44 文化交流会2日目~謎~
ラフィールの部屋で始まった、素敵で楽しいお茶会(?)は、お疲れ様でしたと皆でわいわい♪ 美味しいサンドイッチやスコーンを頂きながら盛り上がる。
しばらくすると、太陽が口を開いた。
「いやぁーしっかしだ。本当にお疲れさんやったな、月! あの弓と矢? すげぇ光で、遠くにいた俺たちのところまで届く輝きが……なんていうか、ありゃ表現しようがないんだが……うん! とにかくすごかったぜ」
「「ふみゃー! しゅごーかたのだぁぁ!!」」
興奮気味に話す太陽に、三日月は恥ずかしいとはにかみ嬉しそうにする。メルルとティルはここがどこであろうが通常運転、ウキャウキャ~と嬉しそうに走り回っていた。
「ありがと。さすがに今回は、いっぱい頑張ったかなぁー」
(…………♪♪)
「えー! ティアも褒めてくれるのぉ?! うわぁ~い嬉しい、ありがとぉー」
――ぎゅーッ!
「「あぁぁぁーッ! ぶぅー!」」
手を取り合う三日月とバスティアートにヤキモチを焼く双子ちゃん。
「ぎゅ〜いいなぁ! メルルもぉ」
「いいないいなぁ! ティルもぉ」
「えぇーワタシ、モテモテ?」
「ほぉ? そりゃどう――ん?」
「「にゃはははぁ、つきチュキー♪」」
「はは、だとよ! モテモテみたいだな、月」
「んきゃー!? ま、待ってぇ二人ともぉー! わたし潰れちゃ……ぅぅぅ」
「「やぁーめにゃ~い」」
メルルとティルの抱きつきギュッギュのひゃっほーぶりも相まって次第に緊張が解れてきた太陽は、いつものように冗談を言う。
(それにしても、先生のお部屋って本当に不思議。自然体で、笑顔になれる場所だなぁ)
――みんながのんびり幸せな時間を感じているのが分かる。
三日月が微笑みそんなことを考えていると、ラフィールが口を開く。
「ふっふふ! 楽しそうで何より、私も嬉しいですねぇ。おやさて! ではでは皆さんは、しばらくここでゆっくり羽を休めてから交流会に戻ると良いですよ」
「え? あ、先生……」
ラフィールはニコリと笑いながら「すみません、これから用事があるので失礼しますね~」と、扉へ向かってゆく。それを三日月は慌てて追いかけ、呼び止めた。
「あの! ラフィール先生」
「おやおや月さん、どうかしましたか」
「今日は朝早くから、本当にありがとうございました」
思いっきりペコリな感謝の気持ちを込めた三日月のお辞儀に、一瞬フッと微笑ましい笑顔を見せたラフィールはその思いに応える。
「いいのですよ。皆、本当にお利口さんで先生は嬉しいです。気を使うことはありません、いつでも私を頼ってくださいね」
「はい、ありが……」
“ふわあっ”
『それに――こちらこそ、三日月様。お約束を叶え、皆の命を護って下さり……また“奇跡”の瞬間を見せて頂き、ありがとうございます』
「お約、束……って?」
囁き声のラフィールは三日月の側へ寄り、左手を前に当てると片膝をつき優雅にお辞儀をする。
――それはまるで、主に仕え忠誠を誓う者のように。
ドキッ。
(なんだろう。この感覚……)
痛いくらいに鼓動が早くなる。
自分の中で何か変化が起こっているのだと感じた彼女だが、すぐ我に返り慌てた。
「な、な、どうしたのですか先生!? 膝ついたりなんて、おやめくださいー! おぉ、恐れ多いで……ござまりまするですー!!」
ラフィールは顔を上げ優しく笑むと、飛ぶように立ち上がる。その姿はやはり気品溢れ見惚れる程の優雅さだ。
しかし、扉へ振り返ったその表情は、重く固い。
「ティア、後はよろしくお願いしますよ」
『はい、承知いたしました』
ラフィールは三日月の問いには何も答えず、幸せな精霊の舞う自分の部屋を風のように去っていった。
『では、皆様! どうぞごゆっくりおくつろぎくださいね』
その場を任されたバスティアートの言葉に甘え、それから三十分程、三日月たちはお茶会を楽しんだ。久しぶりにゆっくりと話もでき大満足な四人と、今日はバスティアートも一緒に笑いながら仲良く過ごした。
「はぁ~、楽しかったぁ!」
「あぁ、すげー有意義に過ごさせてもらったよ。こりゃ、月に感謝だな!」
ありがとよ~と、太陽がニカっと笑いながら三日月の頭をポンっ。
「え? わたし? どう、いたし、まして?」
「ははっ! だってよ、お前が頑張ったから、ラフィール先生は皆が楽しいって喜ぶ時間を準備してくれたんだろ?」
「え、そうかな? そうなの、かな。えへへ」
(そいえば、さっきの先生、少し雰囲気が違ったような。どうしたんだろう)
三日月は初めて見たラフィールの研ぎ澄まされた視線やいつも以上に締まった表情。自分に対してなぜか低めた姿勢を、改めて思い起こし無意識に首を傾げる。
「うん……これは、謎だ」
「どうした、月?」
「ふぇっ? あーぁえー、なんでもないよーえっへへへ……ゴッホん」
彼女が不思議顔を慌てて隠す仕草に気になりつつも「そうか」と太陽は笑いかける。そんなやりとりを知ってか知らずか、メルルとティルが次の行き先を話し始めた。
「「ねぇねぇ、お外行こう♪」」
「おぉー、んだな! そろそろ交流会戻んねぇとなー」
――あれ? そういえば。
三日月には、ラフィールの変わった様子の他に、もう一つ気になることがあった。それは最近、いつも自分の傍で見守っていてくれている人物がこの場に――。
「……いない」
周りに聞こえない声でそう、ぽつりと呟く。
――どうしてかな? 意味もなく不安になってきちゃった。
(ホシサマハ、ドコヘイッタノダロウ?)
そう。
思っていたよりも彼のことが、三日月の中で大きな存在となっているのだった。




