目が合ったバスティアートは真っ白な美しい手のひらをふわふわっと振り、太陽に笑む。


「――あぁッ! では、失礼します!!」

 慌てて深々とお辞儀をした太陽は三人を追いかける。



(ありがとうございます、月……そして、太陽様も)

『皆様のご多幸をお祈りいたします』



 日々の安全と無事を祈るバスティアートは、この日仲良くなった友達四人の楽しそうに文化交流会の会場へ戻っていく姿が見えなくなるまで、ずっと手を振り見送っていた。



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― 新着の感想 ―
バスティアートとも友達になれて良かったですね。 引っ込み思案だった三日月ちゃんが徐々に人に慣れていくのはとてもいいですね〜。 ヾ(・ω・*)ノ
ここまで読ませていただきました。妖精のバスティアート、太陽や三日月と仲良くなりましたね。三日月が太陽のことを考えたり、見つめたりするようになっていく様子もとても印象的でした。 お茶会も楽しく終わって…
ああ!! 本当にニコニコ ほっこりいたしました(#^.^#)
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